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十二の恋の物語/マリー・ド・フランス

十二の恋の物語 マリー・ド・フランスのレー
マリー・ド・フランス

My評価★★★☆

訳・解説:月村辰雄
岩波文庫(1988年7月)
ISBN4-00-325821-5 【Amazon
原題:Lais(1160年以降)

目次:プロローグ/ギジュマール/エキタン/とねりこ/狼男/ランヴァル/二人の恋人/ヨネック/夜鳴き鳥/ミロン/不幸な男/すいかずら/エリデュック/訳注/マリー・ド・フランスの『レー』と恋愛の成立(月村辰雄)/参考地図


ギジュマール
ブルターニュの騎士ギジュマールは武勲を求めた先のフランドルで、白い牡鹿に遭遇。矢を射るが、その矢で自分も深手を負ってしまう。牡鹿から、傷を治せるのは彼と恋し合い、苦しみと悲しみを耐える女だけ、という呪いをかけられる。
港に出たギジュマールは、一艘の無人の船に乗りこみ、見知らぬ土地へ辿り着く。そこには嫉妬深い老いた領主によって、城に閉じ込められた若く美しい奥方がいた。

ランヴァル
アーサー王の騎士で武勲も人徳も美貌もあったがなぜか思し召しにあずからず、財貨を使い果たして不遇をかこっていたランヴァル。彼は小川で姫君に招かれる。二人は愛し合うが、もしも二人の恋を人に洩らしたら、二度と会うことはできないと忠告される。
ランヴァルにふられた王妃は腹いせに、彼に求められたのを拒否しため侮辱されたと王に訴えたからだ。怒った王は法廷で、彼を火あぶりか縛り首にしてやろうとする。ランヴァルが助かるためには、彼の恋人が本当に優れているのを証明すること、つまり彼の恋人が法廷に現れるしかない。

ヨネック
年老いた領主が美貌の若い妻を娶り、その美しさを人目に晒すまいと塔に閉じ込める。大鷹は奥方の嘆き悲しむ姿を見て窓越しに近寄るが、実は大鷹とは仮の姿で、正体は立派な騎士で領主だった。騎士は大鷹の姿となって塔を訪れ、二人は愛し合うようになる。だが、そのことを知った領主が策を弄して大鷹が死に瀕するほどの傷を負わせる。
騎士は剣と指輪を奥方に渡しながら、いつの日か二人の息子がある聖人の祭りで一つの墓碑を見い出したとき、全ての経緯を語るようにと言い遺した。

ミロン
南ウェールズの騎士ミロンは、その武勲によって名を知られていた。彼はとある領主の娘と関係をもつ、二人の間に子どもが生まれた。
子どもはひっそりと産み落とされ、直ちにノーサンブリアへ連れて行かれ、そこで育てられることとなった。母親である娘は、彼女の父親よって、裕福な領主と結婚させられた。娘と連絡をとりたいミロンは、白鳥を利用する。

エリデュック
ギリデリュエックとギリアドンのレーブリターニュの騎士エリデュックは、周囲から妬まれて宮廷から追い出された。彼は妻ギリデリュエックを残し、インナグランドへ向かう。そこで彼は様々な活躍をし、王の寵愛を得る。
彼は妻帯していることを隠して、王女ギリアドンと恋仲になってしまう。やがて故郷の王が反省し、彼を呼び戻した。ギリアドンは彼の後を追い、船でブリターニュへ向かうのだが・・・。

********************

解説によると『レー』とは、原文は平韻rime plateの八音詩句で綴られているが、これこそは一一五〇年代に突如として流行し、その後、中世フランス語韻文物語のほぼすべてを支配することになる特徴的な形式なのである。(p290)というもので、2行で1単位とのこと。
マリー・ド・フランスは、フランス文学史上に初めて登場する女性作家という。フランスのマリーという女性は、12世紀後半にアンジュー家とプランタジネット帝国のヘンリー二世とアリエノール・ダキテーヌの宮廷に繋がりをもって活動したのではないか、と訳者は語っている。
フランスに生まれ、イギリスに渡り、フランス語を用いていた当時の支配層を対象として、作品を書いていたらしい。

彼女のレー(本書)の成立年代は1160年以降らしく、当時の国王に献呈された。おそらくはヘンリー2世とのこと。
原書は大英博物館所蔵の写本(ハーレイ旧蔵978番写本)に収められているという。ブルターニュやウェールズのケルト系の伝承を題材にして、恋愛を主題とした物語詩としてフランス語でリライトしたもので、元の伝承そのままではなく、マリー・ド・フランスによって改変されているのだそうだ。
「恋愛を主題」にしているところが最も重要な点で、それまでのフランス語文学では、女性と恋愛に表現するだけの価値を認めていなかったという。そこへ意識が向けられたのは『テーベ物語』(作者不詳,1150-1155年頃)と『エネアス物語』(作者不詳,1155年頃。渓水社から2000年に邦訳が刊行)の古代物語からなのだそうだ。マリーのレーはこれらに連なるという。

私が最も興味をひかれるのは、12世紀にこのような作品が現れたということ。12世紀にはとても興味を惹かれる。
例えばイタリア・ルネサンスの始まりを12世紀に見なす人もいる。またイタリアでは、コムーネ(自治都市)が台頭してきた時代でもある。十字軍などで東方文化が西欧にもたらされた時代でもあり、宗教熱が高まってきた時代。絵画や彫刻ではロマネスク美術が興っている。こうした社会的な発展やロマネスク美術の影響が、背景にあるのではないかと思うのだけれど。

これらの物語を簡単に言ってしまうと、中世のラプロマンス。中世の騎士と恋人が登場するファンタジーとも言えるかな。
ほとんどが不倫の物語。キリスト教的に言えば姦淫か。当時の結婚は自由恋愛ではなく、何らかの利害関係(解説によれば「契約」)によって成り立っているのと、離婚ができなかったのでこういう事態となるようだ。
本書を読むと、女性の立場は不利だったように思われるのだが、何らかの利害関係による契約ならば、果たして本当に女性が一方的に不利な立場だったのだろうか。『ミロン』において、二人が結婚できなかったのは、騎士ミロンが地位も財産もなかったからである。ランヴァルも同様だ。財産のない男は結婚できないのだ。
当時、家督を継ぐことのできるのは長男に限られるため、二男以降は武勲を立て、それによって仕官されるのを待つしかない。

『すいかずら』は、離れ離れになったトリスタンと王妃が密会するために、トネリコの木が二人の合図として使われるという短い物語。読みようによっては、どこか甘ったるく、作者が悲劇に浸っているような気がしなくもない。
『エリデュック』に登場する、賢妻ギリデリュエックなんかは特にそう感じる。ギリデリュエックは己の不幸と、それに対する自分の寛大さと懸命さに酔っているかのよう。作者もまた酔っているかのようだ。
『ギジュマール』『ランヴァル』『ヨネック』に顕著なのが、魔法じみた存在あるいは出来事だろう。『エリデュック』にも若干そんな場面がある。
共通するのは、水が異界を意味していることだろう。黄金の盥が、異界の泉水を象徴する妖精の標識だと初めて知った。ギジュマールの乗った船は妖精の船であり、ランヴァルが小川で出会った恋人は、妖精の姫君である。だが、ここでの妖精とは象徴にすぎない。
解説によれば、当時の人は人智の及ばぬ不思議な出来事を「運命」と考えていたという。運命の象徴として、魔法じみた存在や摩訶不思議な出来事が起こる。こうした考えから、13世紀の『薔薇物語』のような、アレゴリーになっていったのかなあ。(2007/8/22)

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12世紀

H2さま、中世文学を2点紹介して下さり、大変嬉しく思います。特に、マリ・ド・フランスは私の大好きな作家です。

12世紀は、「12世紀ルネッサンス」という言葉があるくらいで、中世西欧の文化が一気に大きく深化した時代ですね。アラブの学問などがラテン語に翻訳されて西欧に伝播し、イスラム圏に保存されていたギリシャの哲学も西欧に回帰しました。文学では個人の内面を扱う作品が一気に開花した時代です。彼女もそうした時代の子ですね。でも彼女の特徴は、何と言ってもケルトの伝承から沢山のことを得ていることでしょうね。恐らく、近世以降に伝わっているブルターニュなどのお話と共通点も色々とあるのだろうと思います。フランス語文学であると共に、イギリス中世文学でもあり、当時の文化状況が、国や言語で分けられがちな現代とは大きく違っていたことを実感させます。 Yoshi

12世紀

★Yoshiさん

レスが遅くなってすみません~。

12世紀は西欧や地中海世界が大きく変わった時代のようなので、
とても興味があるんです。
西欧諸国はアラブ・イスラム圏の文化などを取れ入れていく反面、自分たちの国に伝わる伝説や伝承などに目を向けている傾向があるような・・・。

ケルト的ですよね。ブルターニュの伝承は知らないのでわからないのですが、ケルト的だなと感じました。読んだときはフランスではなく、イギリスの情景という感じがしました。

>当時の文化状況が、国や言語で分けられがちな現代とは大きく違っていたことを実感させます。
そうですね。素人なので詳しいことはわかりませんが、現代人の感覚とはかなり違うんじゃないかなという気がします。でも、むしろ私は、現代が国や言語で分けることにこだわりすぎているような気がしなくもないんですが。
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