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針のない時計/カーソン・マッカラーズ

針のない時計
カーソン・マッカラーズ

My評価★★★★★

訳:佐伯彰一・田辺五十鈴,解説:田辺五十鈴,年譜有り
講談社文庫(1971年12月)[絶版]
0197-330240-2253(0) 【Amazon
原題:CLOCK WITHOUT HANDS(1953)


ドラッグストアを経営するマローンは40歳の冬、白血病と診断された。余命は1年ないし15ヶ月だという。マローンは友人であり店の客である尊敬する老判事に心中をこぼすが、老判事は誤診だと言う。判事は自身の悩みに没頭していた。

老判事は脳卒中で体にマヒが残り不自由だったが、彼には生きる意欲があった。彼を悩ませていたのは自殺した息子ジェニイと、孫のジェスターのことだった。
ジェスターは父の死の謎と、自分が何者で何をしたいのかわからなくて悩んでいた。ある夜、ジェスターはシャーマンと出会う。シャーマンは青い瞳に黒い肌で孤児の青年だった。シャーマンは頭はいいが尊大で嘘つきで、自分が傷つけられることをひどく嫌うため、人を傷つけて優位に立たなければ気がすまない。
ジェスターはシャーマンと友だちになりたいと願うが、シャーマンは感謝の気持ちはあっても、相手を傷つけることでしか自分の気持ちを表現できなかった。

老判事は発作を起こしたときに助けてくれたシャーマンを雇い、彼に全幅の信頼を置いていた。実は老判事はシャーマンの両親を知っていたが、それを本人に教えたくない理由があった。
老判事は南部の貨幣と奴隷制度を復活させて、経済的にも風習的にも連邦から独立することを夢みていた。黒人のシャーマンそのことを告げたとき、シャーマンの反感を買ってしまう。そしてシャーマンは、ふとしたことから自分の両親が誰なのか、その両親と老判事の関わりを知る・・・。

********************

田辺五十鈴の解説が秀逸なので、私としてはもはや何も言うことはない。でも、それでは未読の人には何のことやらわからないので、蛇足ながら感想を書くことにする。
死と南部の黒人問題が絡み合いながら、マローン・老判事・シャーマン・ジェスターのそれぞれの物語が並行する。それぞれ世代も考えも違う人間を通じて、南部という社会の時代による変化が浮き彫りにされる。
死を象徴するマローン、南部の差別主義という旧世代を象徴する老判事、差別される側のシャーマン、二つの人種間で揺れながら新しい世代を象徴するジェスター。この作品で死は個人的な事象に限らず、南部の死、もしくは一つの時代の終わりを象徴している。

作者の人間観察もしくは洞察は、とても細緻で鋭い。シャーマンとジェスターにみる若者特有の苛立ち、決して人柄は悪くはないのだが他人の気持ちに鈍感な老判事。どの人物も善悪以前に美と醜が描き出されている。美しくも醜くも賢くも愚かにもなれ、愛するその心で憎むこともできる人間という存在。
一人間の内にある多面的で相反する心情を、ぬくもりを持って書かせたら、マッカラーズの右にでる者はいないのではないだろうか。

本作は、若くしてリューマチ関節炎になったマッカラーズが、マヒによる激痛と闘いながら、一日1ページずつ書いた最後の作品。おそらくは自身に迫りくる死の影をみつめながら書いたのであろう、全編に死が満ちている。
始めのうちはそれらの死に戸惑うかもしれないし、読む側のポテンシャルが低いときには気分が滅入るかもしれない。しかし、ラストでは死を超えた清清しさと開放感を感じさせ、死や人間であることの愚かしさと醜さをも包み込む慈愛に満ちている。(2001/5/23)

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