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パイド・パイパー/ネビル・シュート

パイド・パイパー
ネビル・シュート

My評価★★★★☆

訳:池央耿
解説:北上次郎
創元推理文庫(2002年2月)
ISBN4-488-61602-X 【Amazon
原題:Pied Piper(1942)


1939年、ロンドンのクラブでドイツ軍の空爆に見舞われた私は、爆撃が終わるまで元弁護士のハワード老人から話を聞く。
戦争が始まっても70歳になろうとするハワード老人に出来ることは何もなく、苛立ちだけが募る無為の日々を過ごしていた。ハワードはしばらくイギリスから離れて、フランスの田舎で釣りを楽しむことにした。ドイツ軍がフランスへ攻め入ることはないと信じていたからだ。ドイツ軍がデンマークとノルウェーに侵攻した4月10日、ハワードはフランスへと向かう。

ハワード老人は悠悠自適に過ごしていた。だが6月4日、パリが空爆。彼は自国へ戻ることにした。自国に戻って、何か自分にできることを手伝おうと思った。
急遽帰国しようとするハワードは、ジュネーヴから来たイギリス人の夫婦から、子どもたちをイギリスの親戚まで連れて行ってほしいと頼まれる。国際連盟に属す夫婦は、ジュネーヴを離れられないからだった。
ハワードは幼い兄妹ロニーとシーラを引き受け、ドイツ軍の制圧したカレーを避け、一路パリ経由でサンマロ、そしてサウサンプトンへと向かう。だが、シーラが発熱して宿に足止めを喰らう。

折りしもイタリアがフランスに戦線布告をし、ドイツ軍によってフランス北部が制圧された。危機を感じた宿の女中はハワードに、姪をイギリスの親元へ連れて行ってほしいと頼み込む。
3人の子どもを連れてパリ行きの列車に乗るが、途中で列車は止まってしまう。ドイツ軍がパリに侵攻中だったからだ。
ドイツ軍に包囲される只中、ハワードは港へ出て海峡を渡ろうとするのだが、イギリス人だとバレれば捕虜となり、ゲシャタポに捕まる危険があった

********************

パイド・パイパーと言えば『ハーメルンの笛吹き伝説』が有名だけれども、ここでは老体にムチ打ったハワード老人と子どもたちによる戦時下フランスからの脱出行。老人と子ども、そして女性といった社会的弱者たちが、危機に直面しながらも非抵抗・非暴力を貫く。

冒頭でのクラブの会話から明らかなように、物語はすでにロンドンへ帰って来たハワードの語りによる。
だから無事だったのはわかっているのだ。それでもグイグイ読ませてくれる。しかも派手なアクションがあるわけではない。にも関わらず次から次へと難題が押し寄せて、「いったいどうなるんだろう!?」と、先を読まずにはいられない。
「どうやって戒厳令下のフランスから脱出するのか」ということが物語の主軸ではあるが、「なぜハワードは子どもたちを連れているのか」ということが重要ではないだろうか。

どの子どもも個性的に書き分けられており、幼くして様々な過去を背負わされている。そのことがよくも悪くも事態を深刻にさせてしまう。
しかし子どもたちは、大人では到底越えることの出来ない人種、言語、閉ざされた心などの垣根を、いとも軽々と越えてしまう。
子どもたちには事態の深刻さが理解できていない。ハワードは、子どもたちに戦争の悲惨さを知ってほしくない、戦争の巻き添えにしたくない、酷い現状を覚らせまいと必死になる。
だから子どもがドイツ軍の戦車に興味を持っても、ドイツ軍のいるなかでイギリスの言葉で話しても、決して責めない。そんなハワードの気配りが、物語に緊迫感を与えていると思う。
初めハワードは子どもに尋ねられるまま、「いい飛行機はイギリス軍、悪い飛行機はドイツ軍」だと教えてしまう。だがそのイギリス軍が、親切にしてくれた女性にケガをさせる。
子どもたちは、ケガをさせたのはイギリス軍ではなく悪いドイツ軍の飛行機だと信じているため、ハワードは何も言えなくなってしまう。

この作品の初出は1942年、第二次世界大戦に突入しようとするまさに直前、ロンドン大空襲に触発されて執筆したという。
老人と子どもの旅とユーモアを滲ませたハワードの口調から、些かほんわりした作品のような印象を受けるが、大戦を体験した作者ならではの戦争の理不尽さと、子どもたちに託そうとする未来への希望が伺える。
この時代に子どもたちの未来を憂いた作者ネビル・シュート(1899-1960)の姿勢を褒め称えるべきだろう。そして戦争は犠牲者を生み出す、ということを忘れてはならないと思う。(2002/4/6)

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