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夏草の果て/近江静雄

夏草の果て
近江静雄

My評価★★★★

本の森】(2000年5月)
ISBN4-938965-25-9 【Amazon

収録作:夏草の果て/冥き闇/崖/払川/道/水のほとり


宮城県・南三陸出身の作家による、その風土のなかで廃れてゆく風景、変わりゆく人々に、愛惜の想いを込めて描いた短編集。地味ではあれど、ズシリとした手応えのある作品集である。
三陸海岸・北上山地・北上川流域・奥羽山脈など、当地を知っている人にはなじみの場所が舞台。
時代の変化に晒される鄙びた東北の片田舎。鉄道が着工されたり、大型チェーンのスーパーができる一方で、ますます廃れていく地域格差。何も変わらないようでいて、やっばりどこか変わってゆく。住む人々もまた変わってゆく。すべてはうつろうが、それでもゆるりと流れる時間。そんな田舎の空気が滲み出ている。

正直に言うと私は廃鉱そのものも炭坑の町も、テレビでしか見たことがないので、漠然としかイメージできなかった。それでも雰囲気は伝わって来るのだが、都市部で生まれ育ち、田舎に暮らしたことのない人には、この短編集で描かれた風景はイメージしにくいんじゃないかな。
しかし地方で過ごしたことがあり、ある程度の年代の人なら、懐かしい気持ちで読めるだろう。また、歳を経るごとに何かを得るとともに何かを失ってしまう。そことことに気づいた年代には、より感じるところがあるのではないかと思う。
どの短編にも不慮の死があり、暗い影に彩られている。死はまるで日常にポッカリ空いた冥い落し穴のよう。どうやっても避けようがなくいつかは遭遇する。だがこの作品集は、失われゆく風景や死の記憶を抱えてたんに懐古するのではなく、過去を見据えていまを生きようとする人々の物語ではないかと思う。

********************

夏草の果て
鉄道が着工されようとする盆地の町で、私営バスを営業する一家の息子・13歳の康雄のひと夏の物語。
従業員たちは二階に下宿していて、久保青年もその一人。康雄を可愛がってくれる久保は大学受験の準備をしていたが、種子屋の良枝とつき合っていた。
ある日、康雄の父の枕もとから金庫が盗まれたり、良枝とのつき合いを両親に反対された久保の様子がおかしい。康雄の周りに不穏な空気が流れる。

冥き闇
潰れてしまった電気店を通りかかったとき、俊作はその店の店主で、中学時代の親友だった哲男を思い出す。当時、鉱山の社宅に転居してきた俊作には友だちがいなかったが、ふとしたことで哲男と親友になったのだ。
俊作はいまでは廃鉱になっている社宅のあった場所を訪れてみた。そして哲男と北上山地で過ごした時に思いを馳せる。
二人は高校は別々だった。俊作の胸の内には、高校の頃に悩んでいた哲男の力になれなかった悔いが、いまでも残っている。その哲男の行方は知れない。


オープンした大型スーパーへ向う俊男は、久しぶりに逢った小森が、なぜ自分を避けているのかと考えていた。姉の話によると、いま小森は会社を辞めて離婚して子どもの一人を引き取っているという。
小森とは予備校通いをしていたとき知り合った。当時、俊男は姉の友だちの光子を密かに好いていたが、光子は小森とつき合う。しかし光子の弟の自殺によって、二人の仲はよそよそしくなってしまう。

払川
大型スーパーの進出に対し、商工会は反対。地元商店街がやっていけなくなるからだ。若手店主たちは対応策として、共同店舗の構想を練る。明男は何度目かの商工会の会合に出席。会員は幼なじみばかり。会合の席には哲也の姿はなかった。昔から哲也はこずるく立ち回るため皆から嫌われていた。
その哲也は、いまでは進出促進側の有力メンバーになっている。明男は哲也にそれとなく、自分たちの側につくように持ちかけられたが断わる。しばらくすると明男の子どもたちの周りで、変なことが続いた。やがて明男も嫌がらせを受ける。


高校の卓球部の顧問をしていた達彦は、無名の卓球部を地区では並ぶところなき強豪に育て上げた。だが自分の采配ミスで部員にケガをさせ、もはや卓球のできない体にしてしまったことで顧問を辞めてしまう。
手慰みに将棋を始めた達彦は将棋道場へ通うが、道場は決して居心地いいだけの場所ではなかった。
ふと奥羽山脈の鉱山町にあるM高校を訪ねてみたが、過疎化が進み廃校同然であった。達彦は他九部の顧問としてのライバル立花がいた、Y高校の卓球場を訪ねてみる。

水のほとり
高校教師・亮一は、郷土めぐりの雑誌の写真を撮りに、一ノ瀬川辺を散策していた。郷土めぐりとは一年生を対象に、地域の史跡や事務所を見学させる恒例の企画だ。
写真を撮るにため飛び回りながらこれまでの郷土めぐりや、亡き祖母の家のある沢にいること、初任校の鉱山の町、川筋の町での暮らしなどを思い出す。記憶にあるのは、水辺に連なる土地での日々だった・・・。(2002/9/27)

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