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アエネーイス/ウェルギリウス

アエネーイス
ウェルギリウス(プブリウス・ウェルギリウス・マロ)

My評価★★★★

訳・解説(下巻):泉井久之助
岩波文庫(上下巻)
上巻(1976年1月):ISBN4-00-321151-0 【Amazon
下巻(1976年2月):ISBN4-00-321152-9 【Amazon
原題:Aeneidos Libni XII(紀元前19年)

アエネーイス(上)アエネーイス(下)
えーとですね、カバーが異なるのは上巻が2004年秋の一括重版、下巻は2010年春のリクエスト復刊のときのものだから。
2004年に下巻を買いそびれてしまったんですよ。2010年の復刊でようやくゲット。気がついたらカバーが異なっていたんです。でもまあ、同じカバーが二つ並ぶよりいいんじゃない。

『アエネーイス』は、ホメーロスの『イーリアス』で知られるトロイアの英雄アエネーアース(ギリシャ名アイネイアース)がトロイアを脱出して、ローマ建国の礎を築くに至るまでの英雄叙事詩。言ってしまえば当時のエンターテインメントです。
アエネーアースは、女神ウェヌス(ギリシャのヴィーナスに相当。ユーピテルの娘)と人間のアンキーセスを父にもつ。
トロイア陥落時、アエネーアースは大神ユーピテル(ゼウスに相当)からの啓示によってトロイア脱出を決意。母神ヴェヌスの助力によって脱出。
アエネーイスとその一統は、西方にある「約束された地」を目指して航海を続ける。目指すはイタリア。だが女神ユーノー(ユーピテルの妹で妻)の執拗な復讐心によって、7年の歳月も海上を彷徨うはめに。

アエネーアース一統は艱難辛苦の末カルタゴに辿り着き、フェニキア人王国の女王ディードーの歓待を受ける。アエネーアースはディードーに、トロイアが陥落するまでの経緯と、航海中の出来事を語る。
女神の策略によってアエネーアースとディードーは恋に陥るが、アエネーアースは再びイタリア目指して海に乗り出す。怨むディードーをおいて・・・。

旅上で父アンキーセスを亡くしたアエネーアースは、父親の遺言に従ってアポローン神の巫女シビュルラを訪ねる(6巻)。シビュルラと冥界にいる父から未来についての宣託を授かるためだった。
だが冥界に降りるためには、杜に隠されているたった一枝しかない金の枝を入手しなければならない。
金の枝を手にし、冥界を経巡ったアエネーアースは亡き父と再会し、未来のローマ(アウグストゥスの時代まで)の主な出来事について知識を授かる。

一統はラウレンテース族の都ラーウィーニウムに辿り着く。
ラティーヌス王は歓待し、娘ラーウィーニアを異国人アエネーアースに娶わせようとする。それはアエネーアースがラーウィーニウムを継ぐことを意味する。しかし王妃は、ラーウィーニアをルトゥーリー族の若き王トゥルヌスに娶わせようとしていた。
トゥルヌスはユーノーの策略によって、ラーウィーニア(及びラーウィーニウムの王権)をめぐってアエネーアースに戦いを挑む。トゥルヌスとアエネーアースを支持する部族がそれぞれ各地から集結。ここまでが7巻で、これで文庫上巻は終わり。
文庫下巻は8巻から12巻までで、内容はアエネーアース勢とトゥルヌス勢との合戦。二転三転を経て、アエネーアースとトゥルヌスの一騎打ちとなる。

********************

ダンテ『神曲』などのイタリアほかヨーロッパ文学(諸芸術も含む)に多大なる影響を与えたという古典中の古典の一つ。ラテン語文学の最高峰だとか。
『アエネーイス』とは「アエネーアースの譜」という意味で、全12巻からなり、紀元前29から死の直前の前19年の11年間にかけて書かれたそうです。ウェルギリウスの死により未完成となったそうですが、未完というのは推敲途中という意味と受け取れます。
プブリウス・ウェルギリウス・マロ(前70-前19)は古代ローマ時代の国民的詩人。ラテン文学上、最も重要な詩人だそうです。
生地はイタリアのマントヴァ近郊という説があり、この地域はケルト族的な文化を基層として、エトルスキー(エトルリア人)の有力な都市の一つだったとか。ちなみにウェルギリウスという名前は、ケルト語の合成語なのだそうです。

アエネーアースがトロイアを脱出することにしたのは、ユーピテルからのお告げがあったから。
内容は、アエネーアースがイタリアの地ラーウィーニウムに新トロイアの城壁を築き、やがて子のアスカーニウス(ユーリウス)が長じてローマの母市となるアルバ・ロンガを築く。やがてこの系譜から、双生児ロムルスとレムスが生まれる。つまりアエネーイスが、トロイアの血を引き継ぐローマ建国の祖になるということ。
要するにウェルギリウスは、ローマ建国神話をアエネーアースに求め、ローマ建国の祖、ローマ人の祖先をイーリオン(トロイア)としているのです。
これはなぜかというと、ガイウス・ユリウス・カエサルがユリウス族であるため。
ローマの名家はアルバ・ロンガから続く名族の後裔で、ユリウス族もそう。ユリウス族は女神ウェヌスを遠祖としているのだとか。そのウェヌスは大神ユーピテルの娘。ユリウス・カエサルの系譜をアエネーアース、そしてウェヌス、ウェヌスを通じて大神ユーピテルへと遡っているんです。
つまりユリウス・カエサルと初代皇帝アウグストゥスは、神の系譜に連なるというわけ。皇帝のおわすローマは、トロイアを起源にもつ由緒正しい国というわけですね。
ウェルギリウスの生きた時代は、ユリウス・カエサルから初代皇帝アウグストゥスのころ。アエネーイスは、ヤヌスの門を開けてローマに平安をもたらしたアウグストゥス及びユリウス・カエサルとに捧げられていて、このことは本文中でも頻繁に触れています。

本作を読むにあたり、ホメーロスの『イーリアス』などによるトロイア戦争についてと、ローマ神話の神々の名前は最低限知っておいたほうがいいです。
『イーリアス』を読んでいればいいのですが、難しそうなので根性ナシの私は読めないでいます。手っ取り早く松田治の『トロイア戦争全史』で予習しました。この本は、トロイア戦争と発端から結末までがわかり、それらの時系列に沿って関連するギリシャ文学が網羅されているのでオススメ。
また、アエネーイスらが航海中に遭遇する奇譚はオデュッセイアーに準えているので、できれば『オデュッセイアー』も読んでおきたいところ。

前半はオデュッセイアーのような彷徨譚。
アエネーアースはほとんど受身なので魅力に欠けるけれど、ディードーはとても印象的。やりすぎという感はなくもないのですが、鬼気迫る情念を感じました。
思いつめの女王は6巻でも登場して、ここでも印象的なのですが、それはあくまでも人間的だからかな。
作者は人を駒のように扱うのではなく、思い悩み、ときには苦悩する。自らに過ちがあったとしても自尊心が強く、それを認めたくないという人間を描いています。それは現代人にも充分に通じる情動や感情です。

さて、アエネーアースは冥界へ下るためにまずは金の枝を入手しなければいけないのですが、これが、かのフレイザー『金枝篇』の金枝なんですね!
金枝のある場所が「森」ではなく「杜」となっていて、思わず唸りたくなりました。これって金枝篇を踏まえた上での訳語ですね。「杜」の字をあてがうことで場所の神性を表現してしまうのだから、翻訳者というのはすごいですね。
金枝を手にアエネーアースは煉獄を巡ります。ここが上巻の山場。

下巻はアエネーアース勢とトゥルヌス勢の戦いになるのですが、上巻よりも下巻の方が面白かったですね。下巻では活動地域が限定されるため、訳注が少ないので読みやすかったです。
上巻はギリシャ文学などにならったものという印象が強いのと、アエネーアースは活躍らしい活躍はしていないんですよ。成り行きに流されているという感じ。
下巻でも、どちらかと言えばアエネーアースは受動的なのですが、それは彼が戦いを望んでいないから。アエネーアースは、彼の陣に参集して戦う者たちに対して責任があるのです。そんな彼は父性を感じさせる存在です。
年若い者たちが命を絶たれ、息子を失った母や父が嘆く・・・。人々の死を活写するとき、ウェルギリウスの想いが表出します。これは人間の物語なのです。英雄アエネーアースもまた悼みを分かつのです。
ウェルギリウスは皇帝アウグストゥスを崇め讃えているのですが、戦争を称揚してはいないんです。戦争と、戦争による人々の死を憂えているのです。
このことは、ウェルギリウスはアウグストゥスを讃えているとはいえ盲目的に心酔しているわけではない、ということになるのではないでしょうか。

古典中の古典といわれるだけあって、一度は読んでおきたい本だと思います。何がすごいかと言うと、これが2千年もの昔に書かれたということだと私は思います。
現代人の感性や思潮にはなじまないところもあるし、21世紀の現在までにはもっと面白い物語がたくさんが書かれています。けれども、「物語」というものの原型がすでに『アエネーイス』で表現されていて、2千年もの時間の差をさほど感じさせないんですよ。

ただ、韻文訳でもいいのだけれど、七五調なのがとても読みにくかったです。七五調は無理があると思うのだけれど、それよりも問題は句読点なんですよ。
七五調にするため変な箇所に句読点が打たれているため、一読では意味が掴みにくくなってしまって、読むリズムが崩れてしまうんです。
結局、句読点を無視して読みました。無視すればそんなには問題なかったです。句読点を無視すればリズミカルに読み進められるので、七五調になっているのもなるほど、とは思います。でも人には薦めにくいですね。(2011/9/10)

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