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香水 ある人殺しの物語/パトリック・ジュースキント

香水 ある人殺しの物語
パトリック・ジュースキント

My評価★★★★★

訳:池内紀
文春文庫(2003年6月)
ISBN4-16-766138-1 【Amazon
原題:DAS PARFUM,DIE GESCHICHTE EINES MÖRDERS(1985)


1738年パリ、母親による嬰児殺しから免れた赤ん坊はテリエ神父の修道院へ預けられ、ジャン=バティスト・グルヌイユの洗礼名を授けられた。しかし、乳母と神父は無臭のグルヌイユを気味悪がった。グルヌイユに体臭がなかったからだ。神父はグルヌイユをマダム・ガイヤールの養育施設へ追いやる。

少年となったグルヌイユは、皮なめし職人の徒弟に出された。ある日マレー区を歩いていたグルヌイユは、生まれて初めて嗅ぐ芳香に酔いしれる。それは赤毛の美しい少女の体臭だった。
グルヌイユは、セーヌ河の橋の上に建つ香水屋へ納品に行ったとき、調合師バルディーニの見習いになる。ありとあらゆる微かな匂いをも嗅ぎ分けることのできる彼は、その類稀れな嗅覚を活かして調合し、パリ中を陶然とさせる香水を次々と作り出す。
蒸留技術を体得した彼は、マレー区で酔いしれた少女の匂いを作り出そうとする。その匂いは、彼だけが嗅ぎ沸けることのできる処女の体臭だった。

ここまでが物語の前半。このあと連続殺人事件が起こったり放浪したり、特殊な香水を作ったりと面白くなるのだが、未読の人の興味を削ぐことになるので、ここで止めておきます。

********************

自身には体臭がないのに、どんな匂いをも嗅ぎ分けることのできるグルヌイユ。異能の男の生涯を描いた一代記。
ストーリーに緩急があってぐいぐい惹き込まれる。全体的に作為的に感じられるけれども、「匂い」をテーマに書かれた奇想天外な物語。まさに奇想というしかない異色作。

調合師の見習いになって精製技術を習得した彼は、自分の求める匂いを創り出そうとする。しかも猟奇的な方法で。おぞましい方法なのだが、そう感じさせず嫌味がない。
読んでいると次第にグルヌイユに同情する方向へ導かれ、そのまま終結部へ突入するので、ラストでもおぞましさを感じなかった。逆に彼に哀れみを感じさせられる。
しかし、哀れみを感じるが好意は抱けない。その理由は、彼が誰をも好きにならず、自分のために他人を利用することしかしないからだ。

グルヌイユが非人間的なのは体臭の無いことではなく、感情が欠落していることだろう。感情が欠落しているため他人の心情を慮ることなく、目的のために手段を斟酌しない。理性はあっても、善悪の基準やモラルがないのだ。彼の精製した香水によって、人々は価値基準を攪乱させられる。
翻訳というフィルターもあるだろうが、読んでいる側の感情に触れる部分が、良くも悪くも希薄に感じられる。だから嫌悪を感じないで読むことができ、モラル(いまでは死語としか思えないが)を忘却させられ彼に同情的になってしまう。
断定できないが、仮に理性だけの存在がグルヌイユであり、感情だけの存在が彼に惑わされる人々だとしたらどうだろう?
どちらも偏りすぎていて、人間としてのバランスに欠け、異質な感じさえする。ロゴスとパトスが拮抗しつつも均衡を保ってこその人間なのだ。それを分離し個別に振り分けたところに、作者の真意があるのではないだろうか。
理性だけではグルヌイユのようになってしまう。だが、感情だけではあまりにも情動的になってしまう。
感情とは、いかに外部に左右されやすく不安定で流動的なものであるか。逆に、人間性を堅持するために感情がどれほど重要なものであるのか。
人間とはかくも不安定・不確定な要素に満ちた存在であることか。そんなことを曝け出してみせた作品ではないかと思った。(2005/5/28)

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No title

こんにちはH2さん
私もこの本を読もうと思って買っておいてはあるのですが,つい機会を逃して積んでしまっていました.
とっても面白そうですね.5つ☆ですし.
H2さんの記事を読んで十分楽しんだ気もしてしまいますが,時間をみて挑戦してみます.

No title

Fridayさん

こんにちは。残暑いかがお過ごしでしょうか。

これは、まさに「奇想」という感じの小説でした。私としては、本来はグロいはずなのに、そう感じさせないところがよかったです。グロいのは苦手なので。

今のいままでスッカリ忘れてましたが、『パヒューム』というタイトルで映画化されているんです。映画の出来はどうなのかな?
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