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魔術師/グエン・ティ・トゥ・フェ

魔術師
グエン・ティ・トゥ・フェ

My評価★★★

訳:加藤栄
紀伊国屋書店・アジア女流作家シリーズ(1997年7月)
ISBN4-906510-95-7 【Amazon

収録作:人生半ば/麗しの人/遺産/未婚の女/魔術師


ヴェトナムの女流作家グエン・ティ・トゥ・フェ(1966年生れ)による、ドイモイ(刷新)政策以後の現代ヴェトナム都市に住まう庶民(主に女性)の、家庭生活を描いた短編集。訳者あとがきによると、作者はハノイにある国営テレビ局に勤務しているとのこと。
作者の描くヴェトナム社会と人々は欧米化されていて、日本人が読んでも違和感はなかったですね。歯切れやテンポよくて読みやすい。欧米の情報が集まるテレビ局勤務の影響があるような気がします。

主人公の心情は現代の日本人にもあてはまり、同時代的に共通した悩みなのでしょうか。女性の心の底に秘められて、普段は窺い知ることのできない感情が巧みに表現されています。
男性が読むと、女性心理の不可解さがわかると思うのですが。男性より女性のほうが、共感できる人がいるのではないでしょうか。
ただ、ラストがいかにも作り事めいた短編もあり、劇的さを狙うテレビドラマ、昼メロっぽく思われ、読者に阿っているような感じが否めなかったです。

人生半ば
夫と幼い子どものいる30歳代のランは、家族にウソをついて48歳のタンと旅行に出かける。古都ホイアンから海辺へ向かい、そこで二人だけで2週間近く過ごす。タンには妻がおり、どちらも不倫だった。
ランはタンに、家族を捨てて二人で暮らしたいと言う。だが、タンは妻との生活を壊すつもりはなく、二人が一緒になっても幸せになれると思っていない。
タンの態度に苛立ちながらランは帰途につく。二人は夜8時に、ランの家の近所で会う約束を交わす。しかしランが帰宅すると、家の中から女声が聞こえた。自分の留守に夫ハーイが女を連れ込んだ!?

********************

家庭とアバンチュールを使い分ける男と、夫に不満はないがあまりにも平凡な生活がもの足りなくて、夫とは違うタイプの男に惹かれる女。男が悪いのか女が悪いのかは別として、両方を得ようとする男女のエゴイズムが描かれています。
ついさっきまで家庭を捨てようとしていたランが、夫が自分の留守中に女を連れ込んだと思ってからの、心情の変化が巧みでした。

麗しの人
一人暮らしのサオは、男性に声をかけられて付き合うことも多く、結婚を申し込まれたこともあった。恋多き女だけれど、自尊心は強く、結婚より仕事を選んだ。
だがいまは幾日待てども、恋人は訪ねて来ないし、電話一本かかって来ない。男友だちに電話するが、みんな留守。
サオは次第に苛立ち焦燥感に駆られ、誰でもいい、誰かが訪ねて来ないかと心待ちにするが・・・。

********************

愛されたいばかりで愛することを知らないサオ。そんなサオの孤独を、誇張されてはいるが真正面から描いた作品。自分では若いと思っていても、知らぬ間に忍び寄っている老いも。
サオの焦燥感、不安感がジリジリと伝わっきました。でも、それは結局のところ自分では自尊心が強いと思っていても、他人に依存しているからなのでは。
刺激を求めるのが悪いというわけではないけれども、他人から刺激を与えられることに依存しているように思います。自分の生活を持たないサオの生き方は、私はつまらないと思うんだけど。

遺産
やり手で働き者のヴィおばさんには、成人した二人の息子と末娘がいる。
ヴィおばさんは裕福に暮らしているが、いまでも節制に励んでいる。ある日、おばさんが転んでケガをした。しかし息子たちは仕事もあって、家のことに見向きもしない。役者の末娘は付き合いなどもあり、ほとんど家にいることがない。
ヴィおばさんは治るまで寝たきりでなので、子どもたちは母親の世話をして、炊事や掃除をしてくれる人を雇う。
ろくでもない雇い人は次々に変わり、田舎から来たホンという少女はよく尽くしてくれたが、家庭の事情を知ったおばさんは、ホンに田舎へ帰るよう勧める。しばらく経ち、末娘が帰宅すると、母親が戸口に倒れていた。

********************

親が倒れたときに子どもたちはどうするか?親がいけないのか子どもがいけないのか。まあ、無情な子どもを育てた親にも責任があるのではないかと思いますけどね。
舞台はヴェトナムですが、この短編のような出来事は現実にどこでもありそう。いや、あると断言。ただ不可思議なホンの家庭は、日本では考えられないから、やはりヴェトナム特有なのかも。ホンによって、都市と田舎の生活水準の落差がクッキリと書かれています。
この短編は多少ぼんやりと、そしてしんみりとしたラストがなんとも言えずよかった。ラストで一家の生活は秩序を取り戻すのですが、末娘はある歌詞が頭から離れないんですね。

未婚の女
水牛や田んぼしかない田舎から出たいと願うミー。彼女は旅回りの一座について行こうとしたが、男に騙されてしまった。
ミーは帰省していた姉の夫ズオンと肉体関係をもち、都会で暮らす姉の家に居候する。
姉は夫と妹の関係を知り、ミーはまだ若いから愛が何かわからないのだと諭す。しかし、ほしいものを絶対手に入れるミーは聞く耳をもたなかった。
一年半後に姉が亡くなり、ズオンは葬儀に出席するため田舎へと向う。ミーはズオンの留守中に産気が近づき、付き添いもないまま一人で入院する。やかで赤ん坊が産まれるが・・・。

********************

血の繋がった姉の家庭を崩壊させてまでも、自分の欲望を貫き通そうとするミー。ミーもなんだけれど、やはりズオンに責任があると思う。男のいい加減さに翻弄される女たち、という意味にもとれるからです。
ラストはかなり道徳的なのですが、赤ん坊や、似たような環境で成長した人たちの人権を無視しているんじゃ・・・。小説とはいえ、こんなラストが許されるとは。日本でこんなラストが書かれたら、問題になると思うな。

魔術師
夫婦仲が悪く怒鳴り散らしケンカしてばかりで、部屋を壁で仕切って別々に暮らす両親。両親は離婚調停をしている最中だ。言い争う両親の姿を見て育った12歳の娘は、元々両親の中が悪いのだと思っていた。
ある夜更け、彼女がふいに目覚めると、隣りに寝ていた母親がいない。そして父親の部屋で、裸のまま寄り添って眠っている両親の姿を見る。
少女にはいがみ合う昼の顔と、自分が眠ったあとの親密な夜の顔を持つ両親が、不可解な魔術師のように思えた。どうして両親がそんな態度をするのか、わけがわからない。
大人になれば理解でき、自分の好きなように行動できるのだろうか?彼女は、大人にはなりたいと思うけれども、大人になることが恐ろしかった。

********************

ケンカしてばかりの両親だが、実は馴れ合っていただけとは、12歳の少女には理解し難いでしょうね。その理解し難さ、建前と本音を使い分ける大人に対する疑念、不安感。そして自身の性への不安、それらを理解して解放されたいという熱望が、少女の目を通して語られています。
物語の途中まではいいのですが、悲惨なラストが私は好きではありません。安易なラストがいただけません。必然性のない、お涙頂戴式の三流ドラマ的なラストにしなくても、この作者だったらもっと納得できる結末にすることができたろうに。(2002/4/29)

アジア女流作家シリーズ(全5巻)
斑布曲(バンブーチゥ) 彩りの道(孫愛玲,シンガポール)
廃墟の上に(テーハ・スリ・ラハユ・プリハトミ,インドネシア)
+魔術師(グエン・ティ・トゥ・フェ,ヴェトナム)
世紀末の華やぎ(朱天文,台湾)
或る失踪(シン・ギョンスック,韓国)

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