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ひと月の夏/J・L・カー

ひと月の夏
J・L・カー

My評価★★★★☆

訳・解説:小野寺健
白水社(1989年7月)
ISBN4-560-04453-8 【Amazon
原題:A MONTH IN THE COUNTRY(1980)


イングランド北部ヨークシャ州、オクスゴドビー村。トム・バーキンは、この村にある教会の壁画を修復するために、ロンドンからやってきた。バーキンには、第一次世界大戦のフランス戦線に従軍した後遺症があった。

壁画はなぜか漆喰に塗り潰されていた。バーキンは教会の鐘楼に寝泊りして、独立して初めて一人での作業を始める。教会の隣りにある牧草地では、チャールズ・ムーンという青年考古学者が、バーキンと同じスポンサーのヘブロン嬢の依頼で、彼女の先祖の墓を発掘していた。ムーンにも戦争の後遺症があった。

バーキンは新たな人生を築くかのように、コツコツと壁画を修復する。それは男と駆け落ちした妻を忘れ、負傷兵であることを忘れ、新しい人生のスタートを切るための日々。彼は村の生活になじみ、己の傷を癒してゆく。
仕事は順調に進み、漆喰の下から黙示録に描かれる最後の晩餐の絵が現れた。中世の傑作だ。だが地獄に向かって堕ちてゆく、額に三日月型の傷のある男が描かれている。実在の人家物をモデルにしたとしか思えないのだが、一体何者なのだろう?

駅長のエラベック一家と親しくなったバーキンは、夕食に招かれたり、彼らとともにメソジスト派の日曜学校へ赴く。彼はキーチ牧師の妻アリスと知り合い、彼らに惹かれてゆく。
おだやかで輝かしい夏の日々。ゆるりとした時間のなか、いつまでも続くかと思われる田園の夏。だが秋の気配は確実に近づき、空気に麦の匂いが漂ってきた・・・。

********************

イギリスの作家James Lloyd Carr(訳者によると、1916年生まれと思われるとのこと。生年が判然としないぐらい情報に乏しい作家なのだという)による、戦争体験を持つ、壁画修復職人バーキンのひと夏の物語。
バーキンは安い報酬にも関わらず仕事に打ち込む。鐘楼に泊り込み、田園風景を眺め、心おだやかな村人と過ごす夏の日々。
バーキンの目に映る夏草や乾草の匂い、澄んだ薄青い空、おだやかな金色の陽射し・・・。そんな風景が、彼の五感を通じて感じられる。ゆったりとした時間の流れる美しい田園風景に浸り、バーキンと共に身も心も癒されるかのよう。

冒頭ではわからないが、ところどころで老齢となったバーキンの回顧録だということが知れる。
幾度も繰り返される、どんなに美しくかけがいのない日々でも、止め置くことはできないという想い。それはまるで生きるための戒めのようであり、諦めのようでもある。だがセンチメンタルでも悲観的でもない。諦観というのとも違う。田園の夏は、傷を抱えながらも生きようとする青年を、やわらかく包み込んでゆく。
しかし想い出は美しいと同時に、生きるための苦さをも甦らせるようだ。漆喰に埋められていたのは、厳しい顔のキリストだった。その面に慈悲はない。
戦争という傷痕に苦しみ人々を見据え、戦争という愚かな行為に鉄槌を下すかのようなキリストの表情は、この作品の底辺に流れる一面をよく表しているように思う。

備考:
1987年、パット・オコナー監督によってイギリスで映画化。
1993年10月、白水uブックス化 【Amazon】(2002/3/5)。

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