スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

世界の果ての庭/西崎憲

世界の果ての庭
西崎憲

My評価★★★★☆

新潮社(2002年12月)
カバー画:上田勇一
ISBN4-10-457201-2 【Amazon


2002年、日本ファンタジーノベル大賞、大賞受賞作。
大学院生時代はイギリス庭園を研究テーマとし、いまは小説家として活躍している主人公。
彼女は出版社のパーティーで、日本の近世文学、正確には近世思想を研究しているアメリカ人男性のスマイスと知り合う。
スマイスは、大伯父の遺品で日本の作家からの手紙に記された言葉について調べていた。その言葉は詩のようでもあり文字の羅列のようでもあった。
その日本の作家は、明治時代に活躍した渋谷緑童(しぶたに・りょくどう)。スマイスは、緑童の作品では「人斬り」が面白いと言う。
スマイスは緑童が縁で、江戸自体の漢学者で哲学者の皆川淇園(みながわ・きえん)と、富士谷成章(ふじたに・なりあきら)とその息子の御杖(みつえ)親子を研究している。

主人公の生活を軸にして、複数の物語が同時進行する謎めいた物語群。やがてその謎から、ある一つの言葉に集約されるものが浮かび上がる。
皆川淇園と富士谷親子の話、人斬りの話、小学校6年生のときに駆け落ちして、五年後に帰って来た主人公の母親の話。母は若くなる病気にかかっているという。

22歳で召集された祖父は、戦場へ赴くまでの間に祖母と結婚して過ごした。
ビルマで終戦を迎えた祖父は捕虜となったが脱走し、その後の消息は要として知れない。ここで語り手は祖父その人となる。ビルマの森を彷徨って倒れてから、気がついた彼がいたところは!?

********************

作者、初めての創作小説。英文学の翻訳家としてキャリアも知知名度もあるので読む前から期待が高かったのですが、期待を裏切らない出来栄えでした。
江戸時代とイギリス庭園という、和と洋を結んでいるところが新鮮。いろんな面で作者の美学が横溢していて、スッキリとした文章で綴られてます。香の名残りのように仄かな幽艶さのある美しい作品。装丁も美しい。

主人公である小説家の女性と、彼女が出会ったスマイスが発端となって、彼女らの物語から他の物語へと連なって語られます。多重構造だけれど、「重」と言うより「面」的な拡がりがあるので、多面体的構造かな。
祖父を主人公とした物語がとても印象深く、久遠の垂直水平方向に拡がり、時間と空間を越える世界。こうした世界や御杖の生涯、辻斬り、イギリス庭園の話など、眼に見える現実とその裏に潜む意味、実在と非実在の間に位置する幻泡、幽遠さ(遠くはないのだが)とでも言おうか、そんな雰囲気を感じました。
イギリス庭園や御杖の「いれひも」は、<枠>という共通項で結ばれています。そのためかどうか、両者に潜む精神活動がなぜか近しいものに感じらます。

なぜ母親は病気にかかったのか、祖父のいたところはどこなのか、髪の毛の意味については語られません。こられは一種の「耳嚢」なのでしょう。作者流の「倒語」のようにも思われます。
誰もが自己から逃れることができず、己の精神や諸々の意味、状況に囚われるなかで、唯ひとり母親だけが何ものからも逃れられたのでしょうか。
一応の結末はあるのですが、個々の物語も全体的にも、謎は謎のまま残されます。
本来、物語というものは曖昧で、各人各様に好きなように考える空想のの余地を残すものではないでしょうか。この作品では、読む側に充分な想像の余地を残していると思います。

この作品は好みが分かれるだろう思います。誤読しようのないキチッとした起承転結や、ラストで物語が収斂してすべてが解明されることを求める人には不向き。でも、好きな人にはたまらない物語だと思うんです。私はこういう作品は好きなので、充分に堪能できました。(2003/1/23)

追記:2013年4月、創元SF文庫化【Amazon】。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

H2

Author:H2
My評価について
=1ポイント
=0.5ポイント
最高5ポイント

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。