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夜の来訪者/プリーストリー

夜の来訪者
プリーストリー(ジョン・ボイントン・プリーストリー)

My評価★★★☆

訳・解説:安藤貞雄
岩波文庫(2007年2月)
ISBN978-4-00-322941-5 【Amazon
原題:An Inspector Calls(1946)


1912年、イギリス北東部の工業都市で、工場主として成功したバーリング家。
食堂にアーサー・バーリングと妻シビル、娘シーラ、息子エリックと、ジェラルド・クロフトが集っていた。
シーラとジェラルドが婚約し、今夜はそのお祝いの席。そのめでたい席に、グール警部と名乗る男が現れた。
グールは、エヴァ・スミスという若く貧しい女性が自殺したことを告げる。しかし、誰もエヴァ・スミスという名に聞き覚えがない。
グールは、まずアーサー、そしてシーラ、ジェラルドと、一度に一人ずつ尋問していく。すると、誰もがその女性とその死に関わっていたことが明らかに・・・。

********************

ジョン・ボイントン・プリーストリー(1894-1984,イギリス)の戯曲。
解説によるとプリーストリーはジャーナリスト、小説家、劇作家であったという。この戯曲は日本では現在も舞台で上演され続けているとか。また、1954年にガイ・ハミルトン監督によって映画化(英)されたという。
解説によると、1945年までには政権は労働党に移っていたのだそうですが、1912年ごろはまだ社階やジェンダー上の区別(と言うより差別でしょう)があったとか。そのような時代の階級制度や、社会的格差、性差が主題となっています。

一時間ほどで読了してしまうけれど、中身は濃いです。バーリング家と婚約者クロフトが、自殺した女性とどう関わっていたのか?物語が進むに連れて、家族の意外な一面が暴かれていくんです。
巧みなプロットでグイグイ読ませ、さらに二転三転のどんでん返し。手法だけをみると、ミステリータッチと言うよりも、ミステリーと言い切れると思います。ただし謎解きの類ではありません。
ただ、ラストは舞台だからこそ効果が発揮されるのでしょうが、本として読むと多少の唐突感を感じざるを得ませんでした。
プロットは意外性があって抜群に面白く、人間関係の機微にも通じているのですが、この作品は思想性を抜きにしては語れないと思うんです。でも、作者の左派的な思想にはどうにも納得できませんでした。

アーサーとシビルに関しては、必ずしも彼らだけに責任があるのではなく、作中で語られる女性側にも落ち度があるのではないかと思います。ストライキに対してのアーサー・バーリングの処置は、良し悪しは別として、経営者としては当然のことでしょう。その点を責めるのは感情論でしかなく、公正な態度ではないと思うんです。
作家が必ずしも公正でなければいけないわけではないけれど、少なくとも理性的であるべきだと思います。特にプリーストリーはジャーナリストでもあるのだから。
労働者が保護されていない時代、ストに参加した時点で、負けた場合に責任の所在を問われるのは目に見えていたはず。
確かに意識改革は必要ですが、問題は経営者に独断で処置させないため、労働者が法的に保護されていないことにあり、雇用上の保護制度の確立にあると思うのですが・・・理想論でしょうか。

また、シビル夫人の態度は決して褒められたものではありませんが、彼女が自分の名前を騙られて気分を害するのは無理ないでしょうね。これは明らかに懇願者に非がある。まして慈善事業でしかなく、公的扶助ではないのだから。

この作品の発表は、当時の労働者側にとっては胸のすく出来事だったのかもしれないと想像します。でも私は建設的な見地に立った作品とは思えないので納得できないでいます。
プリーストリーは1942年に、仲間とともに社会福祉党という新政党を組織していたのだそうです。同1942年には、ウィリアム・ベヴァリッジによる通称「ベバリッジの報告書」が提出されており、同報告書はイギリス社会福祉の確立に多大な影響を与えたと言われています。
そのような社会変革の兆しのある時代において、安易に有産階級を批難する作品を発表することは、私には得策とは思えません。なぜなら有産階級の反感を招くからです。有産階級の協力なしに社会保障制度を変革することは、イギリスという国柄においては現実的ではないと考えるからです。

プロットはとても面白いのだけれど、思想的に偏っていてしかも成熟しているとは思えないのが非常に気になり、それが作品全体としてマイナスの印象を受けました。(2007/3/7)

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