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砕けた瓦/趙本夫

砕けた瓦
趙本夫(zhao benfu)

My評価★★★★☆

訳・解説:永倉百合子
勉誠出版(2002年3月)
ISBN4-585-05060-4 【Amazon

収録作:彼方へ/狐仙女の婿えらび/五元の得/ロバを売る/空洞/砕けた瓦


趙本夫(zhao benfu=ヂャオ・ベンフー。1947年生まれ)の中短篇集。中国では有名作家だとか。作者は中国江蘇省の豊県の、かつては地主だったが没落した名家に生まれたそうです。
解説によると、豊県は江蘇・山東・安徽の省境に近いところで、昔から非常に貧しく飢饉にも見舞われ、盗賊が跋扈する土地なのだそうです。そんな貧しい土地から抜け出る青年と、土地に残された人々を描いた「彼方へ」と「砕けた瓦」は自伝的な作品だとか。
読んでみると、この地方に生きる人々がどんな生活をしていたのか、どんな気質なのかがわかるような気がしました。

趙本夫は苛酷な現実を生きる農民を描いています。文化大革命とその後を書く作家は多々いますが、私の読んだものは大概、知識人が知識人に向けて書いた作品が多く、農民本来の姿を描こうとするものではなかった。それらの作品に書かれるテーゼは知識人のものであって、農民のものではなかったんです。
しかし、趙本夫は農民を主体とし、彼らの言葉で語ろうとします。彼を創作に向かわせたのは、中国の小説において農民を書いた小説があまりにも少ないことに対する怒りなのだそうです。

農民たちは幾度も変転する政策に揉まれ、悲惨な窮乏生活を余儀なくされる。でも、彼らは逞しくしたたかで、ときには滑稽なほど楽観的で、ときにはやるせない想いを抱きながら、彼らなりの信条によって日々の生活を過ごしています。
農村で生まれ育った作者ならではの、愛情に満ちた眼差しが随所に感じられました。農民たちを悲喜交々生彩に溢れ、ユーモラスに描いています。
各短篇は、本来シリアスな内容なのだけれど、「おおどか」とか「あっけらかん」としたユーモアが感じられました。状況が悲惨であっても、陰湿さがないんですね。
登場人物が非常にセコイことをしても、なぜか嫌味がない。一人一人個性的に描かれています。憎まれ役でさえ、共感はできなくても憎みきれない部分がある。黒白と割り切れず常に変化し続ける心の機微を、違和感を感じさせずにさりげなく巧みに描いているのです。
一見シリアスな作品集かと思われるのですが、実はユーモラスな作品集なのです。

デビュー作「ロバを売る」(1981)と「狐仙女の婿えらび」「五元の得」は1980年代前半に書かれた作品。他は1990年代以降に書かれた。「彼方へ」と「空洞」は1994年。どの作品もいいのですが、3篇のみピックアップ。

狐仙女の婿えらび
若くして後家となった黒嫂(ヘイサオ)は、幼い子どもと盲目の義母を女手一つで養っていた。健康的な色気のある彼女は始終、嫁の来てもなく紹介してくれる人もいない村の若者たちにモーションをかけられる。
賢い黒嫂にあしらわれた若者たちは、彼女を「狐仙女」とあだ名していた。黒嫂は表面上明るく振る舞っているが、内心では苦渋を噛み締めていた。

彼女の亡くなった夫はハンサムだが気概がなかった。彼女が求めていたのは信念のある気概を持つ男だが、そんな若者はいない。若者たち纏わりつかれるのに嫌気がさした黒嫂は、一計を案じる。それは隣家の書記・老石(ラオシー)の家へ通い、彼と妻の面倒を看ることだった。
彼女は若者たちに、書記が黒嫂に気があると思い込ませて、身辺から追い払うことに成功。さらに書記から何かと優遇されたおかげで、食べ物に困ることがなくなった。黒嫂を内心を知らない村の変わり者・老弯(ラオワン)は、彼女を軽蔑としていたが・・・。

********************

時代背景は文化大革命中で、当時は農地は農民から取り上げられて国のものとなり、作物を自由に生産することも生産物を自分の裁量で扱うことはできません。食糧は配給制ですが、これだけで賄うことはできない現状だったそうです。
黒嫂(ヘイサオ)は書記から補助食糧を優遇してもらい、それで家族三人食いつなぐことができるようになるわけです。そんな黒嫂を軽蔑しますか?
黒嫂が再婚した場合、補助食糧は打ち切られてしまい、黒嫂と夫、子どもと姑の4人が暮らすことはできなくなるのです。

老弯(ラオワン)は自分の食糧を自分で確保するために、生産隊を無視して畑の開墾に勤しむ。その行為が資本主義だと非難され、車に乗せられて市中を引き回されるのですが、彼はタダで観光出来たとちっともこたえない。
しかし、そんなことが何度か繰り返えされるうちに、彼は病に倒れてしまう。

これは黒嫂と老弯の物語で、ストーリーからシリアスな作品と思われるかもしれませんが、実はとてもユーモラスなのです。登場人物たちは至って真面目なのですが、面白おかしさと、どこか民話的なおおらかさが感じられるんですよ。
ラストでは、黒嫂と老弯、書記・老石(ラオシー)夫婦との関係が巧妙に捻られているのですが、心情的にストンと納得できるから不思議。

五元の得
生まれつき慎重で倹約家の江古利(チャンクリー)爺さん。倹約しても使うときには使う。爺さんの信条は、他所から金を借りない、借金をしない、まっとうでない方法で稼がない。
そうして30年前に新築を建て人目を惹いたが、いまでは顧みられることがなくなった。いつの間にか時代に取り残されていたのだ。

爺さんは縁市で若い娘から竹箒を購入するが、釣銭を5元多く受け取ってしまう。金を返そうどうか迷うが、娘の態度があまりにも悪かったので懐に仕舞い込んだ。
ところが直後、スリに財布を掏られてしまう。しかしそこはシッカリ者の爺さん、金を分散して身に付けていたのでたいした被害はなかった。だが、5元をネコババしたという良心の痛みがあるので、自業自得とガックリ。
そんな爺さんにさらなる騒動がふりかかった!

********************

コツコツと勤勉節約をモットーとしてきた正直者の爺さん。だが、いつの間にか時代に取り残されたことに気づいて唖然としてしまう。
5百元を稼いだ男の話など、周りが羽振りよくしているのを見て不思議に思う。大金を稼ごうにも、農業しかしたことのない爺さんには、どうやって稼げばいいのか見当もつきません。
新風潮に乗ってこすっからくなろうとするのだけれど、信条に反したことをしたため碌なことにならず、終いにはズンと落ち込んでしまう。
正直であることだけでは暮らせなくなっていく世の中。新風潮と廃れていく昔の風潮で、変わったものは何なのか、爺さんは身をもって知る。時代を理解できなくなった、昔気質の爺さんの背に哀愁が漂いつつも、どこかおかしみがありました。

砕けた瓦
小説家となった主人公による、父母とその一族の回想記。
父の家は広大な土地を持つ農園主だったが、何度も盗賊に襲われるうちに次第に傾いていった。
祖父たち兄弟は若いときから盗賊に辛酸を舐めさせらていた。祖父はまだ少年だった父に、勉学に励んで出世し家を守るよう学校へ入れる。だが父は芝居に明け暮れて、とうとう学校を辞めて家からも追い出される。祖父と両親は一切交際を経っていた。
歳老いた祖父が私を見る目には、もはやかつての偏狭で凶暴さなところはなかった。

母の家は外祖父がアヘンで財を成したが、償いのためか外祖父が財産を流出するがままに任せたので、母の少女期には傾きかけていた。
長男は出奔して行方知れず、二男が家を取り仕切っていた。あるとき長男の行方が知れる。
その後に家は、ケンカでいとこを亡くした。そのため壮絶な報復合戦が繰り返され、男兄弟は死んでしまう。

父と母は財を成そうと必死に稼ぐ。だが元々父は農夫でしかなく、牛をムチ打つこともせず、牛追唄をうたうのがうまかった。唄には農夫として生きた父の、様々な気持ちが込められていた     

********************

どこまで事実に則っているのかは知らないけれど、自伝を思わせる中篇。この作品集のうちでは、いちばんシリアス(特に六男のこと)で愁い漂う作品でした。
傾きかけた家を守ろうとする一族。だが、一度傾き始めたものを止めることは誰にもできなかった。家を守るために兵隊を志願した祖父の弟、外祖父とその忠犬、報復合戦に終止符を打とうとする六番目の叔父など、両家の一族の様々な人物が登場し、様々な出来事が綴られる。それは家と人の歴史である。

登場人物はわりと多いのですが、各人がよく書き分けられていて、彼らは脇役としてではなくて、それぞれの人生を生きているのです。うまく言えないのですが、そんな書き分け方でした。
その外祖父も祖父も叔父たちも、父もすでにいまは亡い。彼らの生きた時代も過ぎ去ってしまった・・・。いまは亡き一族と、彼らの生きた凄まじい時代におくる、「哀歌」という印象を受けました。

ラストで回想される、朝霧の中で牛追い唄をうたう父親の姿は、まるで目に浮かぶよう。農夫として朴訥とした人生を送った父親に対する主人公の温かな感情が滲み出ており、せつないようなしんみりとした気分になりました。(2003/8/4)

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