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イスタンブール短編集/サイト・ファーイク

イスタンブール短編集
サイト・ファーイク

My評価★★★★☆

編・訳:小山皓一郎
響文社(1997年8月)
ISBN4-906198-77-5 【Amazon

収録作:ガルソン/サモワール/はしけ/ある恋の物語/晴雨計/裏町のカフェ/四つのプラス/公園の朝と夕べと夜/一群の男たち/物語を追って/街を忘れた男/無用の人/独りごと/噴水池のほとりで/アレムダーには蛇がいる/ピシ・ピシ/司祭さま/カシュカダス島で/最後の小鳥たち/汽船/深海灯技手/地図上の点/海辺の人びと/海水浴場の鏡/あずまやの墓/シヴリアダの夜/ふたりの物語/ステリヤノス・フリソプロス号


作者を思わせる語り手の目から見た、市井の人々の日常一コマ、人生の哀歓を一瞬間でスケッチした感じの短編集。自伝的な作品も数編ある。現代の都会化された生活では味わえない、鄙びた感じと人々の触れ合いが心地よかった。
全体にメランコリックな傾向はあるけれども、オチはギリギリで感傷的にならない。感傷に流されず紙一重で抑えていると思う。
私はいい短編集だと思う。しかし、ネットで検索するとほとんど話題になっていない。もっと話題に上がってもいい本だと思うんだけどなあ。このまま埋もれさせるには惜しい本である。

訳者あとがきによると、サイト・ファーイク(1906-1954)はイスタンブールからポスポラス海峡を渡り、東へ130キロほどの地方都市で生まれた。1923年、両親とともにイスタンブールに移住。同年、オスマン帝国が崩壊しトルコ共和国が成立。首都はイスタンブールからアンカラに移転された。
1953年、ファーイクは国際的な短編作家として評価され、米国マーク・トウェイン協会名誉名誉会員に選ばれた。
彼の死後30年を経て、短編・中編・詩・紀行・ルポルタージュ・翻訳など290編ほどを収めた全12巻の全集が、アンカラの出版社から刊行。そのうちから28の短編を訳出したのが本書。

時代背景を知らなくても問題なく読めるのだけれど、舞台は1930年代から1950年代初めのイスタンブールなのだそうだ。煌びやかで喧騒に満ちた大都市という感じではなく、喧騒から逃れた憂愁漂う都市という印象がある。
作中に登場するイスタンブール市民(感覚的には「庶民」と言う方が近い)は、地域的・階級的に作者が接し得た人々をモデルにしているという。
すでに首都移転後のイスタンブールではあるが、古くはコンスタンティノーポリ、近世ではオスマン・トルコの首都として繁栄した国際都市というイメージとは、かなりかけ離れていることが意外だった。見知らぬ人と人とが親しみ合える人情と言おうか、そんな部分をどこか残している感じがする。その逆もあるのだけれど。

1930年代初めのイスタンブールは人口100万人に満たず、ギリシア人・ユダヤ人・アルメニア人など、オスマン帝国時代からのマイノリティーが住んでいたのだそうだ。作中でも様々な人種が登場する。だが彼らマイノリティーは、現在のイスタンブールにはほとんどいないとのこと。
1954年でも人口は150万人程度であったが、この前後から始まった西側諸国の援助などによる高度経済成長の結果、現在は人口800万人(この数字は訳者あとがきによる。2003年10月のJETROの公式発表では1,003万人)ほどのメガロポリスとなっている。非ムスリム市民に代わって、アナトリアの農民や、バルカン諸国からの難民が大量に流入しているという。人口と人種構成からみて、ファーイクの頃のイスタンブールは現在とかなり異なっていただろうことが想像される。
以下に5編を選んでみた。ネタバレせずにあらすじを書いても、短編の妙味を伝えることはできないのだけれど。

********************

はしけ
共同で部屋を借りている、工員と係船技手という仕事も出身も違う二人の青年。二人は仕事の後にガラタ橋で落ち合い、艀を見ながら、いつか技手の叔母へ遊びに行こうと話していた。
だが技手の青年は解雇されてしまった。工員は想うことがあったが、それは友達同士でも口に出せなかった・・・。

ピシ・ピシ
歩いているとどこからか「ピシ・ピシ」という音が聴こえてきた。空耳かと思ったがそうではないらしい。しかし土地を耕している作男には聴こえないという。作男が言っているのかと思ったのだが?

司祭さま
酒を飲みダンスをするが、庭仕事が好きな働き者で、神よりも大地に対して感謝を歌をうたう司祭。母なる大地と美しい娘を眺めて働き、陽気に笑って生きる司祭だが、心無い村人たちに中傷されてしまう。

カシュカダス島で
無人島のはずの島でロビンソンごっこをする7人の子どもたち。その後メンバーは指揮を執るヤクプ、庭番の息子のオディスィヤ、そして僕の3人に減ってしまう。僕は善良で美点を備えたディスィヤを好ましく思っていたのだが、季節が巡り、ヤクプもオディスィヤも変わってしまった。

ふたりの物語
漁師の舟に乗せてもらった僕は、一緒に漁場へと向かう。すると片脚のカモメが漁師に近づいてきた。漁師の話では、カモメは魚がほしいために漁場を見張っているのだという。数日後、また漁に連れて行ってもらおうと思った僕は、漁師の襟の折り返しに黒い喪章があるのに気づく。

注:Amazonのデータでは文庫になっていますが、単行本です。(2004/4/14)

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