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輝く世界/アレクサンドル・グリーン

輝く世界
アレクサンドル・グリーン

My評価★★★★☆

訳:沼野充義
解説:岩本和久
カバー画:チュルリョーニス
沖積舎(1993年8月)
ISBN4-8060-3020-1 【Amazon


サーカスに飛び入り出演したいと言う謎の男。男は名前を明かさず、しかも報酬はいらないと言う。
観衆が見守る中、男は重力の支配を受けず空中に浮かんだ!?空を飛び、静止し、歩いて見せたのだ。非現実的な出来事に観衆はパニックに陥るが、才媛のルナ・ベグエムだけは歓喜に満たされていた。

政府は男ドルートの存在が秩序を乱すとして、宿泊先のホテルから連れ去って監禁する。
だがドルートはルナの手助けで脱出。しかし愛を求めるドルートと、権力を求めるルナは相容れなかった。ドルートは立ち去り、リッス灯台守の友人ステップスの元へ身を寄せる。

トルプ氏に本を読み聞かせるために雇われ、リッスに到着した少女タヴィは、クルクスという男と出会う。しかしトルプ氏は亡くなっており、彼の妻によってとんでもなく恥辱的な仕事だったことを知らされる。
タヴィの残金は少なく、家族がいないために帰る家はない。彼女が途方にくれていると宙を飛ぶショーがあり、魅せられたように現場へと向う。
そこではクルクス=ドルートが、前代未聞の飛行実験を行おうとしていた。実験は成功するが、ドルートの存在を憎む組織の指示によって、タヴィは憲兵に捉えられる。
一方、ドルートによって心の平穏を乱されたルナは、次第に彼を憎むようになり、彼を捉えようとする組織の指導者に協力する・・・。

********************

ロシアの作家アレクサンドル・グリーン(1880-1932)が、1923年に脱稿したという架空の国「グリーンランディア」(この地名は作者の歿後に命名されたという)のリッス市を舞台にした物語。グリーンランディアの地図有り。
かつて月刊ペン社の妖精文庫(単行本,1978年刊)から刊行されたが廃刊。妖精文庫版の装画はとても美しかったのになあ。
本書は妖精文庫版の訳に手を入れて復刊したもの。装画『天使(天使のプレリュード)』の雰囲気から、井上直久さんの『イバラード』を思い浮かべました。

サーカスに現われた自由自在に空を飛ぶ男。エンジンもプロペラもなく、4千個の鈴の音が醸し出す音波で浮揚する舟・・・。多くの人が憧れるが、果たすことのできない夢。そんな人たちに、ドルートは信じること、微笑みを絶やさずに喜びのままに生きることを伝えようとします。
しかし誰にとっても叶わない夢をドルートだけが実現できるがゆえに、目前での出来事を拒絶して彼を憎む者もいる。己の限界を知っている者には、彼の存在が許せないのでしょう。自らに限界を設けている人々には、頭ではなく心から信じて受け入れることができないわけです。

幻想小説と言い切るのは難しい。思想的な小説でもあるので、ファンタジーというよりはユートピア小説に近いのかも。
ファンタスティックな作品ですが、リッス市は現実世界とそう変わらないんですよ。都市は現実と同様に機能して、誰もが様々なしがらみの中で生きている。ここには夢みるような甘さではなく陰翳があります。
架空世界を舞台にしているのは、政治色を排したかったからではないのかな、と思えなくもないです。

モチーフは魅力的なのだけれど練られておらず、全体的に荒削り感は否めません。ところどころ辻褄が合わなかったり説明不足だったりするため、手放しで賞賛するのは難しい。
ドルートとタヴィがどうなったのかわからないし、ドルートの最期は唐突すぎ。謎の組織の指導者が、妙に意味深に書かれているけれど、彼が何者なのか判然としない等々疑問は尽きません。読む側が自分で補足して読むしかないのでしょうが、にも関わらず魅力ある作品なのです。

作者自身が本作を<魂の飛翔>と明言しているように、ラストでは時間と空間を越えてこだまする歌声に耳を傾けたい。時を越えて各人の胸に刻まれる想い・・・。そこにドルートの目指したものと、作者の想いが込められているように思います。(2002/10/1)

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