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日月両世界旅行記/シラノ・ド・ベルジュラック

日月両世界旅行記
シラノ・ド・ベルジュラック(サヴィニヤン・ド・シラノ・ド・ベルジュラック)

My評価★★★

訳・解説:赤木昭三
岩波文庫(2005年1月)
ISBN4-00-325061-3 【Amazon

収録作:月の諸国諸帝国/太陽の諸国諸帝国(17世紀中期)


月の諸国諸帝国
月から見ると、地球の方が月の役目を務めていることを証明しようと、シラノは自作の機械で月へと飛び立つが、着いたところはフランス領カナダ!?
その機械が焚き火にされようとしたとき、シラノは機械に飛び乗る。やっと月へ辿り着いたシラノは、エリヤやエノク、魔神に出会った後、四足の人獣たちに捕らえられる。人獣たちはシラノを王宮へ連れて行き、猿だと思って王妃の鳥籠に入れてしまう。

太陽の諸国諸帝国
月から帰還したシラノは、パリヘの帰り道に友人を訪ねて滞在する。だが彼の言動が異端の魔法師だとされて、捕らえられて火刑に処せられそうになる。友人が開放しようと尽力している最中、シラノは新たな機械(気球のようなもの)を作って飛び立つ。
太陽へ着いたツラノは王様とナイチンゲールに出会う。鳥の国では裁判にかけられ、ドドンナの樫の木の子孫からは、恋人たちとその木の実の話を聞く。そこへサラマンドル(サラマンダー)が現れて森を焼き尽くそうとするのだが・・・。次にシラノは哲学者の道案内によって、哲学の国へ向かう。

********************

エドモン・ロスタン(1868-1918)の戯曲(この本はオススメ)や、その映画(原作とはムードが異なるけれど、いい映画でした。こちらもオススメ)で有名な、ガスコンの剣士で恋の詩人「鼻のシラノ」。
シラノは実在した人物で、その彼が書いた小説が本書。ちなみに「日月(じつげつ)」と読む。

ストーリーを一言でいえば、シラノが自作の装置で月と太陽へ行き、両世界を旅する。と聞くとSFと思われそうだが、SFでもファンタジーでもなく、あえて言えばユートピア小説。
同訳者による岩波書店・ユートピア旅行記叢書のうち『別世界 または日月両世界の諸国諸帝国』のタイトルで刊行されているが、文庫化にあたり前面改稿したとのこと。岩波文庫からはかつて、有永弘人訳『日月両世界旅行記』が2分冊で出ていた。

ロスタンの戯曲のシラノはとても魅力的な人物だけれど、本書ではかなりイメージが違う。ビックリするぐらいまったく性格が異なる。
解説によると、サヴィニヤン・ド・シラノ・ド・ベルジュラック(1619-1655)は、士族ではなく町人の息子で、ガスコーニュに入隊している。剣の腕は相当だったようだ。また、このころから詩作を手がけていたらしい。軍隊を離れた後は、慢性的な窮乏生活だったという。シラノはリベルタン(反宗教的な自由思想家)で、ギリシア以来の哲学や、(当時の)最先端科学に通じていた。
これだけを取り上げるなら相違はないのだが、戯曲や映画のシラノ像は創作だという。それはシラノの死後、友人ル・ブレによって『別世界または月の諸国諸帝国』が刊行されたとき、当局を刺激するリベルタン的思想がことごとく削除された。その削除版が二百年以上も読み継がれ、ロスタンのシラノ像の参考になったという。だが今世紀になって、未削除写本が発見されたとのこと。すごい、いまでも残っていたんだ。

削除されたリベルタン的部分にこそ、シラノの思想や性格が表れていたのではないのかな。削除されたのは、おそらく解説にあるようなシラノの思想部分だろうと思われる。
ただし、「17世紀前半のキリスト教及び教徒」という前提が付く。これが現代人にはなかなか理解し難いと思うのだが。
17世紀のキリスト教を抜きにすると、現代人の感覚では異端思想だとは思えないので、たんなる滑稽譚、あるいは荒唐無稽な物語になってしまう。彼のリベルタンぶりこそが、本書の読みどころだろう。

『太陽の~』方が、いろいろな冒険があることと、ロマンティックな挿話があるので楽しめた。だが全体的には、正直に言って、小説としてあまり面白いとは思えなかった。ユートピア小説というものは、当時の社会や世相を抜きにしては理解しにくいのではないかと思う。
当時の思想や科学その他については、注釈で詳しく触れている。この注釈が労作で、これがなければ荒唐無稽な話としか思わなかったろう。
本書だけではなく、近世から現代を含め西欧圏の小説に込められた、ギリシヤ以来の思想的あるいは文学的バックボーン、引用元の資料などがわかるだろう。あの本もこの本も、根底にこんな考えがあったのか、と意外な発見が多々あり、本文よりもこっちの方が面白かった。西欧圏の小説を読む人には、この注釈は読む価値があると思う。(2005/2/1)

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