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北京下町物語/劉心武

北京下町物語
劉心武(Liu Xinwu)

My評価★★★★

訳:蘇(そき),解説:田中純三
恒文社(1993年2月)
ISBN4-7704-0774-2 【Amazon
原題:鐘鼓楼(1984)


1982年12月12日、北京の北城に位置する鐘鼓楼(鐘と太鼓で時を告げていた楼。この作品の時代には動いていない)付近の胡同(フートン。小路・横丁という意味)の四合院(北京独得の集合住宅。四角い庭を囲むようにして、東西南北に四棟の建物が配されている。建物と庭全体で、薛(シュエ)家の末息子の結婚式が挙行されようとしていた。

この結婚式の一日が時間を追って語られる。花嫁を迎える役の長男の嫁が時間通りに来なかったり、タクシーが来なかったり。頼んでいた料理人が来たと思ったら、若い見習い・路喜純(ルーシーチュン)だったり何かと思うようにいかない。
西向きの部屋に住んでいる麗穎(ザンリーイン)がやって来て手伝おうとする。おばさんは人柄は悪くないのだが、人の気持ちがわからないので嫌われる。しかし本人はまったく気づいていない。
呼んでいないのに、嫌われ者の盧宝桑(ルーパオサン)がやって来て、式が台無しになりそうな悶着を起こす。その直後、大切なものが盗まれた!

********************

劉心武(Liu Xinwu,りゅう・しんぶ)は1942年、中国・四川省生れ。この作品は作者初の長篇小説で、1986年に創設された第1回『人民文学賞』と、第2回『茅楯賞』を受賞。テレビドラマ化されたという。

結婚式の様子が主筋となるが、他にストーリーらしいストーリーはなく、特定の主人公というべきものはいない。結婚式に関わる人々と、四合院で暮らす計十家族の日常生活が、個々人の立場から語られる。群像ドラマという感じかな。
四合院にもいろいろな格があるそうで、階級によって造りが異なるのだという。ともあれ四合院に住む人々は、北京の多くを構成している中産階級だという。一口に中産階級といっても、中の上の家庭が住んでいたり、中の下の家庭が住んでいたりと様々。
この作品における四合院は当時の中国社会の縮図であり、そこで暮らす人々の多様さもまた社会の縮図となっている。清朝瓦解後から文革を経て、この作品が書かれた当時までの、庶民の生活や心情が描かれている。
主眼は四合院に暮らす庶民だが、ときに舞台は鐘鼓楼の下でひなたぼっこをする老人たちへと移ったりもする。各種各階層、老若男女それぞれの立場から、北京の庶民生活を描いた物語。

ともかく登場人物が多くしかも中国名なので、初めのうちは覚えにくかった。土台、一読で全員を覚えるのは無理。だが性格が書き分けられているので、慣れるに従って名前は気にならなくなってきた。名前を気にしなくてもよかったのだ。大切なのは名前ではなく、個々人の生活環境なのだから。
登場人物が多くて場面がどんどん変わってゆくのに、案外に読みやすいのは、語り口が巧妙だからではないだろうか。次にどんな展開をするのか予測できない、ということもある。また、人々は文革以前も以後も政策に翻弄され続けているはずのだが、作中に政治的な意図が殆ど込められていないのが、読みやすさに繋がっているのだと思う。
作者の独断的なところが鼻につく箇所が若干あったけれど、作品が書かれた当時の時代性によるものでもあると思うので、仕方がないのかもしれない。

私としては物語性よりも、当時の北京下町の建築・風物・食物・しきたりなど、風俗がとても興味深かった。作者はたんなる小説としてだけではなく、失われゆく北京の記録でもあることをハッキリと断言しているだけあって詳しく描いている。
近年、北京では経済発展に伴う再開発によって、一部を除いた四合院や胡同が破壊されてしまった。そのため、この作中のような人間模様は、もう見られないのではないかと思うのだが、どうなのだろうか。(2003/5/11)

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