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バウドリーノ/ウンベルト・エーコ

バウドリーノ
ウンベルト・エーコ

My評価★★★★★

訳:堤康徳
岩波書店(2010年11月,上下巻)
上巻:ISBN978-4-00-024427-5 【Amazon
下巻:ISBN978-4-00-024428-2 【Amazon
原題:BAUDOLINO(2000)

バトーウドリーノ(上)バウドリーノ(下)

1204年4月、十字軍士によってコンスタンティノープルが略奪されているまさにその時、ピザンツ帝国の歴史家で書記官長などを務めるニケタス・コニアテス(実在した人物)は、バウドリーノに命を救われた。
流暢なギリシア語を話すバウドリーノは、神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサ(ホーエンシュタウフェン朝のフリードリヒ一世。赤髭王)の養子だという。

ニケタスと彼の一家は、バウドリーノによってジェノヴァ人の家に匿われ、脱出の機会を待つ。
その合間、ニケタスはバウドリーノから、彼の故郷でのフリードリヒと出会い、農民の子が皇帝の養子になった顛末から、老いてコンスタンティノープルに辿り着くまで、彼の途方も無い生涯を聞く。
ニケタスは、バウドリーノの話はどこまでが本当なのかあやしむ。なにしろ本人が言うように、彼は稀代の大嘘つきなのだから。
しかし彼が語ることによって、嘘が現実と化していくのです。

皇帝の養子となったバウドリーノはオットー司教(実在した人物)の下で学んだ後、パリで仲間たちと司祭ヨハネについて語り合い、ついには司祭ヨハネの手紙を書いたり。
バウドリーノの故郷が皇帝の許可なく都市を築いたがため、皇帝軍に囲まれて攻防戦となり、やがてアレッサンドリア(イタリアのピエモンテ州。エーコの故郷)となる。

上巻は西方を舞台とした歴史小説という趣きですが、下巻では一転して東方が舞台となり、司祭ヨハネの国を求める冒険行で、虚実ない交ぜになっていきます。
バウドリーノはフリードリヒのために、グラダーレ(キリスト教史上もっとも貴重な聖遺物)を司祭に奉献すべく、仲間たちと東方にあるといわれる司祭ヨハネの国へ。東方世界はさながら人外魔境。

司祭ヨハネの王国の探索に半生を費やすバウドリーノ。彼と仲間たちはどこへ行き着くのか?

********************

カバーの図版は「カタロニア図(1375年)より。パリ、国立図書館蔵」だそうです。
初期ルネサンス時代に興味のある私にとって、この物語はまさにツボ!しかも「司祭ヨハネの伝説」というのだから!こういうのを読みたかったんだよぉ。
「司祭ヨハネの手紙」については『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』を読んでいたので、エーコの描く東方世界に難なくついていくことができました。

コンスタンティノープル略奪、皇帝と教皇の対立(これがすべての原因だと思うな)、12世紀のトルバドゥールのジョウフレ・リュデルの詩、暗殺者集団、プレスター・ジョン伝説、聖杯伝説、至聖三位一体論、十二賢王、ユニコーン伝説、サテュロス、聖遺物捏造・・・等々盛りだくさん。キリスト教以前の神話も含まれています。
しかし、七つのヨハネの首には笑っちゃいました。七つも!ヨハネの首は盆に載せられてサロメに渡されたんですよね。この盆が磔刑されたキリストの血をも受けていたとしたら、グラダーレかもしれないという可能性はないわけじゃない・・・?
碩学のエーコが史実と虚構を巧みにシャッフルしているので、何が本当で何が虚構なのか判別し難い・・・。
しかしそもそも歴史というものが、必ずしも実際に起こった出来事に対して忠実に則っているわけではない。真実ではないというわけではなくて、信じているから、と言うよりも信じたいから、あるいは信じさせたいから真実と化すわけですよね。

セレンディビティの才のあるバウドリーノ。その彼の嘘は、人々を夢見させる力なのかもしれません。彼の嘘によって、世界は生彩を増すかのよう。それこそ聖者のなせる業ではないでしょうか。
ただ、彼の嘘は人々の欲望に反応したものであるがために、その人たちの欲望を刺激する。バウドリーノの嘘が現実となるのは、彼の言葉が嘘と知りつつも信じたい人たちがいるから。欲望をもつ人々にとって、そのほうが都合がいいからだと思うんです。
しかしバウドリーノは、自ら発した嘘に己自身も幻惑され囚われてしまう・・・。
読了後、バウドリーノの人生って何だったんだろう、と思わずにはいられませんでした。なんだか空しい。彼は空虚なのだと思う。彼という存在は、一種の憑坐(よりまし)という器あるいは媒体なのかも。
また、バウドリーノを介して虚/実、聖/俗、善/悪、美/醜などが揺らぎます。なかでも聖/俗については幾度も語られています。価値観というものがどれほど曖昧なものなのか、と思わずにはいられませんでした。

歴史を知っているとより楽しめるけれど、知らなくても、冒険小説やファンタジー、探求物語として楽しめると思います。歴史云々は別にして、物語として面白いんですよ。
エーコの小説では『薔薇の名前』が最も有名ですが、『薔薇の名前』ほどの衒学的なところや息詰まる雰囲気はなく、開放的で軽やか。なにより作者が楽しんで書いたんだろうな、というのが伝わってくるんですよ。訳も読みやすかったです。こんなに読みやすくていいのかと思うぐらい。
この作品、私は西洋中世人の精神世界を描いた物語だと受け取っています。中世人の精神世界は史実に著されない部分なので、様々な本を読んで自分で組み立てていくしかないのですが、それをエーコは一物語として提供してくれたわけです。(2011/9/30)

↓司祭ヨハネの手紙による王国について
西洋中世奇譚集成 東方の驚異(作者不詳)

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