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パルンガの夜明け/ラーム・セーカル

パルンガの夜明け
ラーム・セーカル

My評価★★★

訳:高岡秀暢
挿画:マニック・ヘラ
新宿書房(1993年3月)
ISBN4-88008-184-1 【Amazon


ネパールのカトマンズ近くの盆地にある、貧しい農村パルンガ。村の農民は、搾取や圧制に苦しんでいた。
早くに両親を亡くしたアーシャマルとスンマーヤーは兄妹は、父親の遺した一枚の畑を耕したり家禽の世話をして、なんとか生計を得てきた。だが、アーシャマルの水牛が突然、病死してしまった。
アーシャマルは、水牛を買うお金を貸りたチニヤ・サウ(王様の代官という意味の称号。この称号を持つ者は村の偉人、実力者となる。王政復古の政変の前は、ジンメワラ(村の権利を占有する者)と呼ばれていたという)に、お返済するまでの担保に畑を取り上げられる。
しかもチニヤ・サウは、当初の話と違う金額を持ち出す。水牛の代金は、アーシャマルに支払える金額ではなかった。

アーシャマルは道路工事の日雇い人夫として働くが、賃金はピンハネされたり食料を要求される。しかし事故でケガをしても何の保障もない。アーシャマルは幼なじみで親友のブユチャに、村を出ようともちかける。
一方、スンマーヤーが何者かに襲われ、身ごもってしまう。彼女は友だちや村の女たちに軽蔑されながらも黙って耐えていた。しかし兄妹に対するあまりの不条理さに、ついに彼女の怒りが爆発する。

********************

カトマンズに古くから居住するネワー民族のネワー語で書かれた小説。原題を直訳すると『夜の帳がやや白く破られた夜』だという。原書は1973年刊。
内容を一言で要約すると、悪徳代官とそのドラ息子の搾取と圧制に苦しむ農民兄妹の話。役人や警官も腐敗しており、農民たちの味方ではない。ここで水戸黄門が登場すれば一件落着なのに、などとつい思ってしまう。

訳者あとがきによると、ネパールの人種と言語は三つに分類できるという。インド・アーリアン語系(国語のネパーリィ、インド平原のマイティリィ等)、ビルマ・チベット系(ネワー語、ライ語等)、チベット語系(シェルパ語、グルン語等)がある。(p232)
日本や諸外国では一般的にネワール語と呼ばれているが、ネワー語には「ネワール」という言葉はないのだそうだ。ネワー語が最も古く記述されたものでも、千年を越えることはないらしい。

現在の国語はネパーリィだが、かつてはネワー語が公用語だったそうだ。だが、18世紀の王朝によってネワー語の使用が制限され、19世紀には激しい迫害を受けたという。
第二次世界大戦後の政変によって政治的には安定するが、教育や出版活動などが制限される。1970年ごろから民主化運動が始まり、1990年4月にネパールが民主化され、表現の自由がゆるくなったという。

原書は民主化運動の当初で、検閲が厳しかった時代に書かれている。農民たちは圧制から開放されることを希み、それが革命へと発展するのだが、おそらくは検閲をパスして発禁処分を逃れるためであろう、ハッキリとした批判的な言葉では書かれていない。
政治的批判または主張が婉曲に表現されており、特に結末が曖昧なためにもどかしさが残る。しかし肝心なのは内容よりも、おそらくはネワー語で書かれたということに尽きるのだろう。

この作品は政治色一辺倒であったり、ヒステリカルなまでに革命を求めるだけの話ではなく、地域の風景描写や、神話や民話あるいは民間伝承を盛り込まれていて、それらがおおらかな雰囲気を生み出している。また民族固有の文化にも触れており、チニヤ・サウの家系は神話や伝承に求められている。

民族の言葉で書かれたといっても、言語の自由という問題になじみがないため、いままで母語の重要性がピンとこなかったのだ。しかし、本書を読んで民族の言葉で書かれることの意義がやっとわかったような気がする。
ネパールの政治情勢はいまも不安定だが、民主化が確立し根付けば、作者はもっと自由に表現でき、持ち味が発揮されるのではないかと思う。もっと民族固有の思想と文化を取り入れた作品を書くことができるのではないだろうかと思うのだが・・・。中国政府の属領的現状では難しいだろうなあ。(2005/5/16)

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