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月とかがり火/チェーザレ・パヴェーゼ

月とかがり火
チェーザレ・パヴェーゼ

My評価★★★★★

訳・解説:米川良夫
白水社(1992年10月)[絶版]
ISBN4-560-04307-8 【Amazon
原題:La Luna e i Falò(1950)


かつて私生児は、アレッサンドリアの病院から支払われる毎月5リラ銀貨の養育費によって、貧しい人々に養われていた。私生児の私は、二人の娘を持つヴァルジリアにひきとられたが、養母は私が10歳のときに亡くなった。
私は20年前に村を出た。生まれつき故郷を持たない私は、各地を転々としてアメリカへ渡って働いたこともある。いまはジェノヴァに住んでおり、蓄えもあるが、なぜかしら故郷へ帰って来た。夏になると休養のため、村へ戻って来るのだった。
貧しい小作人ヴァリーノと知り合った私は、彼の息子チントに、かつての自分を重ねる。私は少年チントに、このまま村で朽ちてゆくままに任せずに、世界へ目を開かせてあげたいと願う。

村には幼なじみのヌートがいた。かつて楽師として知られていたヌートはいろんなことを知っていて世知に長けているが、ついに故郷を離れることはなかった。私はヌートに、貧しい人々は己らの父親のような一生を終えないために、村を出て世界を見るべきだと語る。だが、ヌートの考えは違っていた。彼は他のことは知らなくても、土のことは心得ていると言う。

村では戦争から3年経ったいまでも、ドイツ人やファシストの死体が見つかっていた。パルチザンを非難している人もいたが、無言の人もいた。戦争の後、村は変わったようだが、何も変わらなかったようにも思える。変わっていない部分もあった。
私は自分のいた当時のことを考える。13歳のとき養父が村を出たが、私を養う余裕はなかった。私はモーラの農場で働き始めた。農場主のマッテーオさんには、イレーネとシルヴィアの美しい姉妹、6歳のサンティーナがおり、彼女たちの裕福さ優雅さは、村の男たちの憧れだった。だがシルヴィアは若くして亡くなった。
私はヌートにイレーネとサンティーナがどうなったのか訊ねた。だがヌートの口は重く、やがてサンティーナの意外な人生を聞かされる。

********************

イタリアのネオ・レアリズモを代表する作家の一人、チェーザレ・パヴェーゼ(1908-1950)による、北イタリア山間部の寒村に暮らす人々を描いた長篇小説。
おそらく作者の生まれたサント・ステーファノ・ベルボ村(よくわからないが、トリーノの近くではないかと想像する)をモデルにしているのだろう。作中で描写される土地のは、いかにも北イタリアを想像させる。
時代背景は第2次世界大戦から数年後、ファシスト政権、パルチザンによる戦争を経た、東西冷戦時代を背景としている。ファシスト政権後当時の一寒村の人々の暮らしがリアルに描かれていると思う。

この作品の最大の価値(という言い方も変だが)は<時代性>にあるだろう。作者による時代の証言と言える。だが、当時の混乱した悲惨な状況が書かれながらも、寒村の風景は詩的で、澄んだ空気と哀愁と郷愁を感じさせる。
主人公とヌートは仲はいいが、対照的な考え方をしている。主人公は村を出て外部から替えていくべきだと考え、ヌートは村の内部から変えていくべきだと考える。両者に共通した考えは、「戦争の後に何が変わったのか。何も変わらなかった。逆に悪くなった」ということだろう。作者が同時代に生きて、大戦直後に書いただけあって非常に重みがある。

作者による主人公の考えを「○○主義」と言うと、ある一つの思想に一本化されて末葉が切り捨てられてしまうので、主義とは言いたくない。主人公の視点は、主義という言葉で割り切れない人々や、切り捨てられられた人々に向いているからである。また、例えば貧困は経済が発達すればなくなるが、それで人々がより人間らしい生き方をできるかと言うと、作者はNOと言っているように思われてならない。作中では、経済や思想が先走りして人々が置いていかれている状況なのだと思う。

土地は荒廃し、作男のヴァリーノのような人々は日々の糧を得ることさえままならない。村人は貧しいがゆえに、未来や外の世界へ目を向けることができない。だが主人公はそんな社会に対する怒りではなく(怒りもあるのだが)、むしろ情愛をもってして村を眺めている。
少年の頃にはイレーネとシルヴィアに憧れていたが、青年期になって結局は同じ人間なのだと知る。だが一方ではヴァリーノやチントのように、どん底で生きなければならない人々がいる。逆にサンティーナのように裕福であるのに(裕福であるがゆえ)、悲惨な末路を辿る人もいる。どちらにせよ彼らの人生は悲哀に満ちている。
また、主人公は自分が住んだアメリカを諸手を挙げて讃美しているわけでもない。
それでも、いや、それゆえに主人公の視線はより良い未来を夢見ている。主人公及び作者の思うところは社会の変革ということもあるけれども、むしろ人間性の向上を希望しているのではないだろうか。(2002/5/6)

追記:2014年6月、岩波文庫から『月と篝火』のタイトルで文庫化 【Amazon】。

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