スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

城南旧事/林海音

城南旧事
林海音(Lin Haiyin)

My評価★★★★

訳:杉野元子,監修:村松 暎
新潮社(1997年4月)
ISBN4-10-534704-7 【Amazon
原題:城南旧事(1960)

収録作:冬の太陽・幼年時代・駱駝隊/恵安館/みんなで海を見に行こう/妾の蘭さん/ロバのころげまわり/お父さんの花が散った


台湾生まれの父母を持ち、北京に住む少女・英子(インヅ)。英子が北京で過ごしたが1923年の6歳(小学校入学)から、1929年の12歳(同卒業)までを描いた連作短篇集。
林海音(1918-2001)は台湾生まれの父母のもと、両親が事業をしていた大阪で生まれ、出生後に台湾へ戻るが北京へ移住。12歳のときに父親が亡くなり、母親とともに弟妹を育てたのだそうです。その作者が台湾で発表した、北京時代の自伝的小説。

「冬の太陽・幼年時代・駱駝隊」の冒頭、駱駝隊がやってきて、英子の家の門前に止まるんです。馬車でも人力車でもなく、駱駝なんですね!古い時代の話だとわかっていても、砂漠ではなく国際都市・北京に駱駝とは・・・。駱駝の登場に不意打ちを喰らったまま、一気に1920年代の北京へと惹き込まれました。

「恵安館」は、未婚のために産んだ子どもを捨てられて、狂ってしまった女と、養い親にムチ打たれながらも歌をうたって稼ぐ少女の物語。ふたりの背後には、歴然と古い慣習が存在しています。悲しい結末を迎えるのですが、そのことを知らされない英子が哀れ。

「みんなで海を見に行こう」では、泥棒でありながらも、俺は悪い人間じゃないと、英子に訴え続ける男が登場。
しかし英子は「誰が良い人間で、誰が悪い人間なのか自分にはわからない」とぼやく。
ちなみにこの短編で英子は、父親の買った大粉包(ダーフエンバオ)タバコから、付録の「封神演義」カードをもらうんです。そして、姜子牙のカードはとても見つりそうにないと言うんですよ。この時代でも、封神演義の姜子牙はヒーローなんですねえ。

少女・英子が自分の眼で見て耳で聞いた、北京の下町に住む庶民の生活が語られます。当時の風俗や風物・衣食住・方言・いまでは信じられないないほど古い慣習や因習などが、ふんだんに盛り込まれているんです。
きっと中国の人にとっては懐かしく読むのではないでしょうか。訳者はあとがきで、本書を『懐郷文学』と位置づけているほどです。日本人の私にも、どこか懐かしく感じられてなりません。
日本人にとっては、中国の昔ながらの下町情緒を味わえて興味深いのですが、歴史的経緯から、日本人としては読むのがつらいところもありました。

この作品は、時代背景を把握しないことには、作中人物の心情や事件がよく理解できないです。理解しなくても読むのに支障はないのですが、登場人物の反日感の理由を知るためには、時代背景を把知っておくべきです。
例えば、熱をだした英子のために医者を呼ぼうとする母親に向かって、あの日本のチビなど呼ぶ必要はない!(恵安館)と言う父親の反日感情。叔父が日本人に殺されたショックで血を吐いてしまった英子の父親(お父さんの花が散った)など、現代の日本人には理解し難いでしょうが、紛れもない歴史的事実を踏まえているのです。
また、このごろは銃殺される人がとても多く、土匪や強盗だけではなく、革命騒ぎを起こした男女学生もいた(妾の蘭さん)というのもあり、時勢が濃厚に描かれているんです。

訳者あとがきによると、北京は明代の1421年から中華人民共和国まで、およそ600年間首都とされてきたそうです。
1895年、日清講和条約の批准によって台湾が日本へ割譲され、第二次世界大戦の終結までの50年間、日本統治下の植民地となる。
1928年~1949年までの民国時代に、首都が南京へ移転。
1937年、日中戦争が勃発し、1945年に終結。

上記のような社会状況が水面下に描かれています。ただ、子どもの英子には政治的・経済的な社会状況がわかろうはずがないので、なので子どもに理解できないことは、示唆はされるけれど疑問のまま未解決とされています。
それは作者が政治的な見地から書いたのではなく、あくまでも流動する時代のなかで忘れ去られようとしている、子ども時代の古き良き庶民生活を書きたかったからだと思うのです。
子どもとはいえ英子が、心底から誰かを憎んだり怒ったり妬んだりしないのは、憎しみや怒り妬みが郷愁を誘う想い出にふさわしくないからかもしれません。
しかし、想い出とはいえ死を避けて通ることができない時勢であることを、作者は詳らかにしています。

備考)1982年に中国で映画化され、中国内外で各賞を受賞。邦題は『北京の想い出』。(2001/1/20)

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへにほんブログ村 本ブログ 海外文学へ

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

H2

Author:H2
My評価について
=1ポイント
=0.5ポイント
最高5ポイント

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。