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白檀の刑/莫言

白檀の刑
莫言(Mo Yan)

My評価★★★★★

訳:吉田富夫
中央公論新社(2003年7月,上下巻)
上巻:ISBN4-12-003409-7 【Amazon
下巻:ISBN4-12-003410-0 【Amazon
原題:檀香刑(2001)


時は西太后が君臨する1900年頃の清朝末期、ところは山東省高密(こうみつ)県。ドイツの鬼子(グェイヅ。外国人侵略者のこと)が、高密県は馬桑鎮(ばそうちん)に鉄道を敷設せんとやって来た!
悪行三昧のドイツ兵に妻を辱められた孫丙(そんへい)が、怒りにまかせてドイツ兵を撲殺したからさあ大変。
ドイツ兵は村人共々孫丙の妻子を虐殺。生き残った孫丙は、妻子と村人の仇を討ちドイツ兵を追放せんがため、曹州へ赴き義和団の神拳を修得。そしてドイツ兵に反旗を翻すが、遂に捕えられてしまった。

桃の顔(かんばせ)に柳腰、高密県一の美女、犬肉小町と仇名される孫丙の娘・眉娘(びじょう)は父を救うべく、愛人の県知事・銭丁(せんてい)に嘆願するが、袁世凱(えんせいがい。1859-1916。軍政界の大実力者)が直々に高密県へやって来て指示を飛ばし、ドイツに肩入れしているのではどうにもならぬ。
もとはといえば悪いのはドイツ兵で理は孫丙にあるのだが、県知事の一存ではどうにもできず銭丁は胸を痛める。朝廷が鬼子に肩入れするとは、この国はどうなってしまうのか     

いよいよ孫丙の処刑が決まった。執行するは、引退したが元は清朝随一の処刑人・趙甲(ちょうこう)。眉娘の義父である。助手は趙甲の息子で眉娘の夫、半暗愚の小甲。
小甲は身に付けていると人間の本性がわかるという虎のヒゲで、嫁・眉娘と父・趙甲の本性を見てビックリ仰天。肝が潰れてしまった。見渡すと皆畜生ばかりなり。是いかに!?
さて、西太后からは白檀の数珠、光緒帝からは座していた椅子を、直々に下賜されたほどの趙甲。手がけた刑は数知れず、技の冴えは天下一品。
本朝でいちばん残酷な刑で、執行から鉄道開通までの五日間は生かしておきたいとの要望に、趙甲は「白檀の刑」に処すことを提案。『白檀の刑』なるは、はてさてどんな刑ぞ?一方、眉娘は父を救わんと暗中飛躍する。

ヒゲ無くして引退したが、猫腔(マオチアン。正式名称は茂腔=マオチアン。高密県一帯にのみ存在する地方劇)の第一人者・偉丈夫の孫丙。妻子を殺され、旗地に落ち踏みにじまれ、仮令腸引き裂かれようとも、益荒男・孫丙、泰山の安きにおく。孫丙、一世一代の大芝居・猫腔をとくとごうじろ!

********************

列強に翻弄される清朝末期、ドイツ人が無理矢理に鉄道を敷設する一件を発端に、西太后や袁世凱(えんせいがい)などの歴史的人物を配した小説。ともかく凄いパワーのある骨太で濃厚な作品。そのパワーに圧倒された。

歴史的史実とフィクションを絡め、全編がテンポのいい語り物の猫腔(マオチアン)芝居に仕立てられている。章ごとに視点と文体を巧妙に変化させつつ、なおも「語り」であり続ける。その語りは朗誦のリズムにのり、恋ありコメディー・タッチあり、技比べや策謀、義侠ありの一大エンターテイメントといった趣きもある。
出来事を時系列に並べるのではなく、前後を入れ替えることで時間的な拡がりをもたせている。しかも章ごとに語り手が変わっても、読者が途惑わないよう前フリしている気の利かせよう。
ときにはクスリと捻りを効かせた笑いも忘れない。手法としては決して珍しくはないがセリフと地の文との文体効果。そこにエフェクトを効かせている。莫言の技量のほどを見せつけられた思いがする。

当初、眉娘(びじょう)は毒婦かと思いきや、次第に清心な面を露わにしてゆく。銭丁(せんてい)は厭らしいスケベ親父かと思ったら、清廉の士。孫丙(そんへい)は義勇はあるが愚かしくもある。小甲は暗愚と言われるが、なんのなんの、うまく立ち回る。
聖と俗・美と醜・悦と哀、愛と憎しみ・・・。
それらは対立事項ではなく一人間・一事象の内に同時に存在する。切り離せるものではなく表裏一体なのだ。作中では相反する感情・事象が渾然となってクルクル入れ替わりながら迸り、登場人物たちの血が熱く騒ぎ、そのエネルギーに圧倒される。好(ハオ)!

数々の残酷な刑が語られるが、それらよりもさらに残酷だという『白檀の刑』。だが厭うなかれ。ラストでは残酷さもグロさも、愛も哀しみも憎しみもすべてが昇華される。幕引きは、泡立っていた水面の漣がひき、しんと静まるかのよう。

耳に残るはニャオ     。(2003/10/20)

追記:2010年9月、中公文庫化。上巻【Amazon】、下巻【Amazon】。


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