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安南・愛の王国/クリストフ・バタイユ

安南・愛の王国
クリストフ・バタイユ

My評価★★★★

訳・解説:辻邦生
集英社(1995年5月)
ISBN4-08-773220-7 【Amazon
原題:ANNAM(1993)


1787年、ヴェトナム皇帝がルイ16世の住まうヴェルサイユ宮殿を訪れた。皇帝はいまだ七歳で、名をカン(景)という。
ヴェトナムでは、皇帝の父親で摂政の皇太子グエン・アエン(阮福映)が、内戦で国を追われシャムに亡命していた。グエン・アエンはフランスの武力援助を得て復権を望んでおり、武力要請のためにカンをヴェルサイユへ送り込んだのだった。
だがルイ16世は要請を拒否。そのうちに幼いヴェトナム皇帝カンは亡くなってしまう。

1788年、カンにキリスト教理を教えて親しくしていたピエール・ピニョー・ド・ブレエーヌ元司教は、老いた自身に代わってヴェトナムの人々を救う宣教師を派遣する。
5人の修道士と4人の修道女と兵士たちは、苦心の末ヴェトナムに辿り着く。修道士と修道女たちはバ・ジェン村に住み着き、村人たちと同じ生活を始める。
時が経ち、ドミニク修道士とミッシェル修道士、カトリーヌ修道女は、教化をすべく安南(アンナン)山脈を目指して村を離れる。

フランスでは革命の嵐が吹き荒れ、ヴェトナムとフランス間が音信普通となり、バ・ジェン村の宣教師たちは取り残されて故国の人々に忘れられていった。
再びヴェトナムの支配者となったグエン・アエンは、バ・ジェン村に残った宣教師を抹殺。やがてフランスから来た宣教師は、ドミニク修道士とカトリーヌ修道女の二人だけとなる。
安南での簡素な生活のなかで、信仰を越えて生きる二人の男女の物語。

********************

著者が若干20歳時のデビュー作。1993年処女小説賞、1994年ドゥ・マゴ文学賞他受賞と華々しい。訳者名は辻邦生となっていますが、堀内ゆかりとの共訳とのこと。
原題には『愛の王国』という言葉はないけれど、副題としてはピッタリ。まさに愛の王国の物語。

革命前夜の18世紀フランスから、内戦状態のヴェトナムへと向かう宣教師たち。一見するとエキゾチックな歴史小説と思われまですが、エキゾチックではあけれども歴史小説とは異なる。
確かに歴史を扱っているし、実在したグエン・アエン、実在の人物をモデルとしたピエール・ピニョー・ド・ブレエーヌ司教が登場します。それでも歴史小説と言い切れない作品なのです。
なぜなら作者の本意は歴史を描くことにあるのではなく、人間の始原的な様態を描くことにあると思うから。

フランスからヴェトナムへと布教に命を捧げた宣教師たちのうち、生き残ったのはドミニク修道士とカトリーヌ修道女の二人だけ。二人は安南(アンナン)の地で、信仰心や彼らを束縛する自意識を越え、愛にのみ生きる。
作者は史実に忠実であることよりも、愛を純化あるいは特化させて描いているようです。本能に根差すかのような純粋愛。まるで、それこそが人の根源的な生き方であるかのように。
ただ、その愛が天上的な愛までに昇華されているかというと、そうは思えませんでした。あくまでも人間的な地上的な愛に感じられるのです。おそらく作者は、信仰と宗教を同列で混淆しているのではないかと思うのですが。

その二人の姿には、透明感のある美しさが漂っているんです。でも、すべては儚い。すべてはいつしか時に埋もれ、消えてしまう・・・。
文体は非常に簡潔なのにも豊かなイメージが広がり、そこから香気が立ち上り、浮遊感のようなフワリとした感覚に襲われました。作品背景が非常に現実的な状況なのにも関わらず、現実感がないんですよね。現実感に乏しいのですが、それが魅力になっているんです。

バタイユの作品を読むのはこれで3作目ですが、いずれも崩壊の予兆に満ち、登場人物あるいは作者の自己消失願望のようなものが感じられました。
それらの作品世界には儚さがあります。儚いのだけれど脆くはなく、逆に力強くさえ感じられるのです。儚くも忘れ去られ消失してしまうけれども、消失することで永遠に人々の記憶に刻印されるとでも言うかのよう。
この作品でも、二人の男女が故国から忘れ去られ、やがて記録・歴史から消えてしまうのですが、そうなることで永遠の愛が完遂したかのように思われてなりません。(2003/11/21)

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