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イラクサ/アリス・マンロー

イラクサ
アリス・マンロー

My評価★★★★★

訳:小竹由美子
新潮社CREST BOOKS(2006年3月)
ISBN4-10-590053-6 【Amazon
原題:Hateship,Friendship,Courtship,Loveship,Marriage(2001)

収録作:恋占い/浮橋/家に伝わる家具/なぐさめ/イラクサ/ポスト・アンド・ビーム/記憶に残っていること/クィーニー/クマが山を越えてきた


アリス・マンロー(1931年)は、カナダ・オンタリオ州生まれ。訳者あとがきによると、両親はスコットランド系アイルランド人の家系で、ともに貧しい農場育ちなのだそうだ。こういった家系と家族、作者の経歴が、作品に反映されているように思う。
この作家は長篇を書かずに短篇に徹しているそうで、これまでに総督文学賞(カナダで最も権威ある文学賞)を3度、W・H・スミス賞、ベン・マラマッド賞、全米批評家協会賞、コモンウェルス賞など数多くの賞を受賞。
ニューヨークタイムズ「今年の10冊」選出作、2005年にはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出され、欧米圏で高い評価を受けているとのこと。
読んでみて納得。どれも長篇に匹敵するほどの重みと深さがあり、ずしりとした余韻を残す。

カバーに掲載それている蜂飼耳のレビューが、本書を端的・的確に示している。アリス・マンローの短篇は、心理の揺らぎに光をあて、生きることの内と外に在るたいせつなものを汲み上げる。
答えを急いではならない、なぜなら、いま目の前で起きている出来事のほんとうの意味は、その場で明かされることはないのだからと、物語の底で静かに語る。


主人公は主に壮年や老齢で、彼女(彼)らの何気ない日常生活の一コマを描いているのだが、ロマンティックさとウィット、そして苦味がある。そういった年齢だけが持ち得る過去の思い出があり、その蓄積がいまに繋がっている。
この苦味は何だろう?時間というものが、容赦なく過ぎてゆくということに対して感じるのだろうか。
けれどもこの苦味は、悲痛でも悲愴でもない。過去の出来事を振り返り物事の新たな側面を見い出したり、後悔することがあっても、登場人物はそのことで現在の自分を否定しはしない。
現在の自身の状況が、他人から見ればみじめであったとしても、そのことで彼女/彼らを不幸だと思ったら、おそらく彼女/彼たちは憤然とするのではないかな。そう感じさせる逞しさや独立心を秘めているのだ。

この本は、世代と性別によって感じ方が異なるのではないだろうか。ある程度の年齢を重ねた世代ならば実感できるとしても、十代では理解はできても実感するのは無理ではないかなあ。
私としても、いまの自分では捉え切れていない。しかし10年後20年後に読むと、現在とは異なる感慨を抱くのではないかな。たぶん、いまよりもずっと共感し理解できるのではないかと思う。

マンローの短篇の特徴は、意識の流れを描いていることにあるのではないかと思う。
私たちの思考は平時、時系列に沿って一定方向の事柄だけを考えているのではなく、目の前の出来事にも時系列にも関係なく、様々な思考が脳裏を過ぎる。また様々な矛盾を抱えている。そんな意識の流れを捉えているのではないかな。
私たちは日常生活の様々な場面に応じて、意識的であれ無意識であれ、その時々に取捨選択を繰り返せざるを得ない。それは対人関係においても同様だろう。けれども、相手の考えや感情を100%理解するのは不可能である。
読んでいて、人は一人ひとり違うんだ、ということが強く感じられた。

物語にはどれも確固たる結末が用意されているわけではない。なぜならば答えを知ること、それを手中にすることが、生きるということではないからだろう。なのでやみくもにストーリーを知ろうと急がずに、細部をジックリ丁寧に読み込んでいくことが大切だと思う。細部が大事なのだ。
とりとめもなく書き散らしたが、ともあれ言えることは、大人のための上質の短篇集だということ。(2006/5/26)

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