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廃墟の上に/テーハ・スリ・ラハユ・プリハトミ

廃墟の上に
テーハ・スリ・ラハユ・プリハトミ

My評価★★★☆

訳:舟知恵
紀伊國屋書店・アジア女流作家シリーズ(1997年7月)
ISBN4-906510-94-9 【Amazon


私(ヤユック)は、列車の中で友人のアリニと再会した。アリニは私に、自分の日記をすべて読んでほしいと言う。日記にはアリニの感情が包み隠さず吐露されていた。

1969年12月20日、アリニは夫マス・ハルディとの家を出て、子どもたちとともに叔母の家に身を寄せていた。
教職に就く夫は、教え子のレトノを妻として家に住まわせると言ったため、それにアリニは耐えられなかったからだった。
カトリックとして育ち教会で結婚したアリニにとって、一夫多妻制は許容できないものだった。だが夫は一夫多妻制を当然のこととし、アリニが従わないことを理解できない。彼はレトノもアリニも愛しており、三人と子どもたちとの生活を望んでいた。
法律はマス・ハルディに対して何の拘束力をもたない。インドネシアの慣習では一夫多妻制は認められているから。
義父母はアリニに同情しても、世間の目は夫に従順でない彼女に冷ややかだった。

一人の子を残し、二人の子を連れて家を出たアリニは、かつての恋人ヘンドラの求愛を受ける。しかし、常に罪の意識に苛まれていた。
法律ではアリニはいまだ妻なのだし、なにより教会の教えに反している。子どもたちのこともあった。
アリニは不安に蝕まれつつも、すべてを罰と受け止めて己の心の内に留め、やがてヘンドラとの家庭を築き始めるが・・・。

********************

略歴によるとテーハ・スリ・ラハユ・プリハトミ(1944年生れ。インドネシア)は、ジャワ貴族の系譜に連なる女性作家。インドネシアの大学で教授として勤めているとのこと。
本作は1970年代初頭のジャワを舞台にした作品。訳者あとがきによると、「2人目以上の妻」を原語では「madu」といい、2人目以上の妻を迎えるときは、最初の妻の承認が必要とされるのだそうです。
2人目の妻は、第二夫人とか側室、内縁の妻という意味ではなく、あくまでも「妻」であり、初めの妻と同等の立場のようです。

カトリック教会で結婚式を挙げたにも関わらず、平然とアリニに多妻を認めろと言うマス・ハルディ。このことを訳者は実にジャワ的な考え方だと述べています。
一方、上流家庭に育ってカトリック教徒として洗礼を受け、上流家庭に嫁いだアリニ。教養も自尊心もあるのだけれど、それが反って男性優位社会で仇になってしまう。
アリニはマス・ハルディを愛している。しかし根本から考え方が違うために、理解したり許容することができない。彼女は因習を捨てて、あくまでも自己を貫き通そうとするのですが、そのために常に苦しみ続けるんです。
彼女が苦しむ原因の一つは、信仰と古来からの慣習が相反するからなのですが、どちらも男性優位であり、信仰も慣習も女性に忍従を強いる点において違いはないでしょう。
一女性が自分の人生を自分なりに行きたい、離婚や再婚をしたい。しかし自分で選択し実行することが、社会的に困難なのです。

アリニに比べると、マス・ハルディとヘンドラは非常に楽観的。
彼らはアリニのように、罪の意識や苦しみを感じることはない。それは彼らが初めから選択権、自分の考えで行動できる権利をもっているから。当然のように持っている権利を行使するのに、まず悩む者はいないでしょう。男性が自分の裁量で行なったことに対しては、社会が寛容なんですね。
そのような社会で、彼女のように自分なりの幸福を追求する女性は、周囲との摩擦を生じざるを得ない。道徳的に正しいかどうかではなく、慣習という見地から、自分が悪いのだと追い込まれるのではないかと想像します。

私はアリニが奔放だとは思いません。自分がどうしたいか、何をしているかを認識し続けている理知的な女性だと思います。そんな彼女でも、余生をどう過ごすのか以前に、女性が自分の人生を自分で選択できる権利をもつことが困難な社会なわけです。
これは個人レベルで解決できる問題ではありません。70年代初頭における女性の立場から、女性にとっての社会変革の必要性がよくわかり、変革を希求していることを強く感じました。(2002/2/16)

アジア女流作家シリーズ(全5巻)
斑布曲(バンブーチゥ) 彩りの道(孫愛玲,シンガポール)
+廃墟の上に(テーハ・スリ・ラハユ・プリハトミ,インドネシア)
魔術師(グエン・ティ・トゥ・フェ,ヴェトナム)
世紀末の華やぎ(朱天文,台湾)
或る失踪(シン・ギョンスック,韓国)

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