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砕かれた四月/イスマイル・カダレ

砕かれた四月
イスマイル・カダレ

My評価★★★☆

訳:平岡敦
白水社(1995年6月)
ISBN4-560-04578-X 【Amazon
原題:Avril Brisé(1982)


20世紀前半のアルバニアの高地。中世と見紛うが、旅客機が飛ぶ現代を舞台にしている。
高地人の26歳の青年ジョルグ・ベリシャは、<掟(カヌン)>に従って兄の仇であるクリュエチュチェ家のゼフを撃ち殺して『復讐』を果たした。
掟によれば弔いのために24時間の休戦があり、その後は村の長老たちによって決められる30日の休戦が慣例となっている。ジョルグは30日の間に、大公一族の住むオロシュの塔へ出向いて、血の税を納めて戻って来なければならない。
30日間の休戦開けには、今度はジョルグに対してクリュエチュチェ家の復讐が始まるのだ。復讐は<血の奪還>称される。

首都に住む作家ベシアンは新妻のディアナと、ハネムーンで高地に来た。ベシアンは高地の伝説や神話的世界と掟に通じており、それらを作品にしていた。
上流階級の二人は豪華な馬車で高地を巡る。土地の人々は首都から来たディアナを、まるで女王のように眺める。
ディアナは、ベシアンのように掟に心酔しておらず、どちらかと言えば懐疑的だ。
二人は旅籠で、血の奪還の印である袖に黒いリボンを付けた山人の男を見かけた。男はジョルグといった。
ディアナはなぜかジョルグのことが忘れらない。ジョルグもまた、ディアナにもう一度だけ会いたいと願うが、彼に残された時間は刻一刻と過ぎてゆく。

********************

「アルバニアってどこだろ」と思って、ネットで地図と歴史を検索してみた。ああ、バルカン半島だったのか。そうだ、コソボだ!
アルバニア共和国は、地理的にはギリシアの上、オトラント海峡を挟んでイタリアと対峙している。
長年に亘り半鎖国的な社会主義体制の国だったのだが、冷戦終結後に政策を大幅に修正し、国際社会に復帰。
20世紀初頭までオスマン・トルコの支配下にあったが、遡ると古代ローマ時代からの都市なのだそうだ。もっと遡ると北方のケルト民族が都市を興したらしい。
ザッ歴史をおさらいしたあと、地図を見ると、この国の複雑さと閉鎖性がなんとなくわかるような気がする。
もっとも本書はフィクションだし、『復讐』は作者のアイデアだという。現実にこんな復讐が行われたら、とうに民族が滅びてしまったことだろう。
しかし、なぜかウソっぽく感じない。リアルに感じたかと言うと、それもちょっと違うのだけれど。生々しいという感じかな。

中世のような世界に、暗く悲壮感漂うゴシック小説的な雰囲気があるけれども、一種独特の作風。
<掟(カヌン)>によって支配されるいまだ中世的世界は、慣れるまで異質に感じられて戸惑った。宗教でも法律でもなく、掟が絶対的な支配力を持つ世界はあまりにも馴染みがないためか、その非合理さと不条理さゆえか、とても異質に感じられた。
どちらかと言えば欧米のキリスト教世界になじみがある(主にメディアからの知識だけれど)ので、作中の非キリスト教的世界観に戸惑ってしまったのだ(現在は人口の70%がイスラム教徒)。

掟での境界線の取り決めは、そもそもは石投げで解決される平和的な解決法だった。ところが銃を手にしたことから、殺戮という復讐へと一変してしまう。掟は次第に改正され、復讐が推奨される。
そして、高地人は果てしなき復讐の連鎖を繰り返す。人々は常に過去の恨み辛みに囚われ、未来へ向ける視線は閉ざされている。復讐という行為が、人々の目を未来へと向けさせないのだ。作中に蔓延する閉塞感や虚無感は、よりよい未来を夢見て生きる希望が閉ざされてしまうからだと思う。
復讐は未来に何も生み出さない。数週間後、数カ月後、数年後に生きているかどうかわからないのに、どうやって未来への生計を描けよう。そんなだから中世から進歩しておらず、中世のままで時が止まったかのような世界なのだろう。
そんな高地の世界を、外部者の目線で鳥瞰すべくディアナが登場する。彼女を見た者は、己の不毛な生が晒され暴かれるかのような不安に襲われる。
彼女の眼差しは、因習に縛られて歪んだ高地を刺し貫く冴え冴えとした月の光矢。しかし、ディアナも高地の虚無に取り込まれてしまう。未来が見えないゆえの閉塞感、袋小路の虚無。

この小説は何だろう、作者はいったい何を言いたかったのだろう?穿った見方して、高地という舞台をバルカン半島へ置き換えてみる。
過去に縛られ幾世代も続く果てしなき抗争、血の応酬による殺戮の連鎖、そこから逃れられない人々。バルカン半島における民族紛争問題が見えてこないだろうか。(2005/9/30)

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