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貝を食べる/B・ヴァンデルベーケ

貝を食べる
B・ヴァンデルベーケ

My評価★★★★

訳:吉田文子
島影社(2000年11月)
ISBN4-88629-526-6 【Amazon
原題:Das Muschelessen(1990)


その夜は、いつもと変わらない夜になるはずだった。ただ違うのは、ムール貝が食卓にのぼったこと。わが家では、ムール貝は特別の日に供される。実のところ弟は別として、私も母もそれほど好きではないが、父の好物だからだ。
父の昇進が確実と思われるため、好物のムール貝を用意して、母と私と弟は、父が出張から帰ってくるのを待っていた。

両親は、東ドイツから西ドイツへとやってきた(おそらく亡命)。父は貧しい家の出だったが、才能と努力によって西ドイツでのし上がってきた。自然科学者の秀才で、周囲の心を捉えることに才能があり、お洒落な好男子の父。私たちは父の成功を疑っていなかった。
ところが、父はいつもから帰宅している時間になっても帰って来ない。そのため私たちの気分はどんどん悪化していき、次第に父への真情が暴露されてゆく     

********************

プロフィールによると、ビルギット・ヴァンデルベーケ(1956年生まれ)は、旧東ドイツのブランンブルク州に生まれ、1961年に家族と共に西ドイツへ移住。現在は南フランスで活動。デビュー作の本書で、インゲボルク・バッハマン賞を受賞。
インゲボルク・バッハマン賞は、ドイツ語圏で最も重要な文学賞の一つらしい。女流作家インゲボルク・バッハマン(1926-1973)に因んで、彼女の故郷オーストリアで開催されているとか。

母と私と弟は、父の帰りを待っている。時間にしてわずか4時間ほど、場所はダイニングルーム。表面的には、時間と場所が非常に限られている。4時間、父親は直接登場しない。回想の中で語られるだけ。
優秀で人の心を掴むのが巧みな父親。当初はよき父親であり、ごく普通の家庭のように思われる。だが、父を待っている間、次第しだいに父親の本当の姿、父への心情が吐露されてゆく。
回想の中で、父親の姿が明らかになっていくところはサスペンスフル。私にはサスペンス小説のようにも受け取れた。
この作品は舞台にしたら面白いんじゃないかなあ。父親は一度も登場させない。回想の中でも登場させないで、3人だけの舞台なんていいんじゃないかなあ。

家族という偽りが明らかとなり、家庭が崩壊してゆくのだが、その原因はどこにあるのか。
家庭がなかったため「まともな家庭」に憧れ、彼なりに厳密なイメージを作り上げていた父。自身の厳密なイメージを家族に強制し、自分が絶対的に正しいと信じ込み、言うことを聞かなければ手を挙げる父親。一見理知的な父親のようであったのだが、実は暴力的な男で、家庭における絶対君主。
そうした父に対して、家族の長年にわたって積もりに積もった家族の感情が溢れ出す。心の中に溜め込んで沈殿させていた、ドロドロした澱が漏れ出してゆく。激することなく、静かに語られるから余計に恐い。

「家庭崩壊」というテーマに受け取ると、日本でならいまさらという感じだが、ドメスティック・バイオレンス及び子ども虐待と見なすこともできる。
こういう父親はいまの日本でも現実にいるだろう。また今風に言えば、この父親は「オレ様」だろう。オレ様化した男が父親になると、たぶんこんなふうになるんだろうなぁ。
自分は絶対に正しいと信じて疑わず、それを他人にも押し付けることが問題なのだが、本人は気づかない。そう考えると、国情は違えども、日本における今日的な社会問題をも含んでいると言えるだろう。逆に言えば、家庭内の問題はどこの国でも大して変わらないということか。
こんな男とはさっさと離婚すればいいのに、と現代の日本人なら思うんじゃないかな。私は思ったぞ。だが東西ドイツの時代であり、就業率の低さ(失業率の高さ)及び女性の自立の困難さという点を忘れてはならない。

家庭内の問題に終始しつつも、チラホラと社会批判が窺われる。テレビのニュースを観ていればと語られることから、物語は1989年11月9日に設定されているのだろうと思われる。ベルリンの壁崩壊の日である。ベルリンの壁崩壊に、この父親に代表される権威主義の崩壊を重ねているのだろうか。
また、背景にはナチズムの影、東西ドイツ及び近隣諸国の経済的状況(労働環境)なども窺える。意外と硬派な作家かも。
私は、限られた時間と空間の中で内容を膨らませているところや、家庭のあり方への問いが当代の日本にも通じる点が優れていると思う。つまり国情や時代性に限定され得ない問題点があり、その問題点は現代日本にもあると思うのだ。(2007/11/8)

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