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この世界を逃れて/グレアム・スウィフト

この世界を逃れて
グレアム・スウィフト

My評価★★★☆

訳:高橋和久
白水社(1992年9月)
ISBN4-560-04474-05 【Amazon
原題:Out of this World(1988)


各地の戦争や紛争の際には前線へ出向く、元報道カメラマンのハリー・ビーチ。彼の娘でカウンセラーにかかっているソフィー。1982年、別々の場所で暮らすハリーとソフィーの独白が、それぞれの状況下で交互に語られる。そこにハリーの亡き妻アンナと、ソフィーの夫ジョーの独白も挿入されている。

ハリーとソフィーには、ハリーの父で、ソフィーの祖父になる、ヴィクトリア十字勲章を授けられた退役軍人ロバート・ビーチの悲惨な死の思い出がつきまとっている。
ロバートは1918年に戦争で片腕を失って義手となった。その後「ビーチ武器製造会社」を経営するが、1972年、自家用車に爆弾を仕掛けられて死亡。現場にはハリーとソフィーもいた。
ロバートに反発していたハリー、祖父ロバートに可愛がられ彼を好いていたが、ハリーを嫌うソフィー。三代に渡るビーチ家の歴史は、20世紀の戦争の歴史と密接に関わっていた・・・。

********************

作中ではビーチ家の個人史と、世界各国の戦史が重なります。私には戦争が個人に関わるというよりも、個人が戦争にどう関わるのかという印象が強かったです。
『ウォーターランド』ではフェンズという特定の地域を基点にしていたけれど、この作品では特定の場所や時間ではなく20世紀の戦史(またはピーチ家三代の家族史)。ややもすると抽象的になりがちで、焦点がぼやけてしまった感じがしなくもなく、未消化という印象が拭えませんでした。

ラストでのハリーの上昇感は、いままでいた世界からの出口ではなく、これまでいたところから登りの階段に踏み出したぐらいのようにしか思えないのです。
私にはなんとなくですが、戦史もビーチ家の家族史も同じところをグルグル廻っていて、せいぜい階段を一段登ったら周囲の様相がちょっとだけ違っていたぐらいで、出口(解決策とでも言おうか)はないように感じられました。

「この世界」とは何か?あるいはどこか?一方には外的要因なら成る世界。ここでは戦争をする世界、戦争に関わる人々のいる世界です。もう一方に、個人の内的な世界(観)があります。
ハリーとソフィーが同じものを見ても、同じように感じないことは彼らの語りから明らかであり、二人の世界観は異なります。それは他人と共有することのできない内的要因から成る世界(観)であり、内的要因とは各人の生き方に関わるのだと思います。
つまり世界観とは、これまでどう生きてきたかよって構築されるのかもしれません。ためにハリーであれソフィーであれ、この世界(観)から逃れられない。
遂に逃れられなくなって向き合わざるを得なくなったがための、ハリーとソフィーの語りという作業ではないでしょうか。

ロバート、ハリー、ソフィーのビーチ家の人々は、お互いに相手の本心を知ることができなかった。
ハリーから見たロバート像、ソフィーから見たロバート像は微妙に違う。ハリーから見たアンナと、ソフィーの思い出のなかのアンナも違うように思われるんです。
ハリーは妻アンナを本当に理解していたとは思っていません。またソフィーから見たジョーは、ジョーの本心とは異なっています。
ハリーとソフィーの語りによって、ロバート、ハリー、ソフィーらの、自分が傷つきたくないがために人と本音でぶつかることを避けて生きてきたことが明らかになります。そのため意思を疎通ができなくなるのです。そのような父と子の関係が浮き彫りにされています。

そもそも彼らの関係が巧くいかない原因は、特にハリーにあると思う。彼はロバートとの関係を改善しようとせず、ソフィーには一切何も説明しないで、困難から逃げ出したからです。でもソフィーが、ハリーや世間のことを知ろうとしないことにも一因があるわけです。
そんなハリーとソフィーが、過去を語ることでそれぞれの胸の内を見つめ直して整理し、未来へと生きようとする。お互いのことを知ろうとすると言うよりも、お互いの存在を認めて接近しようとする。そのような物語なのだと思います。

でも、ハリーとソフィーの語りは、彼らの対人関係や様々な出来事が具体的に説明されません。これが訳者いうところの「大胆な省略や暗示」だと思います。
なので彼らの経歴や対人関係のアウトラインがわかるまで、何のことを話しているのか意味が掴みにくかった。事細かく説明してほしいとは言わないけれど、あまりにも省略されているので読みにくかったです。(2002/7/10)

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