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ウォーターランド/グレアム・スウィフト

ウォーターランド
グレアム・スウィフト

My評価★★★★★

訳:真野泰
新潮社CREST BOOKS(2002年2月)
ISBN4-10-590029-3 【Amazon
原題:Waterland(1983)


52歳の高校の歴史教師トム・クリックは、校長のルイスから歴史科目の削減を理由に退職を勧告されていた。
歴史科目の削減は建前で、実はトム・クリックの授業計画を無視したやり方と、彼の妻メアリが原因だった。
トムは授業でフランス革命を教える。だがプライス少年を筆頭とする子どもたちは、歴史は終焉に向かっていて学ぶ意味がないとみなす。そこでトムは、歴史とは何か、進歩とは何かについて、イングランドの沼沢地帯(フェンズ)の物語を語る。

ビールで財を成したアトキンソン一族は、フェンズを干拓して船を航行させ、フェンズを繁栄に導いた。
名士となったアトキンソン一族の興亡。一族に暗い影を落すセアラ・アトキンソンの亡霊。民衆を狂わせた「戴冠記念エール」。
水門番の父親、アトキンソン一族の末裔である亡き母親、体は頑健でも知的障害の兄ディック。15歳のトムとメアリの愛戯。
1943年7月25日、水門にひっかかって発見されたフレディ・パーの溺死体に、こめかみにアザの痕があったこと・・・。

********************

ガーディアン小説賞、ウィニフレッド・ホルトビー記念賞を受賞。
歴史教師トムが<いま>と<ここ>を求める子どもたちに、フェンズとそこに住んだ人々の過去から現在を語る。そこにはミステリーありゴシックあり、フェンズの地理や歴史についての考察、恋愛、フェンズに生きる人々の冥い精神世界等々、52の断章(トムの年齢へにひっかけた?)から成る様々な物語が、時制にとらわれず語られます。ときにはウナギの繁殖についてなども。
一見、脱線したり迷走しているように思われるのですが、物語とは得てして、トムの言う「わき道」に逸れつつ集成されていくものではないでしょうか。ただ、うねうねと続く文章なので、慣れないと読みにくいかもしれません。
淡々と語られ、ドラマティックな展開や起伏に欠けますが、その語りがどこまでも続く茫漠としたフェンズの地形を彷彿とさせました。約20年前に書かれた作品としては少しも古びていず、むしろ今日的な問題を包含していると思います。

背景では様々な年代を得て、いくつもの戦争や革命などの戦いが行なわれているがことがわかります。そんな時代であっても人々は生きて営みを続けるます。
また、歴史とは過去の繰り返しでしかないとしながら、実のところ進歩とは、繰り返しのなかからこそ生じるのではないのかと思いました。
トムは非常に逆説的な考えの持ち主で、歴史とは過去への遡行にすぎないとしながらも、物語を語ることによって事実こそが歴史であるとしています。しかし歴史教師としては、事実は歴史となるけれども、歴史=事実とは断言できない。そのため、歴史は常に見直されなければならないと言っているかのようです。
また、歴史とは無から突如として出現したのではなく、過去の集積です。しかし学校で教わったり、書物に著されていることだけが歴史ではない、と言っているかのようです。

作中の子どもたちも読者である私たちも、過去からの時間の延長線上の<いま、ここ>に在るのですが、<いま、ここ>とはどこか?
それはまだ来ぬ未来から知る術はなく、昨日であったり去年、十年前、百年前という過去から相対的に割り出すしかないのかもしれません。ともあれ、過去からの連続した時間の延長線上にあるわけです。その上で<いま、ここ>に在る個人と歴史との関係性が語られた物語だと思います。

フェンズの人々を語ることは、同時にトムという「私」が語られることでもあります。私という一個の人間を語るためには、普通は主観的にならざるを得ないと思います。主観は対象となる基準/客観がなければ、それ自体では存在し得ない、つまり他者が存在しなければ語ることができない。
トムが様々な人物について語るように、フェンズの人々はトムに語られることによって存在することになるのです。
なぜなら誰にも語られない人とは、後世の人間にとっては存在しなかったに等しいのだから。そしてフェンズの人々を語ることはトムという人間を語ることでもあるのです。
トムは語り続けることで存在し続ける。しかし過去が歴史となって事実から剥離していくように、客観的かどうかは疑問であっても52歳時のいまの自分の生き方を、肯定的に捉え直そうとしているかのように思われるのです。

しかし私はトムが好きではありません。トムが真実を追究しようという好奇心はいいのですが、そのために結局は周囲を破滅へと導くんです。彼には無意識の悪意があり、これが始末に負えない。
いろんな意味で、トムがメアリの歯止めになっていれば、問題は起こらずディックが犠牲にならずにすんだのでは・・・。何がどうなっているのか理解できないディックが憐れです。52歳時のメアリの状態も違っていたはず。もっともトムが真実を語ることは贖罪なのかもしれないけれど。(2002/3/31)

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