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水晶 他三篇/アーダルベルト・シュティフター

水晶 他三篇
アーダルベルト・シュティフター

My評価★★★★★

訳・解説:手塚富雄、藤村宏
岩波文庫(1993年11月)
ISBN4-00-324223-8 【Amazon
原題:BUNTE STEINE(1853)

収録作:水晶/みかげ石/石灰石/石乳/『石さまざま』の序


アーダルベルト・シュティフター(1805-1868)は、南ボヘミア(現チェコ)のオーバープラーン(チェコ名ホルニ・プラーナ)に生まれる。ハプスブルク君主国下の19世紀オーストリアの都ウィーン活躍した作家、画家。
この文庫版は、『BUNTE STEINE(石さまざま)』から4篇を抜粋したオリジナル編集版。作者自身による「石さまざまの序文」(訳:手塚富雄)も付されている。解説によると、原書には他に「電気石(Turmalin)」と「白雲母(Katzensilber)」の2篇と、「はしがき(Einleitung)」が収録されているという。

作家であるとともに、画家でもある作者の観察眼による秀逸な自然描写!どの作品にも美しい風景が広がっているのだが、たんなる牧歌的な美しさを描いているのではない。作中には自然災害や疫病、戦争などの危険も孕んでいる。
だが災厄に見舞われながらも自然を征服するのではなく、自然を畏怖しながらも共存し調和しようとする。そんな気高い心を掲げて、素朴な生活を営む人々が描かれている。
決して美しい自然を背景にした牧歌的なだけの物語ではなく、作者の信念による敬遠な心と強靭な精神、真摯さから生じる美しさが、自然界に照射しながら描かれているかのよう。ストーリー的には甘さはあれども、作中に登場する人々の思想的な精神のあり方に注目したい。

水晶(Bergkristall)
クシャイトの谷に住む腕のいい靴師は、山向こうのミルスドルフの町から妻を娶った。その後、男の子と女の子が生まれたが、クシャイトの住人にとって靴師の妻とその子どもたちは、なんとなくいつまでも打ち解けない余所者的存在だった。
クリスマスの前日、兄妹は山越えをしてミルスドルフにいる祖母に会いに行った。帰り道で吹雪に見舞われた兄妹は道に迷い、いつしか延々と続く青白い氷壁の世界をさまよう。

********************

作者の観察眼が、雪山や氷の岩壁の青白い世界と、キンと耳鳴りがするほど冷え切り、星々が冴え冴えと輝く夜空を描き出す。その描写には畏怖を感じるほどで、人という存在の矮小さへと思いを巡らせ、敬虔な心持ちにさせる。自然の脅威に押し潰れされそうな状況の中で、自然を敵と罵らずにひたすら突き進む兄妹がけなげ。

みかげ石(Granit)
少年時代の私は、家の前の『みかげ石』に腰掛けるのが好きだった。ある日、手押し車で差し油を売りに来た男に、両足に油を塗ってもらう。その姿を母に見せに行った私は、きつくおしおきされる。
イタズラをするつもりではなかったので、驚きのあまり泣くことすらできずに、打ちのめされてみかげ石に腰掛けていた。そうして石に座っていた私を、おじいさんが油を落としてくれ、戸外へと連れ出してくれた。
おじいさんは、少年に森で生きる知恵と忘れられてはならない村の歴史を、誇りをもって伝える。恐ろしい出来事も・・・。それはペストによって、たったひとりきりで森に残された男の子と、森で両親と死に別れた女の子の話だった。

********************

ペストは避けようのない不意の死をもたらすが、最善を尽くして生きる男の子。そこには死への恐れは感じられない。のどかで美しい自然と死との対比というよりも、自然界に死が組み込まれているということか。自然の美と人々の営みと、死が同次元で語られているように思われてならない。

●石灰石(Kalkstein)
殺伐とした石灰石の起伏が広がる村で、測量師は一度見知った貧しい姿の牧師と出会う。牧師はこんな土地でも、ときによっては世界中のどの土地よりも美しくなることがあると言う。
測量師は突然の雷雨に見舞われたとき、牧師館に泊めてもらう。牧師館は清貧を通り越して貧しく、なんとベッドではなく、木の長椅子で眠っていた。
測量師は次第に牧師と親しくなり、この村に一生を捧げた牧師から、彼の前半生を聞かされ。そして遺書を預かることになった。時が経ち、遺書が開封されることに・・・。

********************

何事にも無私な牧師というのは、ハッキリ言えばいかにも理想像でしかないのだが、ただひとつ抑え切れないでいるリンネルへの愛着が人間味を添えている。
私としては牧師の遺書内容は、失われた家族への謝罪の代行のように思われる。もちろんそんな気持ちだけではないのだが。
一面に石灰石の起伏のある風景とは殺風景でどうにも想像し難いのだが、読み進めていくと殺伐とした景色が彩りを伴ってくるのが不思議だ。そうした風景だからこそ、牧師の朴訥さが際立ってくるように思う。

●石乳(Bergmilch)
アクス城の城主には後継ぎがいなかった。彼は地所の支配人一家を城に住まわせる。夫婦に子どもたちが生まれると、子どもたちの先生も城に住むことになった。
やがてフランス(ナポレオン)戦争が勃発。外国軍が従軍し、ドイツ国内でも敵味方に分かれて争うようになった。村にも敵味方の両軍がやってきた。
城の者全員は一室に集まって事の成り行きを見定めようとしていたが、そこに白い外套を来た若い男がやってきて、城主にピストルを突きつけた!

********************

本来は賢い城主が、愛国心ゆえに血に飢えたような激しい反応を示し、戦争というものの狂熱に奔流される。そんな風潮のなかで冷静さを失わない支配人の妻。敵味方の区別なく、負傷者を介護する村人たち。自分よりも負傷した敵を看護する兵士。そして戦争も終わり、いつしか和解する城主。
劇的な事件が起こるわけではない。それぞれが正しいと思うことを、政治的にではなく人道に則って行うだけだ。ここに作者のメッセージがあると私は思う。(2001/8/6)

石さまざま

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