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新しい地を求めて/イルメリン・S・リリウス

[トッレ王物語1]新しい地を求めて
イルメリン・S・リリウス

My評価★★★

訳:山口卓文
カバー画・挿画:イルメリン・S・リリウス
福武書店(1988年10月)[廃版]
ISBN4-8288-1339-X 【Amazon
原題:Kung Tulle Om grundandet av Tulavall(1972)


父王の亡くなったあと末弟トッレ少年は、2人の異母兄によって故郷シッガ谷を追い出された。トッレは12頭のヤギを連れて放浪した後、海辺の土地に辿り着く。その土地を「トッレボルグ」と名付け、自分はトッレ王と名乗ることにした。
王といってもトッレ以外に人は住んでおらず、財産といえばヤギのみ。

トッレの兄たちは、トッレを殺害してヤギを連れ戻そうと刺客を送り込む。トッレは刺客を倒してヤギを守る。そこへ幼い頃に世話をしてくれた老婆ハルバと、老人ホーバルがやって来た。
二人の兄たちがによって送り込まれた兵士たの中から、トッレに仕える者も現われ、次第にトッレボルクは大きくなっていく。
トッレボルグの周辺にはトロールたちが住んでいて、人間を滅ばそうと襲撃して来たが、トッレたちは無事に退治して国に平和をもたらす。

青年となったトッレは、森で不思議な老人と出会う。その老人の娘リビーテを嫁に迎えることになるが、リビーテは不思議な姿と力を持っていた。
二人は仲睦まじく、争いのない平和な王国を治める。トッレはリビーテのおかげで名剣スラグサを手に入れる。

トッレはシッガ谷の王位を狙う2番目の兄ボルク王の策略によって、長兄スタイヌルフ王を討伐する羽目に陥る。
ボルク王の企ては失敗し、トッレは兄と争わずにすんだ。だが傷を追い、完治した後、南の国からやって来た男ビンナブを連れて、トッレボルグへ戻ろうとする。だが雪解け水や流氷などでボートが流され、トッレたちは漂流してしまう。

********************

イルメリン・サンドマン・リリウスはフィンランドの女流作家。この作品の挿画も描いています。絵も巧いです。
北欧の中世初頭の雰囲気を湛えた叙事詩的な物語。穏やかな文体は、炉辺での語りが似合いそう。

少年トッレがシッガ谷を出奔してから、異母兄たちとの争いに終止符が打たれるまでの約20年間が書かれています。
はじめはトッレ王に焦点を当てた血沸き肉踊る英雄物語かと思いましたが、ちょっと違いました。トッレは血を流す争いは嫌いなんですよ。
英雄物語ではなく、詩的で幻想的なエピソードを綴った歴史絵巻と言うか、トッレボルグ年代記といった感がありました。
トッレ王を主人公としているけれども、作者はトッレボルグという国を描きたかったのではないでしょうか。

トロールや、魔女のような知識をもつ老婆ハルバ。森の不思議な種族リピーテ、彼女と森との交信・・・。これらは中世的な世界を思わます。
ですが一方で、名剣スラグサの元となった鉄の森の鳥、南の国の男ビンナブが語る国の話など、シッガ谷やトッレボルクとは別に、科学の発達した国の存在を匂わせています。まるっきりの中世ではないファンタジー。
いちばん不思議なのはビンナブで、彼はいったいどんな国、あるいはどんな時代からきたのかな。ビンナブの語る物語は現代のようでもあり、未来のようでもあるんです。あるいは別な星の出来事のようにも感じられました。(2003/6/3)

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時計はとまらない/フィリップ・プルマン

時計はとまらない
フィリップ・プルマン

My評価★★★☆

訳:西田紀子
カバー画・挿画:ピーター・ベイリー
偕成社(1998年10月)
ISBN4-03-700040-7 【Amazon
原題:Clockwork or All wound up(1996)


まだ電気も自動車もなかったころのお話。
ドイツの小さな町の酒場『ホワイト・ホース亭』の客たちは、作家のフリッツ青年が自作の物語を読み聞かせてくれるのを心待ちにしていた。 だが、時計職人の見習い工カールは隅で陰気な顔をしていた。
明日はカールの見習い期間が明ける。見習いはその期間の終わりに、ゼンマイ仕掛けの人形を作って、グロッケンハイムの大時計に据え付けるのが慣わしになっている。しかしカールは人形を作れなかった・・・。

フリッツの物語は、オットー大公と幼いフロリアン王子の話だった。
大公は王子を連れて、友人の男爵と狩りに出かけたのだが、帰ってきたのは大公と王子のみ。しかし大公の様子がおかしい。
実は大公は王子のことで、内密にカルメニウス博士に会うため出かけたのだった。 カルメニウス博士はヨーロッパ一頭がよく、ゼンマイ仕掛けを作る腕前にかけては右に出る者がいないという。だが、その顔は残酷な好奇心に満ちていた・・・。

そのとき、ホワイト・ホース亭に一人のお客が現れた!
みんなはいっせいに酒場を退散。男は一人残っているカールに、ある事をもちかける。カールは男の提案を受け入れ、早速準備にかかるために店を飛び出した。
酒場の主人の娘で幼いグレーテルは、ロリアン王子のことがかわいそうで気になって眠れなかった。幼いグレーテルが店のストーブで暖をとっていると!?

********************

一度語り始められた物語は、語り手を離れても結末まで突き進むしかない。しかし、いったい誰がどうやって物語を終わらせるのか?
ネタバレになるのであまり書けないのですが、スリルとサスペンス、そしてやや怪奇小説風な不気味さに彩られています。中篇というぐらいの長さの作品ではあるけぞ、グイグイと読ませてくれました。プルマンは物語の作り方、物語の進め方が巧いですね。
一瞬「メタ仕掛けか?」と思わせつつ、そうならないところは昔話を意識してのことかも。あるいは読者層を意識してのことか。

たぶん18世紀ごろのドイツを舞台にしているんじゃないかな。でも、時代と場所にこだわらない書き方をしています。ドイツの昔話によくありそうな話をベースにし踏襲つつも、古めかしさを感じさせない現代的な作品。
ドイツの昔話などは、結局のところ神と悪魔という神秘主義的色彩の濃い話になってしまうことがあるけど、プルマンの場合は特定の信仰心を抜いて、あくまでも人間の物語としています。悪魔という宗教的存在を意識させない。そこが昔話との違いかな。
しかしカルメニウス博士とそのゼンマイ仕掛けの謎など、不可思議あるいは神秘的な部分は残されます。幾分かの謎が残されているからこそ、昔話は語り継がれてゆく。そうした点を意識した上で現代的に語り直した作品、と私は受け止めました。(2004/9/17)

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The Wreckers 呪われた航海/イアン・ローレンス

The Wreckers 呪われた航海
イアン・ローレンス

My評価★★★☆

訳:三辺律子
理論社(2001年9月)
ISBN4-652-07703-3 【Amazon
原題:The Wreckers(1998)


貿易商の父親に付いて、父が所有する船で初めて海へ出た少年ジョン。だが船は嵐に遭い、見知らぬ島からの信号灯を頼りに、寄航しようとして難破する。
辛くも生き残ったジョンは、浜でクルーが見知らぬ男たちに殺害されるところを目撃。そして父親が生きて囚われていることを知る。
ジョンはサイモン・モーガンという男に助けられ、彼の屋敷に連れて行かれる。

作物の育たない島は貧しく、村人は難破船からの積み荷で生計を立てていた。そういった人たちを「レッカー」と呼ぶ。法律では、難破船の漂流物は見つけた人のものになる。しかし一人でも生残者がいた場合、積み荷はすべて生残者のものとなり、村人の取り分はない。
ジョンは嵐の夜の信号灯は、誰かが意図的に船を難破させようとしたニセの信号灯だった確信している。だが、誰がニセの信号灯を点したのかがわからない。
モーガンの姪メアリーは、村人たちに恐ろしいことをやめさせたいと願う。
嵐の夜、新たに犠牲となる船がやって来た。村人たちは総出で浜辺へと向う。

********************

18世紀末のイギリス・コーンウォールを背景にしたレッカーたちとその島での、スリリングな冒険小説。漂着物によって利益を得る権利を認められている人々。貧しい島ではこの利益は大きい。
しかし嵐というものはいつ起こるのかわからない。さらには必ずしも難破するとは限らない。そこで村人はたちは残虐な行為に走り、次第にエスカレートしてしまう。ジョンが漂着したのは、そんな島。

ジョンは父親を助け出して村から脱出できるか。レッカーたちの頭目は誰か、そして阻止できるのか。モーガンの過去と行動の謎とは?モーガンはジョンたちの船の積み荷について詰問する。 どうやら積み荷には不正があるらしいのだが、積み荷は一体何だったのか?
複数の謎が絡み合い、ときには挫けそうになりながらも立ち向かうジョン、そしてメアリー。不気味な人物らが登場し、ジョンは父を救出しようとしながら真相を探る。彼らと対決するなかで試練にあうジョンは人間として成長するんです。

昨今の心の悩みや痛みなどの共感を得ようとする児童文学が多いなかでは、ダークではあるけれど珍しくストレートな冒険小説だと思います。
読後に気持ちを掻き乱すような小説にちょっと飽きていたので、こういった心理的に負担をかけずに読める小説もいいですね。
ラスト近くの父親の姿は類型的だなぁとは思うけれど、物語を読む愉しみを味わえました。(2002/10/20)

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