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晩夏(上巻)/アーダルベルト・シュティフター

晩夏(上巻)
アーダルベルト・シュティフター

My評価★★★★★

訳:藤村宏,解説:小名木榮三郎
ちくま文庫(2004年3月)
ISBN978-4-87984-259-6 【Amazon
原題:DER NACHSOMMER(1857)


1979年刊『集英社版 世界文学全集(31巻)』を、二分冊で文庫化したもの。集英社版にはなかった(ように思う)原書初版の挿絵他図版を多数収録している。現時点ではまだ下巻は刊行されていないので未読。2004年4月刊行される予定。

注釈によると全巻を通じて、時代は1826-1830年に設定されているとのこと。主人公の青年は、オーストリアの富裕な実業家の息子。
彼は冬以外は田舎で暮らし、植物や鉱石、地質学など自然を研究していた。ある日、高山を旅していた彼は雨の降る気配を察し、街道から外れた丘の上の邸に雨宿りを請う。その邸は、様々な品種の見事な薔薇に覆われていた。
邸の庭や農地は主人によって独自の改良が加えられており、他に類を見ないほど豊かだった。また主人は絵画や古い家具、建築物の修復を手がけたりと、芸術に造詣が深かった。私(青年)は求められまま数日滞在するが、後で互いに名前を明かしていなかったことに気づき、胸の内で邸を「薔薇の家」と命名する。

翌年の春、再び薔薇の家を訪れた私は、主人と養子のグスタフらに迎えられる。やがてシュテルネンホープに住むグスタフ母マティルデと、マティルデの娘ナターリエ(グスタフの姉)が薔薇の家にやってきた。彼らとの交流のなかで、私は自然や芸術に開眼してゆく。

********************

これまでに私が読んだシュティフター作品では最高作。作中には穏やかでゆるやかな時間が流れ、時間はゆっくりゆっくりと進む。豊かに咲き乱れる薔薇、小鳥の囀り。澄んだ高原の空気や芳しい薔薇の香りが鼻腔をくすぐるかのよう。
アルプス高原の樹々や農場の佇まい。エコロジカルな工夫を施した農地及び庭園。美を愛し、礼節を重んじる人々。中世の教会建築、家具(現代人から見ればアンティーク)、鉱石等々。うーん、美しい!この作品を読んでいる間は、まさに至福のとき。
読み始めた当初は、主人公の父親を中心とする家父長制度が鼻についたが、現代とは時代性が違うのだと思い直した。
薔薇の家がとても美しく魅力的なので、完全に浸って読んだ。もはやこの本は私の宝。今後何度も読み返すことになるだろう。このような素晴らしい本を復刊してくれた筑摩書房に、ありがとうと礼を言いたい。

あらすじを書いてはみたが、この巻では事件らしい出来事は起こらないので、ストーリーテリングやエンターテインメント性を求める人には不向きだろう。
『ヴィティコー』もだが、シュティフターの作品は急いで読んで結末を知ったからといって、どうなるものではない。大切なのは結末ではなく、過程そのものにあるのだから。だから急がず慌てずに、作品のペースに合わせてゆっくりゆっくり読むべき。

ビルドゥングス・ロマン(日本語にすれば「教養小説」だが、この訳語はどうにかならないものか)と読む向きもあるだろうが、そんな読み方をしない方が作品をより理解できるのではないだろうか。
確かに主人公の精神的な成長小説と言えなくもないが、作者の描きたかったのは主人公よりも、むしろ彼を取り巻く環境にあるだろう。そういう意味では「ユートピア小説」と言えなくはないかな。
美しいものを美しいと感じ、なぜ美しい状態にあり調和がとれているのか。美というものが人間の精神に及ぼす影響とは何なのか。そこにこそ作者の思想が込められているのではないのか。

本来、作品はテクストのみで完結させるべきだろうが、シュティフターが存命(1805-1868)した当時の、オーストリアの歴史を知る意義はある。この作品は多分に理想主義的ではあるが、動乱の時代に作者が何を求めたのかを知ることは大事だと思う。
もっとも、時代背景や作品を無理に理解せずとも、皮膚感覚で感じとれればそれでいいのではないかと思うけれど。

私には薔薇の家とその領地の工夫(例えば小鳥と樹木の関係)は、ちょっと違うけれどグリーン・コリダー(「生態環境保全のための樹林帯構想」とでも言おうか)の最小単位ではないかと思う。
薔薇の家は地理的に緑の多い高原に位置しており、主体はあくまで人間の側にあるのだが。ともあれ、作者は(当時の知識において)自然を破壊せずに共存する一つの構想を示している。(2004/3/25)

+晩夏(上巻)
晩夏(下巻)

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