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ケルト/装飾的思考/鶴岡真弓

ケルト/装飾的思考
鶴岡真弓

My評価★★★★★

解説:松山巌
ちくま学芸文庫(1993年9月)
ISBN978-4-480-08094-3 【Amazon


ケルト/装飾的思考ケルトの古写本や遺跡などの構造物、装飾品ほか発掘品、歴史、文学など多面的な視点から、ケルト装飾文様に表現されたケルトの宇宙観、ケルト装飾の精神性を解き明かし、従来のヨーロッパ美術観では説明しきれない(と私は思う)、もうひとつのヨーロッパ美術の源流を探った労作。
ケルト3大装飾写本の1つで、装飾写本の傑作『ケルズの書』(8世紀にアイルランドで製作された典礼用福音書)ほか図版多数。圧倒されそうなほど膨大な資料を駆使しての稠密な展開に敬服です。
しばらく絶版で入手できなかったのですが、2010年秋、筑摩書房70周年に記念復刊されたので読むことができました。

今世紀の初め、<装飾>は未開の民族の美術で、近代人はそれを必要としないと主張した建築家もいた。が、実はヨーロッパの内部に、装飾文様によって魔性のように眩惑的な世界像を描く伝統が確固としてあることを、ケルト美術は示していると思われた。とすれば、その始源を解き明かすことは、とりもなおさず、われわれにヨーロッパ美術の本流として紹介されてきた造形原理とは全く別の、もうひとつのヨーロッパの基底を流れる原理を発見することでもあるのではないか。(p433)冒頭「今世紀」とは20世紀のこと。
「われわれにヨーロッパ美術の本流として紹介されてきた造形原理とは全く別の、もうひとつのヨーロッパの基底を流れる原理」、それを究めたが本書なのです。

ケルト装飾文様は写本や絵画、石塔ほか建築物、装飾品などに表れ、ロマネスクやゴシックを経て、変容しつつもアール・ヌーヴォーへと至り、ヨーロッパ美術の中で綿々と引き継がれているのだそうです。ケルトの精神はいまもヨーロッパ文化の中で生き続けているのでしょうね。
ケルト装飾文様の手にかかると、キリストなどの聖人像も変化していき、とてもユニーク。こんな図像があるのかと驚かされました。いやあ、ヨーロッパ美術って奥が深いですねえ。
でも、なぜそんな表現をするのか?装飾表現にはどんな意味が込められているのか?
装飾文様の生成を、豊富な資料を駆使し、歴史を追いながら順に丁寧に解きほぐしたのが本書。中世の西欧美術はもとより、ヨーロッパ美術の好きな人には必読の書でしょう。
ただ残念なのは、文庫なので図版が小さくてよくわからずモノクロなこと。『ケルズの書』については大判のカラーで、バーナード・ミーハン『ケルズの書』(訳:鶴岡真弓,創元社)【Amazon】が刊行されているので、併せて読むといいです。

私は西欧中世美術が好きなのですが、ヨーロッパ美術(ヨーロッパ全体については知らないので、私の場合は西欧美術に限る)に触れるとき、どうしても理解しきれない部分があるんです。
一般的な歴史書や美術書で得る知識では解釈できない(そう言えるほど読んでいるわけではないのだけれど)、西欧美術の中で、異質さを放ちながら蠢く生命力のようもの。
世間一般的に私たちに知られている西欧美術を著者の言うように「本流」とすると、その本流に影のように寄り添い途切れることなく脈々と続いているのだけれど、それでも取り上げられることなく表面化されていない部分。それを私は、西欧美術の中の闇の精神のようなものと感じていたのです。
そのような異質さの要因は、古代東方世界(主にイスラム社会及びインド)への憧憬や畏怖とか、暗く深い森林に閉ざされていた古代ヨーロッパ人の感性、などというだけでは説明しきれない。それらを取り入れようとする素地がすでにあったと考えるべきではないのか、と思っていたわけです。
本書を読んで、異質さを感じていたのは装飾部分だったことに改めて気づかされました。目にしていたのは確かに装飾部分なのだけれど、意識していなかったんですね。
また、私の感じていた異質さは、自分だけの思い過ごしではなかったことに自信をもちました。ただ、それがケルトに由来するとはまったく思ってもみなかったけど。

本書で取り上げている装飾品他の資料だけでも相当な量。著者は丹念なフィールドワークを繰り返し、安易な結論に飛びつかないよう、妥協せず常に「なぜ」と問い続けます。まったくもって素晴らしい研究者です。
著者と比べると安易な結論に飛びつく研究者のなんと多いことか、と気づかされてしまいました。困った、これほどの研究者魂を見せつけられると、ヘタな美術書は読めなくなるなあ。(2011/1/14)

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