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海の沈黙・星への歩み/ヴェルコール

海の沈黙・星への歩み
ヴェルコール

My評価★★★★

解説:加藤周一
岩波文庫(1973年2月)
ISBN4-00-325651-4 【Amazon

収録作:海の沈黙/星への歩み


ヴェルコール(1902-1991)はナチス・ドイツ占領下のフランス(1940-1945)で、沈黙を強いられたフランス国民の人間の尊厳と自由を守るべく、文学を以てナチとペタン政府(親独政権)に対するレジスタンス運動を起こした一人。
解説によると、彼は戦前は作家ではなく、ジャン・ブリュレルという名の画家であった。1941年に秘密出版による抵抗文学の創設者の一人となり、ヴェルコールの名で作品を発表したという。
作品の書かれた時代背景や、ヴェルコール作品の思想性については解説に詳しい。この解説を読まないと、時代背景と作品が理解しにくかった。特に『海の沈黙』は。

私だけではなく多くの人が同様ではないかと思うが、レジスタンス運動も第2次世界大戦も、主に映画か小説の中でしか知ることができない。映画にしろ小説にしろフィクションであり、戦後に作られたもので、リアルタイムで作られたり執筆されたものではない。対して本書はリアルタイムに書かれた作品であるため、当時の様子をよく伝えていると思われる。

正直なところ小説として格別に優れているとは思えない。しかし、手法とかテクニックとか、リアルであるかどうかとかは、ここでは問題にならないと思う。沈黙の時代に沈黙を破るべく書かれ発表されたということが最も重要であり、そのことによってフランス文学史上、記念すべき作品だと思われる。
ナチス占領下という時代ではあるが、『星への歩み』は現代においても読むに価するだろう。特にいま移民問題で揺れるフランスに、かつてこういう時代があり、こうした作品が書かれたことを忘れるべきではないだろう。

海の沈黙(Le Silence de la mer.1942,訳:河野與一)
ある日、ドイツ兵たちがやってきて、私と姪が暮らす館の2階を宿舎にしてしまった。若き将校が私と姪の部屋を訪れ、ヴェルネル・フォン・エブレナクと名乗った。
それからは将校は毎晩同じ時刻に、軍服を脱いで私服で訪れるようになった。
彼は私たちの部屋で、音楽や文学のこと、ドイツ人が人間味に欠けることや、フランスへの想いを語った。彼はフランスが偉大な国であり、ドイツはフランスから学ぶべきだと信じていた。
だが私と姪は一言も喋らず、沈黙し続けた。いつしか私は将校を憎む気持ちが失せていることに気づいたが、姪も同じようだった。
パリへ行っていた将校が戻って来た。パリで彼は詩人だった友だちの変貌を見、彼らに代表されるドイツ人の姿と、政策の真実を知って絶望したのだった。

********************

この1篇だけを読むと、これがどうして抵抗文学になりえるのか理解し難かった。解説によると、この作品は1941年に書かれ、翌年に発表。作中で、ナチの懐柔政策の欺瞞を暴露しているという。確かに暴露している。しかしストーリーを追っても、なぜ抵抗文学になりえるのか、やはり理解しにくかった。
現代の私たちはナチの実態をすでに知っている。だから作中での暴露は自明であり、衝撃を受けることはない。けれども、当時の人たちにとってはどうだったのだろう?誰もがわかっていても口を閉ざしていなければいけなかった中で、やっと言ってくれたと思っただろうか?おそらくそうだったのではないかと思う。それこそが、この作品が発表された意義だったのではないか。

当初フランスは、ナチス・ドイツを受け入れていた。フランスだけではなく国際的に、ナチス・ドイツに対する宥和政策がとられていたという。そういった時代性を考慮しなければいけない。時代と切り離して考えることはできないと思う。
作者はドイツ人すべてを敵と見做しているわけではない。そして、ドイツ人であれフランス人であれ、健全な精神の持ち主ならば、心を通わせることができることを示唆している。しかしその機会は潰えてしまった。だが、可能性までが潰えたわけではない、というふうに私には感じられた。

星への歩み(La Marche à l'étoile.1943,訳:加藤周一)
モラヴィアで家族と暮らしていた青年トーマ・ミュリッツは、ユダヤ人の母親を持つ従兄の死をキッカケに家を出て、徒歩で自由の国フランス・パリへ辿り着いた。
旅路では宿屋の赤毛の亭主が親切にしてくれ、彼を同志と呼んでくれた。このときからトーマは、赤毛の男と見ると全面的に信頼するようになった。
彼はドイツ的なものを一切退け、フランス人として扱われるよう努力した。やがて事業で成功し、結婚して子どもに恵まれ、周囲から尊敬される人物となる。しかし息子アンドレは戦死者となる。それはトーマにとって、フランスへの愛国心を上回る苦悩だった。

長い時が経ち、アンドレの親友の私は、休戦時に自由地帯からパリへ戻った。私は老いたトーマを探し出すが、再会したトーマは自ら胸に星を付けていた。
ナチス・ドイツの要求により、フランス憲兵は帰化したユダヤ人を選出する。その中に、フランスのために息子を亡くしたトーマがいた。

********************

『海の沈黙』で作者は、ドイツ人将校に焦点を当てドイツの欺瞞を暴いたように、作者の視線はドイツへ向けられていた。しかし、この『星への歩み』では、フランス人に向けられている。自らの意志と尊厳を捨て去り、同じ国民を裏切るフランス人へと。事態が深刻化しているのがわかる。
誰よりもフランス人であろうとしたトーマ。彼の行動は愚かだろうか?
彼は身をもってフランスの精神を表そうとした。民族や血筋を超えることができることを、証明しようとしたのだと思う。
しかし彼はあまりにも人間を信じており、疑うことを知らなかった。おそらく、疑いを抱くことを自分に許さなかったのではないか。彼の行動は抵抗ではなく、信頼によるものではないかと思う。(2006/6/14)

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