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抱擁/A・S・バイアット

抱擁
A・S・バイアット

My評価★★★★★

訳:栗原行雄
新潮文庫(2003年1月,全2巻)
I巻:ISBN4-10-224111-6 【Amazon
II巻:ISBN4-10-224112-4 【Amazon
原題:POSSESSION:A ROMANCE(1990)


大学院でヴィクトリア朝の詩人ランドルフ・ヘンリー・アッシュを研究しているローランドは、ある日、ロンドン図書館でアッシュの手紙を発見!彼はアッシュと同時代の女流詩人クリスタベル・ラモットとの関係を調べるために、ラモットの研究者モード・ベイリーに面会する。
ローランドとモードはクリスタベルの墓を訪れる。そして、クリスタベルが晩年暮らして部屋で、彼女が隠していた手紙を発見する。手紙はアッシュとクリスタベルの往復書簡だった。手紙は、初めこそ詩の談義だったが、次第に愛の交歓へと変わっていった。

アッシュとクリスタベルが交流していたことは、学会にとって重大発見だったが、ローランドとモードは手紙について恩師や友人にも内密にし、自分たちだけで調査する。
だがアッシュの第一人研究者クロッパー教授がハイエナの如く聞きつけ、自身が運営するアッシュ・コレクションに加えるため、金にあかせて手紙を買い取ろうと画策。そのためアッシュとクリスタベルの研究者に、手紙の存在が知れ渡ってしまう。

ローランドは将来の展望を拓けず、また同棲相手との問題も抱えて四面楚歌。一方、モードは親友の研究者レオノーラが突然現われたり、手紙の所有者と一悶着あったり、個人的な悩みもあってすべてが煩わしく思っていた。
ローランドとモードは誰にも言わず、二人で新たに入手したクリスタベルの情報を元に、アッシュとクリスタベルが旅した足跡を追って、ブリターニュ地方へと逃避する。
研究者たちは、アッシュとクリスタベル双方の足取りを掴めないでいる。それは1859年の秋~18960年初めの期間だが、このとき何があったのか?
19世紀と20世紀、二組の男女の愛の行方は?

********************

アントニア・スーザン・バイアット(1938年生まれ)はイギリスの作家、詩人。1990年、本作でブッカー賞を受賞。
読後の感想は「満腹!」の一言。19世紀の詩人アッシュとクリスタベルの往復書簡に秘められたロマンスを探る、20世紀の学者ローランドとモード。二組みのロマンスを支柱に、アッシュとクリスタベルの詩、当時流行した交霊術、アッシュの妻エレンの日記、クリスタベルが身を寄せた屋敷の娘アリアーヌ・ル・ミニエの日記などが語られる。

この作品はロマンス小説としても楽しめるが、無数の文学作品を鏤めた文学論でもあろう。実のところ私にはよくわからなかったのだけれど・・・。イギリス文学に詳しい人は楽しめるのではないかと思う。
しかもこの作品自体がテクストになっていて、読み方によってはいかようにも解釈できる仕組みで、読むたびに異なった様相を呈するだろうと思う。一読しかしていないので断言できないけれど。時間をおいてジックリ読み返したい作品。
私としてはアッシュとクリスタベルの創作の源泉、文学の生まれる過程と言おうか、文学と個人のあり方が興味深かった。

アッシュの妻エレンは、彼女の日記から人となりがわかるだろうが、それは筆記者のエレンによって語られる、つまりエレン自身が造り上げた自己の姿でしかない。
一人称からイメージされるエレンと、三人称で語られる1889年11月27日のエレンとでは、イメージが異なってくる。突然の三人称には途惑うが、主観と客観によるエレンの違いが感じられ、本当のエレンの姿がわかる。三人称にしているのは、感情に曇らされない事実を伝えようとしているからではないかと思う。
また、アッシュとエレンの本当の夫婦生活を知ってしまうと、それまでのエレンとは違った面が見えてくるため、日記の意味合いが変わってきてしまう。

ロマンスの行方はある程度予測がつくのだが、エピローグには「ヤラレタ」という感じだった。こんな出来事が秘められていたとは・・・。このエピローグによって、それまでに語られたアッシュの言動の意味が、違う意味を帯びてくるのではないのかな。アッシュとクリスタベルの関係も、それまでとは異なってくるのではないだろうか?
ストーリーを追うことだけが読書の愉しみではない。「読書」とは何なのか、ということに一石を投じた作品と言えるかと思う。読書の愉悦を堪能できる逸品。(2003/5/3)

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