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大聖堂/ケン・フォレット

大聖堂
ケン・フォレット

My評価★★★★★

訳・解説(下巻):矢野浩三郎
新潮文庫(1991年11月,上中下巻)[絶版]
上巻:ISBN4-10-235801-3 【Amazon
中巻:ISBN4-10-235802-1 【Amazon
下巻:ISBN4-10-235803-X 【Amazon
原題:THE PILLARS OF THE EARTH(1989)


ヘンリー王の崩御により、スティーヴンが女帝モードと王位を争ったために内乱と化した12世紀初頭のイングランド。
建築職人のトム・ビルダーはいつか大聖堂を建立する夢を胸に抱き、仕事を求めて家族と諸国を遍歴していた。彼は妻を亡くして悲嘆に暮れていたが、森で暮らしていたエリンと出会い行動を共にする。トムと息子アルフレッドと幼女マーサ、エリンと彼女の息子ジャックの一行は、キングズブリッジへ赴く。

同じ頃、キングズブリッジの分院長フィリップは、本院である大聖堂が老朽化し、修道僧がだらけきっているのを目の当たりにする。奇しくも修道院長が亡くなり、フィリップは院内を改革すべく院長就任。だが、のちにフィリップはウォールランと真っ向から対立してしまう。
スティーヴン王側につく豪族の子息ウィリアム・ハムレイは、シャーリング伯爵の城を陥落。シャーリング伯の娘アリエナと弟リチャードは、粗野で凶暴なウィリアム・ハムレイに暴行されたのち、城を捨て野に下り、やがてキングズブリッジに落ち着く。

キングズブリッジの大聖堂が焼失したことによって、フィリップとトムは新大聖堂を建立すべく奔走する。しかしウォールランとウィリアム・ハムレイに、あの手この手で大聖堂建立を妨害される。そのウォールランはエリンを見て動揺した。いったいなぜ?
成長したジャックはキングズブリッジを出でて、新たな建築様式を学ぶべく西欧諸国を放浪し、スペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステラへ。さらにパリで最新様式によるサン・ドニ大聖堂建立の現場に携わったのち、キングズブリッジへ帰還。
フィリップはウィリアム・ハムレイによる悪道などの度重なる不運に意気消沈しており、トム亡きあと大聖堂の建立は滞ったまま。ジャックは新たな様式でイングランド一の大聖堂を建立しようとする。

********************

大聖堂を建立をめぐる恋あり陰謀あり、半世紀にも及ぶ波乱万丈の大河ロマン。複数の人物の半生を描く大河ドラマといった感じのエンターテインメント。全3巻という長さを感じさせず、イッキに読み終えた。
下巻に『原著者からのメーセージ』が収録されており、これによるとケン・フォレットはスパイ小説でデビューする以前から、大聖堂の物語を温めていたという。元々大聖堂の建築様式に興味があったそうで(美術学的見地ではなく、建築工学的スタンス)、なるほど、建築技術をよく調べているなあと思う。人間ドラマと共に、大聖堂がどうやって造られるのかということが物語の基軸となっている。

戦乱で孤児となったフィリップの立身出世、あるいはフィリップのリーダーシップによる組織改革の物語という、いかにも経営者が好きそうな一面もある。初めはフィリップに好感を抱いていたのだが、次第に鼻についてきた。逆境にも不屈の意志で乗り越えるのはわかる。ギブ・アンド・テイクと言えば聞こえはいいが、結局は善意のフリ(善行もするのだが)して他人を利用しているんじゃ・・・。目的はいいのだけれども、駆け引きに長けた意外に腹黒い親父なのだ。そうでなければ出世できないのだろうけど。

ヒロインのアリエナは怒涛の人生を送る。アリエナもまた不屈の意志の持ち主なのだが、ウィリアム・ハムレイが執拗に纏わりつく。ウィリアム・ハムレイが本当に悪者で、すごく憎らしい奴なのだ!特に中巻では、ウィリアム・ハムレイが優勢になるので読むのが辛かった。
だが、ご安心を。正義は勝つのだ!これほど善悪サイドがハッキリと分かれ、勧善懲悪の小説は近頃では珍しいと思うが、スッキリと溜飲が下がって気持ちいい。終盤での副院長リミジアスは意外だったけど。
物語は1123年の処刑シーンから幕が開く。この処刑が物語にどう関わるのか疑問に思って読み進めていたのだが、最後の最後でやっと明らかになる。魔女と噂されるエキセントリックな美女エリンは、そうと知らずに事件の鍵を握る。エリンの活躍の場がもっとあってもよかったのになあ。

カンタベリの大司教であるトマス・ベケットの暗殺(聖トマスの殉教)は、物語は全キリスト教徒を震撼せしめる。庶民はこの事件をキリスト教圏に伝えようと行軍する。これが結果的にスティーヴン王の破滅となった。ここで大切なのは、王侯貴族を庶民が廃嫡に追いやったという点。庶民は決して無力ではないのである。

12世紀は都市化が進むとともに、聖堂建立が盛んになった時代だ。都市化の要因の一つには、アリエナのような羊毛産業に携わる富裕層の誕生が挙げられると思う。11世紀までのイングランドは優れた原毛の産地として知られていたが、アリエナのようなマニファクチュアが発達し、布地として輸出されたのが12世紀だという。理由は十字軍による東方技術の伝播と、東西貿易が盛んになったためと思われる。
ちなみに、若干年代は異なるが、十字軍で捕えられたリチャード1世(1189-1199)の身代金は、シトー派修道会が羊毛で支払ったという。このことは、羊毛がそれだけ価値のある時代だったという証になんじゃないかな。

ジャックの考案した水車小屋は実存したもので、この水車の動力によって羊毛産業が飛躍的に発達した。ただし、それは13世紀からといわれている。とはいえ、この時代になかったとは言い切れないだろう。
ともあれ手工業の発展により商業取引きが活発になり、ギルドは聖堂の建設資金を提供することで発言力を増し、新興階級を中心とする従来にない都市が形成されてゆく。市民は己の才覚で商売を興して裕福になれる。そんな社会構造の変化が、庶民の意識に影響を与えないはずはないと思う。フォレットが描いてみせたのはそんな時代だ。

パリのサン・ドニ大聖堂は、イギリスの教会建築に多大なる影響を与えているという。また職人は、トムやジャックのように各地を転々とするのだが、その際にギルドに提出する書類(身分証明書のようなもの)を12世紀イングランドの職人はいまだ持っていなかったらしい。本書のように、口頭やギルド内に通じる身振り手振りで身分を証明して、雇用されたという。
ドラマティックな展開のため、ともすれば見落としがちになるが、一見したところ歴史考証はシッカリしているように思われる。スパイ小説作家が余技で書いた作品でないことがわかるだろう。中世史の好きな人、そうでない人とも楽しめる作品。(2003/10/17)

追記:2005年12月、ソフトバンク文庫より復刊。【Amazon:上巻】【Amazon:中巻】【Amazon:下巻】。

大聖堂 果てしなき世界

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No title

はじめまして.
とても面白そうな本ですね.★5つですし!!
是非読んでみたいと思います.今たまっている本を消化したら...

はじめまして

Fridayさん

ご訪問ありがとうございます。実はFridayさんのブログを、こっそりログしています。

『大聖堂』は大河ドラマという感じで、面白い本でした。全3巻と長いのですが、まったく長さが気にならなかったです。
フォレットは『大聖堂』を書いてから18年後の2007年に、続編ともいえる『大聖堂 果てしなき世界』(ソフトバンク文庫)を発表したんです。
果てしなき世界も面白いのですが(読了したけど、まだ感想を書いてないです)、私は初めの『大聖堂』の方が、断然面白いと思います。
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