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タイドウォーターの朝/ウィリアム・スタイロン

タイドウォーターの朝
ウィリアム・スタイロン

My評価★★★★

訳:大浦暁生
新潮社(1999年4月)
ISBN4-10-516404-X 【Amazon
原題:A TIDEWATER MORNING(1993)

収録作:ラブ・デイ/シャドラック/タイドウォーターの朝


いずれも米南部ヴァージニア州のタイドウォーター地方に住む、少年(後に青年)ポール・ホワイトハーストが主人公。ポールを通じて、彼の両親の姿が描かれています。
背景には大不況による南部の貧困、奴隷問題、戦争が深く関わっているのですが。『訳者あとがき』で触れているように、時代と場所、南部の精神風土を抜きにしては語れない作品集。
しかし時代と国はどうあれ、社会の矛盾に対する人々の悲嘆と苦悩、反戦の心持ちは、現在の私たちにも問題意識を投げかけていると思います。
どの作品も社会の矛盾に翻弄される人々の物語であり、人間の尊厳に関わるシリアスな問題を扱っています。しかしながら、そこはかとなくユーモアがあるのです。そのユーモアに救われる心地がしました。

ウィリアム・スタイロン(1925年~)は米ヴァージニア州のタイドウォーターで少年期から思春期を過ごしたそうです。冒頭『作者のことば』として、彼が20歳、10歳、13歳時の体験を元にしつつ、想像力で作り直したと語っています。
訳者の質問に対してスタイロンは、沖縄攻撃のどの船にも乗っておらず、1943年7月に海兵隊に入隊し、45年9月の除隊まで本国で訓練を受けていたと語ったとのこと。
従軍はノンフィクションだったわけですが、戦争を憂う学者然とした南部人の父親と、ガンに侵された北部人の母親の事は、現実の出来事だったのではないかと想像します。物語上の両親は『ラブ・デイ』と『タイドウォーターの朝』に登場し、どちらの作品も性格と家庭状況が同じなのです。

ラブ・デイ(Love Day.1985)
1945年4月、米軍第二海兵師団は、沖縄の東海岸に偽装攻撃仕掛ける陽動作戦Lデイ(ラブ・デイ。上陸作戦の日)を数週間後に控えていた。
小隊長の青年・主人公ポールとスタイルズは、初めて実戦に出れるとウズウズしていたが、彼らの師団は上陸せずにサイパンへ戻るというウワサが流れた。ポールとスタイルズは、真相を確かめるため中佐へ訊きに行く。
ポールは中佐のとりとめのない話を聞きながら、父親のことを考える。戦争を忌避しながらも生活のために軍艦造船所で働かねばならないことに、嫌悪と矛盾を抱き続けていた父親を・・・。
そしてポールは気づく。自分は本当は戦争を恐怖しているのだ、と。

********************

シニカルながらも捻ったユーモアを効かせた反戦小説。ラストでの皮肉の効いたポールの心情が秀逸。だが彼の父親が最も印象的でした。
工科大出の父は、確実に戦争が起こると予見しながらも、貧乏から逃れるために軍艦造船所で働き、経済崩壊の最中でも比較的にいい生活をしている。その矛盾を自ら家族の前で暴露するんです。
背景には当時の大不況があります。自身の本意に反しても、造船所で働かなければ生計が得られない現状に置かれているのです。
私は戦争を肯定するわけではありませんが、軍需産業が盛んになると経済状態が上向くことは否定できないですよね・・・。
母親は北部人で、大学出で自由主義的な思想の持ち主。しかし人種的偏見から逃れられず、戦争が起こるという現実を理解できないんです。そんな両親の姿が、なんだか哀しい。

シャドラック(Shadrach.1978)
1935年夏、少年ポール・ホワイトハーストが遊んでいると、百歳近い黒人シャドラックが現れた。
ダブニー農園の奴隷として生れたシャドラックは、南北戦争前にアラバマへ売られた。だが死期を間近にして、600マイルを踏破し、生まれ故郷の村へ帰って来た。シャドラックの願いは、ダブニー家の土地で死にたいということだった。
ダブニー家ではシャデラックが死んだら、農園の外れにある先祖代々の墓地に埋葬することにした。
だが、今の法律では私有地に埋葬することは法律違反となるので、35ドル払って葬儀屋を雇って教会墓地に埋葬しなければいけない。
しかしかつては富裕だったダブニー家だが、零落したいまでは35ドルというのは大金で、5ドルすらなかった。

********************

黒人奴隷として生まれ育ち、後に奴隷から開放されたはいいが、今度は非公認の奴隷状態に追い込まれたような状態のシャドラック。彼の人生は一体どんなものだったのだろう。
公認の奴隷制度が廃止されることは、奴隷から開放されて小作人になることもできるプラス面もあるけれど、ある意味彼らを他者から守っていた主がいなくなってしまうマイナス面もあるように思われます。人種差別がなくならない限り、奴隷制度を廃止しただけではダメなんですね。

有体にいえばシャドラックという人間の尊厳の物語でしょうか。彼の人生と墓地を巡る、現実と法律との乖離及び矛盾が突かれています。
ダブニー家の当主ヴァーノン・ダブニーは、シャドラックを埋葬してやりたいけれど、35ドルも取られると嘆く。その姿はもの悲しく絶望的ですらあるけれど、どこか滑稽ですらある。南部の奴隷制度と貧困という深刻な問題を扱いつつ、そこはかとなくユーモアが漂っていました。

タイドウォーターの朝(A Tidewater Morning.1987)
1938年、ヒトラーがドイツ軍を集結していたとき、13歳のポールは新聞配達で僅かながらも給金を得ていた。
週9時間働いて2ドル5セントだが、しかも余分の仕事も含まれている。雇い主で雑貨屋を営むクイグリーさんはケチで、しかも何かと給料から差し引く。
ポールの母親アデレードは、末期ガンのため死の床にあった。プラハがドイツ最後通告を持っている日、それはポールが新聞を川に投げ捨てた日、母親が死んだ日・・・。父親は牧師に神への不審を露わにする。

********************

妻(母)アデレードの死に、憤然と神への不審と怒りを露わにする夫(父)。父親は妻が愛したドイツ音楽のレコードをかけ、ポールに自分の言葉を復唱することを命じる。
父親の言葉には彼自身の悲嘆と絶望がこもっているのではあるけれども、同時に暗雲立ち込める時代に育つポールに、自分の自身の目で見、耳で聞いて判断せよと伝えているかのようでもある。(2004/8/7)

追記:2006年 11月に逝去。享年81歳。

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