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真夏の航海/トルーマン・カポーティ

真夏の航海
トルーマン・カポーティ

My評価★★★

訳:安西水丸
ランダムハウス講談社(2006年9月)
ISBN4-270-00142-9 【Amazon
原題:Summer Crossing(2006)


1940年代前半のニューヨーク。上流階級の令嬢で17歳のグレディ・マクニールは、客船でパリへ旅行する両親に同行せず、真夏のニューヨークに残ることにした。
母親のルーシーは、グレディをまもなく社交界へデビューさせようと躍起になっていたが、グレディは社交界に興味がない。それに、母親や家族を嫌っているわけではないが、心底からの愛情を感じられないでいた。

姉のアップルは結婚して家を出ているので、グレディ一人暮らしになる。彼女は秘密にしていることがあり、それは幼なじみのピーター(ウォールト・ホイットマン二世)にも秘密。彼女はクライド・マンザーと二人で過ごすために居残ったのだった。

上流階級の令嬢として、新聞に載るほど注目を集めるグレディ。一方、貧しく学歴もなくユダヤ人の母親を持つクラウド。あまりにも対照的な二人。
グレディは彼が自分のことをどう思っているのか知りたいと願う。でも、クライドはそっけない。
しかし、実はグレディは、本能的にクライドへも一線を引いていたのだった。そのことがクライドをして、クレディへの感情をセーブさせていた。
そこへピーターが、グレディへの自分の気持ちに気づき・・・。

********************

2004年に原稿が発見されたトルーマン・カポーティ(1924-1984)の幻の処女作。
発見と出版までの経緯に関しては、巻末のアラン・U・シュワルツ『失われた処女作の軌跡』に書かれています。
カポーティが住んでいたアパートを引き払うとき、本作の原稿や手紙、写真などをゴミとして処分するよう守衛に任せた。けれどもその守衛が取って置き、それから50年後、守衛が亡くなった後に親族が受け継いだのだそうです。これらを親族が処分するためサザビーズに連絡をとったことから、世間の知るところとなったのだそうです。
そうやって50年間も、原稿や手紙などが世間の目に触れずにいたんですねえ。ひょっとして、他の作家も含めて、未発表の原稿を持っている人がまだどこかにいるのかも。

この作品は未完で、「この人たちはこれからどうなるのだろう?」と気になるところで終わっています。でも、私はこのままでもいいんじゃないかと思うんです。
先のことはどうなるかわからない、その中を迷い傷つけ合いながらも疾走しようとする。そのことが、結末のないため、逆にリアルイタムに感じられるような気もするんですよね。

当時は階級制度があり人種偏見が根強く、グレディとマクニール家にとって、クライドとの付き合いが世間に知られたら大スキャンダルになる。そういう時代が背景となっています。
子どもから大人への境にあるグレディは、何を求めているのか自分自身でわからない。それが彼女を無軌道にさせるのでしょう。
ストーリーだけ見れば、自分自身求めているものがわからない若者が、無軌道に疾走するというオフビートな青春小説。しかし、たんなる青春小説とはちょっと違い、もっと屈折し複雑で沈殿した感情を抱えているような気がするんです。
グレディは感受性が強く傷つきやすいのでは。傷つきやすいから、クールに振舞うのではないかな。でも感受性の鋭さがマイナスに働いてしまい、自分自身を見失ってしまう。そのことが刹那的な行動へと走らせる。
できるなら十代後半にでも読みたかったな。この歳になると、グレディの不器用さや屈折した心理や混乱した状態は、わかるのだけれども冷静に眺めてしまうんですよねえ。

本作は23歳時の初長篇『遠い声、遠い部屋』(1948)に先立つ、十代後半に執筆したとされています。つまり1940~45年の間。私としては、主人公のグレディと同年齢頃に執筆されたのではないかと感じるんですけど。ともあれ、これを十代後半で書いたとは、カポーティがいかに早熟で才能の持ち主であったかが伺えます。
前述のシュワルツ氏は、磨き上げられた作品ではないが、独自の天性と、驚くべき熟達した散文の書き手の出現を反映しているのだ。(p219~220)と述べているんです。

確かに磨き上げられた作品とは言い難い。それは文筆家として、社会人として、経験不足に因るのではないかと思います。若さゆえ、と言えるでしょう。
それでも、(翻訳ではあるけれど)十代後半とは思えないほど文章が上手いと思いました。文章にセンスが感じられ、カポーティ独特のセンシティヴさ、イノセントさがすでに表れているんです。
宝石に喩えれば、未だ磨かれていない原石の状態でしょうか。未完で完成度が高いとは言えませんが、カポーティ作品を好きな人には一読の価値があると思います。

余談ですが、ウォールト・ホイットマン二世というのがうれしい。ピーターは詩人ホイットマンの孫という設定になっているんですよ。
ホイットマンは詩集『草の葉』で知られ、「アメリカの魂」とまで言われる、アメリカでもっとも有名で重要な詩人。民衆に向けて、人間の尊厳を力強く且つ素朴に謳っているので好きでした。(2006/9/26)

追記:2015年3月、講談社文庫化【Amazon

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