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月ノ石/トンマーゾ・ランドルフィ

月ノ石
トンマーゾ・ランドルフィ

My評価★★★

訳:中山エツコ
河出書房新社(2004年4月)
カバー画:レメディオス・バロ『星粥』
ISBN4-309-20403-1 【Amazon
原題:La pietra lunare(1939)


町の大学で学び、休暇でP村へ帰ってきたジョヴァンカルロ。月明かり夜、彼は叔父一家を訪ねる。叔父たちと話しをしている最中、突如グルーという娘が現れた。
グルーは叔父たちとは知り合いのようだが、そのことがジョヴァンカルロは信じられない。なぜなら彼の眼には、グルーの足が山羊の足に見えたからだ!だが叔父たちには普通の娘の足に見えるらしい。
グルーに恋したジョヴァンカルロは、彼女に接近しようとする。そして彼女の足が人間の足であることを確認。
村の老婆によれば、グルーは没落した一族の最後の末裔で、いい娘だが「月の女たち」だと言う。しかしグルーはなぜか月を憎んでいた。
ある月夜、彼女はジョヴァンカルロを急き立てて山脈を踏破し、はるかな昔に先住一族が住んでいたといわれ、いまでは廃墟の山間のソロヴェッロへと向かう。月光に照らされた廃墟で何が待っているのか?

********************

トンマーゾ・ランドルフィ(1908-1979)はイタリア中南部の小さな田舎町ピーコの生まれ。一家はこの地方でもっとも古い家系の一つで、16世紀にはナポリ王から伯爵の称号を授かったそうです。家系を遡ると、トマス・アクィナスの家系に連なるとされているとのこと。
ランドルフィは翻訳家・作家・詩人・批評家として活躍。イタロ・カルヴィーノが『ランドルフィ名作選』(1982)を編んだという。本作の原書は1937年に執筆、39年に刊行。『付録/本作品に対するジャコモ・レオパルディ氏の評価から』を併録。

カバー画に魅かれて読みました。オカルトでもホラーでもなく幻想文学。
内容はギリシャ・ローマ神話に登場するような人外の者たちの饗宴といったところでしょうか。古代ギリシャの物語にあるような幻想譚といった趣き。ソロヴェッロでの一夜は、キリスト教からみれば古代の異教的世界。三女神が「母たち」として登場するところから大地母神信仰のように思われました。
私の印象では、「ローマ人がヘレニズム的解釈した古代ギリシャの物語」に感覚的に近いかなあ。作中にタッソの名前が出てくるところから、まったくの見当外れではないんじゃないかと思うのだけれど。
スペインやラテンアメリカの幻想的な小説を彷彿させるところもありました。スペインの幻想小説に近いかなあ。

イタリアの作家としては奇作ではないかと思うのですが、スペインやラテンアメリカの作品と比べると深みに欠けるような。全体にサラリとしていてインパクトを感じなかったんです。要はもの足りなかった。でも、翻訳の文体が変われば、印象も違ってくるのではないかと思うんだけれど・・・。
この作品は物語として読むよりも、詩と思って読んだ方が受け入れやすいのではないかな。文意を汲み取れない箇所が少しあっても、詩と思えば気にならないことだし。詩に理屈を求めることはしないから。

ジョヴァンカルロにとって、すべては夢と現の狭間の出来事のよう。現実との境界は溶け合って渾然となり、人界と異界との区別はない。そこは人間と神話的生き物が共存する世界。いえ、神話的幻想世界が現実世界に侵犯しているかのようでした。
そんな中、山間部での男たちの闘いはリアルに描かれており、大義もなく闘い続けることが男たちの「業」なのでは、と思いました。(2004/4/27)

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