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酒国/莫言

酒国
莫言(Mo Yan)

My評価★★★★★

訳・解説:藤井省三
岩波書店(1996年10月)
ISBN4-00-023309-2 【Amazon
原題:酒國(1992)


高等検察院の敏腕特捜検事の丁鈎児(トランプのジャックの意味。テイン・コウアル)は酒国市に潜入した。美酒・美食で繁栄している酒国市で、嬰児の丸焼きが食べられているというのだ。
丁鈎児は羅山炭鉱でトラックの運転をしている女性運転手に乗せてもらい、炭鉱共産党委員会公安部へと向う。そして炭鉱の責任者であり、酒国市共産党宣伝部副部長にして市政の中心人物「金鋼鑽(チン・カンツアン)」に面会を求める。
まず鉱山所長と共産党委員会書記と面談した彼は、話のあとに宴席に招かれる。この地では酒を出されたら三杯飲むのが習わしだった。丁鈎児は一、二と杯を重ねるが・・・。

一方、作家莫言は酒国市醸造大学の院生・李斗一から、手紙と短篇小説を送られる。李斗一は自分の小説を、国民文学に送って批評してほしいという。
李斗一が送り続ける小説には酒や食の香が漂い、酒国での肉童のこと、肉童の調理法を講義する義母、幻の猿酒の醸造を研究する一尺酒楼の主人で小人の『余一尺(ユイ・イーチー)』、ロバ街に出没する義賊の鱗肌の少年など、土着の生活と奇怪さに溢れていた。
莫言は李斗一と往復書簡で文学談義をするうちに、小説の構想を練り始める。そして李斗一から、酒国市の第一回猿酒祭に招かれる。

********************

中国の現代作家・莫言(Mo Yan=モォイエン。日本では「ばくげん」として知られる。1956生れ)は、フォークナーやガルシア=マルケスに影響を受けて、中国農村を舞台にした魔術的リアリズムの作風で知られるという。

酒国市での嬰児喰い事件を捜査する特捜検事の丁鈎児。猟奇事件を追う探偵モノと言えるので、探偵小説かミステリーと思うだろう。だが、アンチ探偵小説だった。そもそも探偵小説でもミステリーでもない。しいて言えば、やはりマジックリアリズムだと思う。
私としては、作中作の李斗一による数篇の短篇小説が、伝記小説あり農村の生活を描いたものあり、夫婦仲を描いたものなど様々で、丁鈎児の物語よりも惹きつけられた。全体としては中国独特の習慣や、中国の生活に基づいた比喩が愉しかった。

作中では虚実入り乱れながらも、中国文化における「酒」とは何かが語られる。そして酒とともに「食」の文化も。
作品での嬰児喰いはカニパリズムと同じ観点で語られてはいない。嬰児(肉童)は特権階級だけが食せる奢侈な珍味でしかないからだ。問題は肉童を生み出した背景だ。この作品ではストーリーそのものよりも、背景に重点が置かれているように思う。

大鉱山にある酒国は架空の市だが、そこには政治的・社会経済的・民族的な魑魅魍魎が跋扈している。
酒国に潜入した中年男の丁鈎児は、敏腕検事として相当の知識や経験があるが、女と酒にだらしないという点でアンチ・ヒーローの資格充分。彼は惨めなほど酒国に翻弄される。
しかし丁鈎児をアンチ・ヒーローたらしめているのは、女と酒好きだからというのではなく、迷宮酒国においては彼の社会的権威と人間的威厳がことごとく剥奪されて無力化するからだ。
無力ということについては、莫言と李斗一による往復書簡の文学談義でも語られている。莫言は文学への政治的圧力に対する憤り、李斗一は知識人であるのに公人なえに不正を摘発できない無力感があるだろう。現実に対して無力であるがために、李斗一は執筆に向かう。

酒国は現代中国の縮図であり、矛盾を孕み混迷する社会(解説によると改革・解放政策下の中国、ポスト小平時代)と考えるのが妥当だろう。
作中ですべてが徒労に終わったかのように感じるのは、解答を模索しつつも引き出せない現代への無力感の表れではないだろうか。
そんな社会の中で莫言=李斗一は発言力を封じられて、何か欺かれているように感じるのではないのか。それを象徴しているのが丁鈎児だろう。彼は欺かれ翻弄され続ける。そう考えると、ラストがシックリくると思うのだけれど。(2001/11/22)

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