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天地有情/土井晩翠

天地有情
土井晩翠

My評価★★★★☆

仙台文学館選書(2005年3月)
解説:久保忠夫,原子朗,佐藤伸宏
ISBN4-938965-71-2 【Amazon


土井晩翠(どい・ばんすい,1871-1952)は、名曲「荒城の月」の作詞者として知られる(作曲:滝廉太郎)、仙台出身の詩人、また英文学者・翻訳家。本名は土井林吉(つちい・りんきち)。1950年には文化勲章を授与された。
私は荒城の月と、各地の校歌などの作詞者としてしか知らなかったけれど、詩人としては島崎藤村らとともに近代詩を築き、翻訳家としてはホメロス『イーリアス』(ギリシャ語原典からの翻訳)、同『オヂュセーア(オデュッセイア)』などがあるという。巻末の年譜によると、二女の夫は翻訳家の中野好夫。

『天地有情(てんちうじょう)』は明治32(1899)年、晩翠が28歳時に上梓された第1詩集。解説によると関東大震災のあった年には74版となり、昭和初期にも重版されていたということから、ロングセラーだったことがうかがえる。その後長い間絶版になっていたそうだが、この度復刊された。復刊に伴い「荒城の月」を併録。
いつごろ絶版になったのかわからないが、本書を読んで思うに大戦ごろではないのかな。晩翠の詩は、戦意を高揚する詩ではなく、その反対に作用するのではないかと思うから。

詩には疎いので断言できないけれど、当時発表されて現代まで読み継がれている詩は、多くが抒情的な詩のように思われる。そういう詩が人々に好まれるんだろうな。
晩翠の詩には抒情的なものもあるのだけれど、本領は漢語多用した七五調の、漢詩を書き下したかのような詩風にあるのではないだろうか。長編詩に特色が表れているのだけれど長いため、短くて書き下し風の詩を選んでみた。晩翠の詩風が伝わるかと思う。

赤壁図(せきへきず)に題す(p116~117)

首陽(しゅよう)(わらび)手に握り
汨羅(べきら)の水にいざ釣らむ
やめよ離騒(りそう)の一悲曲
造化無尽(ぞうかむじん)の蔵のうち
我に飛仙(ひせん)(じゅつ)はあり。

五湖の烟波(えんば)の蘭の(かじ)
眺めは広し風清し
きのふの非とは誰かいふ
松菊(しょうきく)庭にあるゝとも
浮世の酒もよからずや。

江上(こうじょう)の風の声
むかしの修羅のをたけびの
かたみと残る秋の夜や
軽きもうれし一葉の
舟蓬莱にいざさらば。


「星落秋風五丈原(ほしおっしゅうふうごじょうげん)」が気に入ったのだが、長いので引用しなかった。でも、これはすごい詩なあだと思う。明治時代に28歳でこれほどの詩を書くとは。時代性や年齢を抜きにしてもすごいと思う。
これは諸葛亮(孔明)を主題に据えた詩なのだが、私の印象では諸葛亮その人を描きたかったのではなく、諸葛亮の栄枯盛衰に譬えて、戦いというもののむなしさを書きたかったのではないかと思う。そして、これは「叙事詩」とも言えるのではないのか。日本にこういう詩人がいたとは知らなかった。
この詩を読むだけでも、日本を代表する詩人の一人と言っていいのではないだろうか。詩人と言うよりも、文学者という感じがするけれど。小説家のような想像力を持った詩人という感じかな。
しかしながら漢語を多用した七五調は、漢詩を好む人にはいいだろうが、漢語に慣れていない人には難しく感じるかもしれない。白状すると、私には意味のわからない漢語があった。
また英文学者だけあって、漢語だけではなく洋の東西の学識が豊富。難解ではないとしても、そうした学識と格調の高さが、とっつきにくくしているのかなと思う。

三つあるうちの最後の解説が、本書の位置を明確に示していると思う。
日本の近代詩は、この藤村が敷設した軌道に沿って展開してゆく。換言すれば、そのような方向で日本の詩の<近代>性が追求される中で、既述の晩翠独自の詩の試みは放置されることになる。(中略)『天地有情』はそうした意味で、日本においては遂に未発に終わった詩の可能性を確実に指し示している詩集なのである。(p202)
島崎藤村の名前は誰もが知っているだろう。それは国語の教科書で習うからだ。後世に影響を与えた人物だから教科書に載るのだろう。
解説を読む限り、晩翠に続く人はほとんど現れなかったらしい。だが、そのことがイコール晩翠の詩が不出来だったからでないのは彼の詩を読むとわかる。
私が思うに、いまでは晩翠の詩はほとんど読まれていないように想像されるのだが、それは近代詩の発展がある一方向に限られてしまい、そこから外れる晩翠の詩が省みられなくなってしまったということではないだろうか。しかし、後に続く者がいなかったとしても、このような名詩があることは憶えていたいものである。(2005/9/26)

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