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私の美の世界/森茉莉

私の美の世界
森茉莉

My評価★★★★★

解説:北杜夫
新潮文庫(1984年12月)
ISBN4-10-117404-0 【Amazon


森鴎外の長女で作家・森茉莉(1903-1987)のエッセイ集。
森茉莉は生来病弱だったためか、父親に溺愛されて育ったという。19歳で結婚しフランスへ渡り、フランスはじめイタリアやドイツなどの芸術に触れる。滞仏期間に父親が死去。のちに二度の離婚を経験。

森茉莉の名前はかなり前から知ってはいたが、耽美な小説世界ということで敬遠していた。お嬢さん作家の耽美小説、というイメージを抱いていたからだ。たまたま彼女のエッセイは、耽美ではなく独特な美学が確立されて、案外に硬派らしいと知る機会があったので、本を手に取ってみた。

読み始めて、最初に抱いた印象は「まるで少女のような人」。お菓子や食べ物にまつわる話。透き通った高価な硝子ではなく、歪んで向こう側がぼやけて見える硝子が好きなのだそうだ。これは自分と同じだ、と思った。
パリのこと、花や絹、手袋、ハンカチ、宝石、服装などの話は、いかにもお嬢さん育ち。一見、世俗的なことには興味がなさそうなイメージなのだが、実はかなり通じているらしく、目も筆も鋭い。
萩原朔美、深沢七郎といった芸術家や文学者、政治家に関する話などもあり、さらに時事問題にまで触れている。それでいて、やっぱり少女のような人という印象を受ける。
自分の意見を持っていて好き嫌いがハッキリしているのだが、俗世の垢に染まらない。そんなところが少女らしく感じさせるのだろうか。

「反ヒュウマニズム礼讃」(実際には「贋ヒュウマニズム礼讃」)や「ほんものの贅沢」を読むと、彼女の美意識は芸術だけではなく、世の中全般の諸事にかかわっていることがわかる。歯に衣を着せない、かなり辛辣な論評だが、妙に共感できた。
「安っぽいヒュウマニズム」はテレビのニュースでよく目にする。贋ものではないだろうが、継続性がないため、一過性で底が浅く安っぽく感じるのだ。「貧乏くさい贋ものの贅沢」には大きく頷く。著者は、贅沢というものは高価な物を所持しているかではなく、中身の心持、精神にあるという。
また、交流のあった室生犀星や三島由紀夫、そして与謝野晶子の描写もあり、教科書などでは知ることのできない人物像が書かれている。彼らに対する遜らない尊敬の念の在り方、そうした矜持の在り方が著者の人間性をよく表しているのではないだろうか。

滞仏経験が、独自の美意識や小説世界を築きあげていっただろうことは、このエッセイからもわかる。大正時代に、フランスなど西欧の芸術に直接触れ得た人はそうそういなかっただろうから、彼女の美意識と知識に反論できる人もそうはいなかったろう。
美に対して敏感で、少女を思わせる鷹揚なところがありつつ、シニカルで舌鋒鋭い。自分自身に対して正直なのだろう。ユニークな人だったんだろうなあ。
本書は森茉莉の感性に満ちている。キラリと鋭い感性があったとしても、その感性を殺がさず文章化できるかどうかは、まったく別次元の問題だ。それができるということは、凡庸な書き手ではないということだ。
ああ、もっと早くに手に取ればよかった。私の考え方と似ているところもあり、もっとこの作家を知りたいと思った。(2008/5/21)

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