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肉桂色の店/ブルーノ・シュルツ

肉桂色の店
ブルーノ・シュルツ

My評価★★★★★

訳・解説:工藤幸雄
集英社ギャラリー『世界の文学12』所収 (1989年12月)
ISBN4-08-129012-1 【Amazon
原題:Sklepy cynamonowe(1933)

目次:八月/魔性の訪れ/鳥/マネキン人形/マネキン人形論 あるいは創生第二の書/マネキン人形論(続)/マネキン人形論(完)/ネムロド/牧羊神/カロル叔父さん/肉桂色の店/大鰐通り/あぶら虫/疾風/大いなる季節の一夜


体が不調となってから、見えない世界と語り合い、ときには怒鳴り、恐れ、戯れたりと、奇矯が高じる父ヤクブ。父は、動物に情熱的な興味を抱いて鳥の王国を造る。また、針子たちに向かって摩訶不思議な持論を披露したりする。
家政婦アデラは家に秩序をもたらすため、絶対的な采配を振るって父の奇矯を止めようとする。
母は父の代わりに服地店の帳場に立つが、父には関心を持っていない。家族はほかに、少年の私。虚無に囚われのいとこやカロル叔父さんがいる。

ストーリーを説明するのは難しい。全体的な話の流れはあるが、連作というほどハッキリした構成ではなく、家族について書き溜めていたものを一冊にしてみたら一つの流れを持っていた、という印象を受けた。
各篇によって作風が異なり、「八月」では牧歌的でのどかで一見平和そうな描写が続くが、『魔性の訪れ』では一転して、父の不調が始まる。
「鳥」で父は、屋根裏部屋で鳥の王国を創り上げ、自らも鳥のように振舞う。そして父の語る「マネキン人形論」の3篇。
主人公の私による夜の冒険を描いた「肉桂色の店」では、それまでの作風とは異なりファンタスティック!
古地図から立ち上がるミニアチュールのような街「大鰐通り」。カフカを彷彿させる「あぶら虫」。
偽りの月の日々を語る「大いなる季節の一夜」では、夢の日々を語りつつも破られた夢の欠片が重なり合う。

********************

白状するとちゃんと理解してないです。表現方法が凝っていることもあるけれど、一読では理解できなかった・・・。文章から喚起されるイメージを追って読んだだけ、というのが正直なところ。理解するためには、何度も読み込んでいかなければなあと思う。
その上で印象を語るならば、ときには叙情的に、ときには少年が柔らかな空想の翼を広げたように、またときには異教的な秘儀とでも言うかのような不思議な魅力のある独特の世界観と文章だと思った。

本来なら二元対立であろう美/醜、静/動、生/死、有機物/無機物、現実/幻想、歓び/苦しみなどが同列に扱われ、万華鏡のようにクルクルと瞬時に入れ替わるかのようなイメージがある。父ヤクブの歓びは瞬時に苦しみへと替わるが、それはまるで歓びそのものが同時に苦しみでもあるかのようだ。
同列のように扱われる事象を未分化と言うのは適切ではないと思う。作者の精神が成熟しているのか未成熟なのか図り兼ねるところがあるけれども、作者の強い意志が働いているように感じられるからだ。
また、単に幻惑させるための手段とは思えない。作者=語り手の視線は透徹で揺るぎないようで、なんとなくだが清澄ささえ感じられる。
通底には父への愛情と屈折した想いと、喪失感がずしりと横たわっていて、閉鎖的で澱み歪んでいるような世界が展開する。たんに澱みと歪んだ不安感、焦燥感、喪失感だけを描いたのではないのだと思う。
絶望的な状況にありながらも、まるで森羅万象(大袈裟だけれど)の脈動とでも言おうか、気配と言うよりも脈動と言いたい印象が織り込まれていて、東洋的な諦観と言うのではない奇妙な静謐さと同時に、ざわめきが同居しているかのよう。

以下に作者のプロフィールを挙げるけれども、私としてプロフィールに捉われて作品に解釈を加えたりせずに、まずは付加情報の無い状態で読むのが一番いいと思う。
解説によると、「作者自身の言葉によれば、自伝的な小説、精神の系譜」ということなので、以下に時代と家庭背景を要約。

ブルーノ・シュルツ(1892-1919)はオーストリア=ハンガリー帝国領のドロホビチという小都会(現ウクライナ領ルヴッフ(リヴォッフ)。ポーランド東南部の国境近く)のユダヤ人家系の末息子として生まれる。
父ヤクブは妻の持参金によって服地店を経営していた。1915年、長年の肺患に癌を患って父親が死亡。店はすでに畳んだ後だったが、第1次世界大戦によって家を焼失。
1935年、兄が子どもをのこして自殺。姉は精神病の発作を繰り返す。
第2次世界大戦が起こり、1941年の独ソの開戦でドロホビチはナチスの占領下に。翌42年、シュルツはゲシュタボの銃弾に斃れる。彼は生涯病弱だったとのこと。

何と言うか、悲惨を絵に描いたような生涯。この時代や家庭背景が作品に影響を与えていないとは言い切れないだろう。けれどもユダヤ人に限られた内容ではないし、一読した限りではホロコーストものという印象は受けなかった。
ともかく、一読では説明し難い不思議な魅力を湛えた作品だった。(2005/5/28)

追記:2005年11月、平凡社ライブラリーより『シュルツ全小説』刊行【Amazon

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