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みどりの魔法の城/ルーシー・M・ボストン

みどりの魔法の城
ルーシィ・ボストン(ルーシー・M・ボストン)

My評価★★★☆

訳:定松正
挿画:マージョリー・ジル
大日本図書(1980年12月)[絶版]
8397-216035-4398 【Amazon
原題:The Castle of Yew(1965)


金網に囲まれた木々や花々が鬱蒼と茂る小道のある庭。この広い庭のある家には、おばあさんが一人で暮らしているそうです。なんでもおばあさんは魔法を使うとか。
ジョゼフは庭へ入ってみたくてたまりませんでした。そのときちょうど、郵便屋さんからおばあさんへの手紙を頼まれたので、それを口実に庭を自由に歩き回る許可をもらいました。

チェス盤に見立てられた広場に、チェスの駒形や城形に刈り込まれたイチイの木がありました。城の入り口は15センチほどでしたが、ジョゼフが指を這わせて行くと、だんだん体が小さくなって内に入り込んでしまいました。
緑色した薄明かりの射す城内にはいくつかの部屋があり、小クモの糸のカーテン、スミレの花のカーペット、シダの葉っぱの日除け、くろどりの巣のベッドなどがあります。
そのとき、遊び友だちのロビンが、馬のエメラルドを連れて現れました。
この城では、ロビンは城主の男爵、ジョゼフは騎士見習いの役割です。早速二人は怪物に立ち向かいます。ロビンが探検に出ている間、ジョゼフは城を揺さぶるネコを追い払ったり・・・。
そうして二人は冒険に満ちた楽しい一夜を過ごします。翌朝、二人は家に帰りたいと思うのですが、どうすれば元の大きさに戻れるのでしょうか?

********************

『グリーン・ノウ』シリーズでおなじみの、ボストン夫人のマナーハウスの庭がモデルになっています。そして、これまた『グリーン・ノウ』でおなじみの、様々な形に刈り込まれたイチイの木。ただし、『グリーン・ノウ』シリーズとは別個の独立した作品。
マナーハウスの庭がモデルになっていることと、不思議なイチイの木、おばあさんが作者自身を反映しているであろうことが、グリーン・ノウとの共通点でしょう。

ジョゼフやロビンがおばあさんの魔法で小人になってみると、庭には冒険や危険がいっぱい。小人には、ネコやリスでさえも脅威になるのです。
でも、二人は臆することなく向かっていきます。勇気を持って力を合わせて立ち向かうこと。それが、二人が元の姿に戻るための鍵となるのです。

二人の少年の冒険物語というよりも、鬱蒼とした庭の美しさとともに、庭に隠されている秘密を描いた作品という感じがします。視線や見方を変えると、庭は不思議がいっぱい隠されている一つの世界。作中からは、作者の庭への愛着が強く感じられました。(2005/5/20)

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ふしぎな家の番人たち/ルーシー・M・ボストン

ふしぎな家の番人たち
ルーシー・M・ボストン

My評価★★★

訳:ト部恵子
カバー画・挿画:ピーター・ボストン
岩波書店(2001年7月)
ISBN4-00-115565-6 【Amazon
原題:The Guardians of the House(1974)


トム少年の一家は、新しく出来たビルの立ち並ぶ工場町に引っ越してきました。でも、それまでウェールズの田舎の農場に住んでいたトムは、何もかもが新しい町になじめませんでした。トムは野原や木立、岩や羊など、古くからあるものが好きだったからです。
トムが釣りに行く川は公園のなかにあり、公園の奥には、木々に囲まれてとても古い時代のお屋敷がありました。お屋敷には年老いた女主人と庭師がいます。みんなは女主人を魔女ではないかとウワサして、お屋敷を「おばけ屋敷」と言って恐れていました。
ところが、トムは秘密めいたお屋敷に心を惹かれ、家人の留守にそっと忍び込みます。
お屋敷には天井の梁の木彫りの天使の顔、小さなインドの頭像、古代ローマ時代のトリトンの頭像、藁で作られたロバのお面など、古くて不思議なものがたくさんありました。トムは頭像たちの声に誘われて、恐い目にも遭うけれど、不思議な体験をします。

********************

訳者あとがきによると、お屋敷はボストン夫人(1892-1990)が、50年以上住んでいたマナーハウスがモデルとなっているのだそうです。
ボストン夫人のマナーハウスと言えば、グリーン・ノウ。古いお屋敷で起こる不可思議な現象は、『グリーン・ノウ』シリーズを読んだ人ならおなじみですね。
木彫りの天使・インドの頭像・トリトンの頭像・ロバのお面などは、現在は記念館となっているマナーハウスで見ることができるそうです。そうそう、藁で作られたロバのお面にはイタズラしないように。でないと不気味なことが起こりますよ。
この作品は『グリーン・ノウ』シリーズに見受けられる特徴がよく顕われていて、グリーン・ノウの物語をもっとコンパクト(長さ的にも内容的にも)にして、もう少し年少向けにしたような感じです。ちなみに作者が82歳のときの作品なのだそうです。

いまの日本では、古くてしかも住居として使われている家を見かけることは殆どありませんが、トムではないけれど、しん静まり返った古い家には秘密めいたところがありますよね。
トムは古いものたちに誘われて、古いものたちに秘められた歴史や過去を体験します。
しかし、その体験は決して楽しいだけのものではありません。全体的に楽しさは強調されておらず、トムが古いものたちに威嚇されているかのような印象を受けました。
しかも古いものたちは、執拗にトムに問い続けるのです。トムはその問いに答えることで、自分自身を見つめ、自分を識ることができ、お屋敷に忍び込んだときよりも強くなるのです。この場合、強さとは物理的な力ではありません。
わりと短い作品としては、作者の考えが如実に顕われているように思います。(2004/5/12)

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海のたまご/ルーシー・M・ボストン

海のたまご
ルーシー・M・ボストン

My評価★★★★

訳:猪熊葉子
挿画:Peter Boston
岩波少年文庫(1997年9月)
ISBN4-00-112142-5 【Amazon
原題:THE SEA EGG(1967)


トビーとジョー兄弟は、両親とともにイギリス・コーンウォールの海岸の別荘で夏休みを過ごしていました。ある朝、岸辺を散策していたトビーとジョーは、エビ獲りのおじさんから、海で拾った石を見せてもらいます。
その石は緑色に白い筋が入り、黒い斑のあるきれいな石でした。何より完璧な卵形をしていたのです。トビーとジョーは、石を見た瞬間「海のたまご」だと思いました。
しかもトビーとジョーが石を持つと、海のたまごの中で、何かが動いていたのです!
お小遣いを払って卵を譲ってもらったトビーとジョーは、岬の奥に隠された秘密の「岩のプール」に海のたまごを置きました。
でも、ずっとたまごに付きっきりでいるわけにはいきません。別荘に帰った二人はたまごのことで気もそぞろ。
ボートに乗ってアザラシを見物していたとき、二人はたまごが孵ったことを知りました。たまごから孵ったのは・・・?

********************

「海のたまご」から孵ったのは何なのかは、あえて伏せました。それはトビーとジョー兄弟と共に、焦がれ驚き感歎してほしいからです。
卵から孵った生き物やアザラシたちと仲良くなる、トビーとジョーのひと夏の冒険物語なのですが、むしろ主役は不思議な生き物でもトビーとジョーでもなく、「海」ではないでしょうか。

ルーシー・マリア・ボストン(1892-1990)といえば、イギリスで最も古い館を舞台とした『グリーン・ノウ』シリーズが有名ですが、内陸を舞台としたグリーン・ノウから一変して、これほど躍動感のある海を描けるとは意外でした。
トビーとジョーは生き物とアザラシたちを通じて、これまで知り得なかった海の様々な面を体感していきます。
海の匂い香り音、おだやかさと荒々しさ、美しさと神秘と危険。体験することによって、兄弟はより海と触れ合い、海の奥深さを知るのです。
潮の香りに波の音、太陽や月に照らされ刻々と表情を変える海。読む側も兄弟と共に五感と皮膚で海を感じるのでは。私は読んでいる間中、潮騒の響きが聴こえてくるようで、海へ行きたくてたまらなくなりました。(2003/12/25)

追記:ながらく絶版状態でしたが、2010年10月、岩波少年文庫創刊60年記念リクエスト復刊しました。(2010/11/17)

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