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森の小径/アーダルベルト・シュティフター

森の小径
シュティフター(アーダルベルト・シュティフター)

My評価★★★☆

訳:山室静
沖積舎(1985年3月)[絶版]
ISBN4-8060-3001-5 【Amazon

収録作:森の小径/家系/水晶


シュティフターの作風は、ともすればロマンチシズムの甘ったるい物語と受け止められるかもしれない。だが、底には揺るぎない作者の信念が貫いており、その思想は骨太だと思う。
どの作品も、舞台は一地方の村や山など限定された狭い地域が舞台となる。にも関わらず、広々とした開放感を感じるのは、決して自然の美しさを描いているからだけではないからだと思う。私としては彼の作品を自然回帰と受け止める気はない。

彼の作品は凛とした静謐さ敬虔さに満ちている。それは「節度を弁えた美しさ」とでも言おうか。時代に流されない、人としての普遍的なあり方。自己の利益だけを求めずに、表面的なものに惑わされない美意識と価値観。浮ついた華やかな生活からではなく、平凡な日常の繰り返しによって積み重ねられる精神の充足。なによりも自分の生き方を、例え困難であろうとも自分自身で選ぶ意思の強靭さと潔さ。これらを声高々と押し付けがましく唱えるのではなく、控えめに語りかけてくる。
シュティフターの倫理観は確かに理想主義的ではあるが、物質文明に浸り切った現代人の私にとっては新鮮で心地良い。

●森の小径
私の友人テオドールは家柄もよく財産もあり学問もあったが、その風変わりな言動から「チブリウス」と呼ばれて馬鹿にされていた。彼がどうやって妻を娶り、現在のようにみんなから愛されるようになったのか?
チブリウス氏は、両親や親族から相続した財産で裕福に暮らしていた。そのうち彼は自分が病気だと信じるようになり、部屋に閉じこもって自己流で治療を試みた。知り合った医者(彼も馬鹿者とウワサされていた)から、温泉へ行くように勧められる。
興味本位で温泉に来たチブリウス氏は、森を散歩していて道に迷う。後日、また森へ出かけた彼は、苺を摘んでいる娘と出会った。そして幾度も娘と森を散策しているうちに、森と彼女に惹かれてゆく。

********************

何をしても満足できないチブリウスが、なぜ変わったのか。それは森の治癒力だけではないだろう。娘マリアの素朴な価値観が、彼に安らぎを与える。生きるのに必要なだけのものを自分の手で編み出し、周囲をあるがままに認めて愛することによって、お金では得られない充足感を得る。それは「清貧の思想」に近いのではないかと思う。
この作品の場合は、芸術ではない美が一つの指針になっているのだが、問題は何に美を見い出すかだ。美は気づかなければ見い出せない。貪欲であれば気づかないだろうけれども、では質素であればいいかと言うと、そうでもないんじゃないかな。そんな抽象観念を巧く物語として著している。

家系
裕福な僕は家業を任せきりにして、風景画家として暮らしていた。
画家として暮らすためには妻は必要ない。僕にとっては絵が売れるか売れないか、有名になるかどうかは問題ではなく、自分の全てを注ぎ込んで満足のいく真の傑作が描けるかどうかだ。不出来な絵は燃やす。

僕はリュップ丘の沼に魅了された。沼は金持ちの男が埋め立てている最中だった。僕が宿の外、林檎の樹の下で夕食を摂っていると白髪で灰色の服を着た男がやってきた。
男は姓をロデラーと言い、沼を埋め立てている金持ちだった。いつしか僕は誰にも見られたくない描きかけの絵を、ロデラー氏が見ることを許容していた。
ロデラー氏は、いつか僕が絵を描かなくなるだろう。一つのものを突き詰めてもそれに甘んじることなく、他のものに邁進するだろうと言う。

********************

シュティフターの作品をいくつか読むと、主人公への両親(大概は裕福)の影響がチラホラ伺える。この作品の場合は、個人の気質形成が家系にまで遡る。そこに恋愛が絡むのだが、それは身を焦がすような情熱ではなく、節度を保ち誇りをもった愛情によって進行する。だが、本題は絵のことだろう。
作者の絵に対する真摯な想いと矜持があるのだが、言ってしまえば主人公は(そして画家であった作者も)、当初から画家として大成しない運命にある。
画家とは、一般的に商業的画家のことをいう。それはさておき、最後の絵を燃やす行為は僕(作者)が、芸術至上主義からの脱却を目指していたのではないだろうか。

水晶
あらすじと感想は、手塚富雄・藤村宏訳による『水晶 他三篇』を参照のこと。
手塚・藤村訳の方がいい。両者を比べると、山室静の訳は旧漢字が多くて読みにくかった。それよりも、雪の降る様や氷山、雪山で迎える黎明などに迫真力や緊迫感、鋭さに欠け、凍てついた自然の峻厳さと荘厳さが物足りなく感じた。(2001/11/12)

森の小道・二人の姉妹
水晶 他三篇

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