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初秋/ロバート・B・パーカー

初秋
ロバート・B・パーカー

My評価★★★★☆

訳:菊池光,解説:郷原宏
ハヤカワ文庫HM(1988年4月)
ISBN4-15-075656-2 【Amazon
原題:EARLY AUTUMN(1981)


私立探偵スペンサーに、離婚した夫メル・ジャコミンが息子ポールを連れ去ったので、息子を連れ戻してほしいと依頼があった。だが、メルの居場所はわからないと言う。依頼主はメルの元妻でポールの母親パティ・ジャコミン。
スペンサーはメルの居場所を突き止め、ポールをパティの元へ送り届ける。

しかしポール自身は、父親と母親のどちら側に居ても、どうだっていいと言う。
メルとパティはポールの意思にはおかまいなく、互いへの駆け引きや嫌がらせのために息子を奪い合っていた。両親ともポール本人には全く無関心で愛情の欠けらもない。
そのためポールは、ちゃんとした服装も真っ当な食事も摂っておらず、誰にも打ち解けず部屋に篭り、何事にも無表情で関心を示さない。

スペンサーは、ポールは両親から自立すべきだと考える。15歳での自立は早過ぎるが、ポールが惨めな状態から抜け出すには最早それしか道はない。
そこでポールを預かり、自立するためのスペンサー流トレーニングを施す。だが、パティとメルの間で話し合いがつき、パティがポールを引き取りに来た。スペンサーは、パティにポールを引き取らせれば元の木阿弥になると考える・・・。

********************

タイトルを見て秋に読んだのですが、意味するところは季節(気候)だけではないのですね。
原書はスペンサー・シリーズの7作目とのこと。ジャンルとしてはハードボイルド。ハードボイルドとは何なのか、あまり読むことのないジャンルなのでよくわからないけれど、ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーの作品とはかなり違うような。
ハードボイルドということを意識せずに読めたのですが、結果としてこれはハードボイルドかもと思った。要するにハードボイルドに興味がなくても大丈夫だったということです。

本書は、実の両親にネグレクトされている少年の物語です。同時に、子どもの監護養育についての物語です。
小説ですが、ネグレクトとはどういう状態なのか、そのような環境で育つ子どもはどうなるのか、子どもの人権養護とは何なのかがわかりやすくまとめられているので、子どもの権利を考える上で、まず読んでほしい本です。

ジャコミン夫妻は子どもに無関心で、子どもを所有物してしかみていません。そんな親の元に居る子どもがどんなふうに育つのか。
一般的に、子どもは両親に愛されず何も構われずに育つと、自尊心が低下し、何事にも無関心・無気力になってしまいます。このことはフィクションではなく、子どもの心理学上、統計的に明らかな事実なのです。
80年代のアメリカで書かれた作品ですが、こうした親子関係が投げかける問題提起は、今日でも強まりこそすれ薄れることがないのが実態です。アメリカだけではなく、日本でも同様なのです。

スペンサーの恋人スーザンはポールのことを相談され、たとえ自分の子供が嫌いでも、親は子供を手放すことには反対するものなのよ。子供は所有物なの。/場合によっては、両親の唯一の所有物だわ(p200)
そして手放すことは、もっとも基本的な人間的条件に対する衝撃なの。/自分の子供をどうするかは、他人の知ったことじゃない、という考え方。(p200)と言います。このように親が子どもを所有物とみなす考え方は、現実にあるのです。
しかしながら子どもは親の所有物ではありませんし、肉親だからといって子どもの基本的人権を侵害してはならないし、そのような権利はないのです。このような養育者から子どもを守るためには、ときとして親権分離が必要とならざるを得ないのだろうと思います。分離せずに問題解決できれば、子どもにとって本当はいちばんいいのでしょうが。

スペンサーはポールを肉体的に鍛えようとします。スペンサーのやり方がすべてではないでしょうが、有酸素運動によって脳も身体機能も活性化するのだから、ポールのような少年には効果的なのかもしれません。
しかし、スペンサーが本当にポールに求めていたのは、ポール自身のルールではないでしょうか。
スペンサーのルールは彼だけのものであり、他人には適用できないでしょう。ましてや教えて憶えるものではなく、各自で確立していくしかない。トレーニングの真の目的は、自分自身で自分の可能性を見出すことではないかと思うのです。
自信というものは、何をやり遂げたときに、自分の可能性を発見して得られるものではないでしょうか。自信をつけることによって自尊心が向上する。そのことをスペンサーは、トレーニングを通じてポールに伝えようとしているのではないかと思うのです。

ポールはスペンサーと行動をともにすることによって、少しずつ変わっていきます。
やがてポールは、何を得るが、代償に何かを失う。それに耐えるポールの姿は、何かを吹っ切ったかのようであり、同時に吹っ切せざるを得なかった哀しみが感じられました。
そしてポールは大人になった。大人にならざるを得なかった少年の姿に、静かな哀歓が漂う秀作。また、含蓄のあるセリフや文章が豊富で、多彩な魅力ある作品でした。(2004/10/19)

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おはようございます

スペンサーシリーズとは、また変ったものを^^、
といっても私の方は、昔のおなじみ本でしたが。
ディック・フランシスの「競馬シリーズ」と同じで、ほぼ毎年一冊ずつでてくるのを楽しみに読んだものでした。ハードボイルド探偵小説としての評価は、きっとそんなに高いものではないんでしょうが、寝る前に一杯やりながら読む分には文句のない読み物でありました^^

No title

jacksbeansさん

ハードボイルドというのはどうも苦手なのですが、これは面白かったです。でもシリーズで読むには至ってないんですが。

ハードボイルド探偵小説は、ナイトキャップをやりながら読むというイメージがあります。ハードボイルドにはお酒を片手にして読むのが似合いそう。
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