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誰がドルンチナを連れ戻したか/イスマイル・カダレ

誰がドルンチナを連れ戻したか
イスマイル・カダレ

My評価★★★☆

訳:平岡敦
白水社(1994年4月)
ISBN4-560-04317-5 【Amazon
原題:Qui a ramené Doruntine?(1986)


中世アルバニアのとある村。
夜明け前、警備隊長ストレスは部下に起こされた。ヴラナイ家の未亡人と娘のドルンチナが、ショックのあまり倒れて危篤状態だという。
ドルンチナはボヘミアへ嫁に行ってから、3年前の兄弟の葬式も帰って来なかったのが昨晩、突然に帰って来た。いったい誰がドルンチナを連れて来たのか?

母親が訊ねるとドルンチナは、兄のコンスタンチンが連れて来てくれたと答えた。
コンスタンチンは、ドルンチナの結婚式のときに「母親が娘を恋しくなったときは、いつでも連れ戻しに行く」という<誓い(ベーサ)>をたてていた。だがコンスタンチンは3年前に死んでいた!9人の兄弟全員が戦死していたのだった。

ストレスは調査を始めるが、未亡人と娘のドルンチナは亡くなってしまった。
人々はドルンチナを連れて来たのはコンスタンチンの亡霊だ、コンスタンチンが誓いを守るために墓から蘇ったのだと噂する。
噂は瞬く間に公国と近隣諸国へ広がり、対立するローマ・カトリック教会とピザンチン教会の目をひいた。
コンスタンチンの蘇りは教義を根底から揺るがす異端思想だからだ。ストレスは大主教から直々に早急な解決を命じられる。

********************

イスマイル・カダレ(1936年生れ)はアルバニアで作家活動をしていたが、1990年にフランスへ亡命。
原書は1980年刊、日本語訳の定本はフランス語版(1986年刊)。
訳者あとがきによると、フランス語版の訳者は18年間フランスに暮らし(ということはアルバニア人か)、カダレにフランス語を手ほどきした人物だそうなので、フランス版を『真正の版』(つまり重訳ではない)と考えているという。

警備隊長ストレスが、ドルンチナの帰館の謎を解くというミステリータッチだが、ミステリーではない。もちろんオカルトでもない。ドルンチナを連れ帰るコンスタンチンの話はアルバニアの伝説にあり、伝説ではコンスタンチンは、ドルンチナを家へ送ってから墓に戻るところで終わるという。
作者はそこから話を発展させ、舞台を中世にしているが現代のアルバニア民族の在り方、近親婚という閉鎖的な社会からの脱皮を描いた作品。しかしこの作品は、アルバニアの国内や民族内の問題提起だけに留まっていない。

この作品で重要なのは<誓い(ベーサ)>だ。口頭で誓うベーサは最も神聖で絶対的なもの、誓いを破ることは最も恥ずべきことで最も罪が思いのだそうだ。
作中でコンスタンチンは従来のベーサを新たに見直し、法律や制度、宗教など人間を外側から罰する押し付けられた制度に対して、人間の内側から自発的に生まれる律法に発展させたいと考えていた。一方ストレスは、ベーサを「道徳律」と表現している。
ベーサはアルバニア国内だけではなく、国境を越えて全世界へ通じるまたは全世界を結ぶ、道徳的価値観・指標というニュアンスが強い。端的に言えば社会ルールであろうか。
押し付けの法律や制度ではなく、人と人を繋ぐべく個人の内から生まれて自発的に行なわれるルール、それがベーサなのだろう。

背景にはアルバニアの歴史が深く関わっている。
アルバニアはバルカン半島のオトランド海峡に面し、ユーゴスラヴィアとマケドニアに隣接している。オスマン・トルコ帝国時代から冷戦時代を経て諸外国に侵略されてきており、現在でも紛争が絶えない。
作中ではローマ・カトリック教会とピザンチン教会の覇権争いによって、アルバニアの宗教が幾度も変転するため、無宗教(従順に受け入れざるを得ないが信望しない)となった人々が描かれている。ちなみにアルバニアは、世界初の無宗教国家と言われた国である。
常に諸外国の脅威に晒される国にとって、良く言えばベーサこそが民族(人間)に誇りを持たせて団結させ、民族や国という枠を越えて平和への第一歩を踏み出させるものと考えられる。(2002/3/19)

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No title

新刊の「死者の軍隊の将軍」の方はあまり進んでないのですが、こちらは読みました。ミステリのようで幻想小説のようで、短いけれど読み応えがあって、不思議な魅力がありますよね。

No title

★jacksbeans さん
「死者の軍隊の将軍」は未読なんです。
「誰がドルンチナを」は、ミステリのようなゴシックの幻想小説のような。独特な魅力がありますよね。「死者の軍隊」もこんな雰囲気なのでしょうか?
案外に短いですよね。でも内容が濃く、印象深かったです。
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