スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ラストオーダー/グレアム・スウィフト

ラストオーダー
グレアム・スウィフト

My評価★★★★★

訳:真野泰
中央公論社(1997年9月)[絶版]
ISBN4-12-002722-8 【Amazon
原題:Last Orders(1996)


1990年4月、ロンドンのバーモンジー地区のパブ『馬車亭』に、肉屋のジャック・ドッズの遺言を執行すべく、3人の初老の男たちが集まった。ジャックの遺言は、自分の遺灰をマーゲイトの桟橋から海に放ってほしいということだった。

集まったのは、戦場でジャックと親友となったレイ。彼は元保険会社の社員で競馬好き。競馬の強運ゆえに、ジャックから「ラッキー」と呼ばれていた。そして元ボクサーで八百屋のレニー、葬儀屋のヴィック。誰もが戦争へ赴いていた。
運転手は赤ん坊のときに両親を爆弾で亡くして、ジャックの養子となったヴィンス。彼は中古車ディーラー。
ヴィンスはみんなをベンツに乗せてマーゲイトへ向う。レニーは娘サリーをめぐって、ヴィンスに敵意を抱いていた。
ジャックの妻エイミーは来なかった。彼女は施設にいる娘ジューンの面会に行っていた。これらの人々と、ヴィンスの妻マンディとジャック本人をも含めた各人の語りによってストーリーが展開。

各人が語る内容は時間軸に添ってはいない。初老となった男たちの生き様によって、戦前から戦後60年という時代に生きた人々の姿が形成されていく。
それぞれの過去や生き方、抱え込んでいる悩み、夫婦・親子の関係、戦前と戦後世代のギャップなどが次第に明らかにされる。
道中は海軍の戦没者追悼記念碑、ヴィンスの思い出の場所、カンタベリー大聖堂などへ寄り道。なんだかんだと酒をひっかけては進む。

********************

1996年、ブッカー賞受賞。
ロンドンの外れから、海辺のマーゲイトまでの一日の物語。と言ってロードムービーのような内容ではないです。ほとんどが各人の胸の内での回想であり、肝心のところは肉声で発せられないんです。
それぞれの利害が対立したりケンカもするけれど、ジャックの遺灰を撒くという一つの目的に向ってみんなの気持ちが収束する。ジャックの遺灰を撒く旅によって、各人が自身の人生を振り返り、いまの自分の社会的・家族的な位置と状況に向き合うんです。

各人には、様々な問題が未解決のまま山積みされています。ときには他人には明かされない秘密を抱え込んでいて、口に出されない事柄もあったり。仲間に悩みを打ち明けたり、共有しようとかいう気持ちがないんですね。
各人の胸の内で、自身の気持ちを辿って整理しているかのようです。悩みを抱えつつ折り合いをつけようとして、生きるために前進しようという気概が感じられました。
ヴィンスと彼の妻を別にして、全員が戦前~戦後の社会を生きた年齢であるがゆえに、当時の時代性と深く関わっています。各人の人生を語ることは時代を語ることでもあるのです。
しかし、時代の変化に伴って家族関係も変化しており、個人の生き方や選択肢も多様化した、と思わずにはいられません。

私が面白く感じたのは、特にレイの章がわかりやすいのですが、本当は他の人をどう思っているのか。そして他人の目に自分はこう映っている、他人からこう思われているだろう、という箇所がいくつもあること。
他人の目で自分をみるのではなく、自分はこうであるという、ある種自分自身の理想像を他人の目に求めているんですよね。このとき自者と他者とに認識のズレが生じるわけです。
ときにはズレが決定的な軋轢となったりします。このズレを作者は、シリアスにコミカルにユーモラスにと微妙に書きわけているように感じられました。
ズレの入り込む隙がなく、完全に自分自身であり続け、全き自分を誤解の余地なく完全に他者に理解させる。その方法の一つがジューンの状態であるのかもしれません。

ともすれば湿っぽい内容になりがちなところを、作者はところどころでユーモアを忘れません。
例えば、遺言でジャックが指定した場所は桟橋だなのですが、実はそこは桟橋ではないとか。マーゲイトに着いて、これから遺灰を撒く心構えをするであろうシリアスな場面を控えているのに関わらず、終わったら一杯やろうと、前もってちゃっかりと店の当たりをつけているところとか。すでにかなり飲んでいるのに!
彼らの旅はジャックの遺灰を撒くことであると同時に、彼らが生きてきた60年間を振り返る旅でもあり、ロンドンからマーゲイトまでの観光案内であり、ハシゴ酒の旅とも言えそうです。

ラストでは、利害や個人の悩みを越え、このときばかりは連帯感をもって遺灰を撒く。
ジャックが死んで次は自分かもと思い煩わせていたけれど、誰の上にも訪れる死を容認した上で限られた命をどう生きるか、という生へのしなやかさに満ちていて清々しく感じました。(2002/7/21)

追記:2005年10月、新潮社CREST BOOKSから『最後の注文』として復刊【Amazon】。訳者は同じ真野泰。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへにほんブログ村 本ブログ 海外文学へ

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

H2

Author:H2
My評価について
=1ポイント
=0.5ポイント
最高5ポイント

最新記事
カテゴリ
最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
検索フォーム
リンク
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。