スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

サトラップの息子/アンリ・トロワイヤ

サトラップの息子
アンリ・トロワイヤ

My評価★★★★☆

訳:小笠原豊樹
草思社(2004年2月)
ISBN4-7942-1283-6 【Amazon
原題:Le fils du satrape(1998)


1920年3月、革命に揺れるロシアから命からがら逃れたタラソフ一家は、航路をコンスタンチノープル経由でヴェネツィアに上陸し、慌しく列車でパリへと向かった。一家は祖母、父母、兄と姉、主人公のレフ(愛称リューリク)少年、家庭教師のボワロー嬢の7人。
当初、父母はすぐにでもロシアに帰れると思っていたので奢侈な生活をした。だが、いつまで待ってもロシアへ帰国できる日は来なかった。そのうち父が投資に失敗し、パリで貧窮生活を余儀なくされる。

パリでリューリクは、友だちのニキータと再会する。ニキータの発案で二人は一緒に小説を書くことになった。タイトルは『サトラップの息子』。二人は日曜ごとにアイディアを持ち寄って、ニキータの家で小説を書くことにする。
だが、突然ニキータ一家が夜逃げしたために、サトラップの息子は未完のままとなった。リューリクはニキータに会いたいと願うが、ベルギーにいるとしか所在がわからなかった。

月日は流れ、父母は遂に破産した。法学を学んだ私は、公職に就くためフランスに帰化するかどうか悩む。
やがてリューリクは作家として成功を収めるが、時はドイツ軍がパリへ侵攻する最中だった。平和が訪れたとき、私はニキータに会おうとするのだが・・・。

********************

巻頭に作者から日本の読者に向けての寄稿文あり。アンリ・トロワイヤは1911年、モスクワ生まれ。幼いときにロシア革時があり、両親とともにヨーロッパへ避難。後フランスに帰化。フランスを代表する作家の自伝的小説。主人公のレフ・タラソフ(リューリク)はトロワイヤの実名。

革命の嵐に見舞われるロシアからパリへの逃避行など自伝的要素が強いが、どこまでが事実なのかはわからない。
だが読了すると、この作品は自伝ではあるだろうけれど、「小説」なのだということがわかる。作品そのものが小説として書かれており、読後感も小説そのもの。
歴史的な出来事が背景となっているが、歴史を知らなくても読みやすかった。作者の年齢によるのか性格なのか、それともロシア人の気質なのか、全編を通じておおらかさが感じられた。

ロシアへ帰国することを夢見る父母。母親は逃避行中なのにも関わらず、ヴェネツィアを観光したいと言い出したりする。暢気なのだが、芯のシッカリした人として描かれている。
彼女にとっては嫌な事は、靴下をかがらなければいけないような貧乏ではなく、他人によって家庭を荒らされることなのだろう。

青年となった主人公レフは、職に就くためにフランス国籍を取得しようとする。
亡命ロシア人ではあるが、幼くからフランスで育ち教育を受けたレフにとって、もはやフランスが故郷といっていいだろうが、現実はそうはいかない。
そんなレフと生粋のロシアっ子の父親とでは、ロシアへ寄せる想いにかなり温度差がある。故国喪失者の想いは複雑で、私には真に理解することはできないだろう。
ボリシェヴィキを憎む父親は、当初ドイツ軍によるロシア侵攻を支持するが、ロシアの人々の惨状を知って愕然とする。そして父親の胸に同胞愛が目覚めたことを、主人公は見てとる。こういった事は、やはり当時を生きた人でなければ書けないだろうなあ。

この作品の一番の山場は、なんといっても大戦後に主人公がニキータと再会しようとするところだろう。
力まず感傷に走らず厭世的にならず、かといって冷めているのでもない、そんな余韻が胸の裡に残る。この余韻については一言ではいえない。文章は平明なのだが、そこに込められている想いが多岐で複雑なのだ。
この終幕でトロワイヤという作家に惹かれ、他の作品も読んでみたくなった。(2004/4/6)

追記:2007年、95歳で逝去。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへにほんブログ村 本ブログ 海外文学へ

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

H2

Author:H2
My評価について
=1ポイント
=0.5ポイント
最高5ポイント

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。