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世紀末の華やぎ/朱天文

世紀末の華やぎ
朱天文(Zhu Tianwen)

My評価★★★

訳:小針朋子
紀伊国屋書店・アジア女流作家シリーズ(1997年7月)
ISBN4-906510-96-5 【Amazon

収録作:柴師父/ナイルの娘/世紀末の華やぎ/昔日の夢/赤いバラが呼んでいる


台湾の現代女流作家・朱天文(Zhu Tianwen,1956年生まれ)の短篇集。
朱天文は日本人ではなじみがないでしょうが、侯孝賢(ホウ・シャオチェン)監督による映画『非情城市』(1989年,台湾)の脚本を担当した作家なのです。ちなみにこの映画は、ヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞しています。
『非情城市』好きなんです。なので期待して読んでみたのですが、この短篇集は非情城市とは内容も雰囲気も異なっていました。

『柴師父』では農村に住む老人を主人公していますが、それ以外の短篇では、経済発展や都市開発の進む現代台湾の都市住人、主に若者の姿を描いています。アメリカや日本からモノや情報がどんどん流入し、都市ではモノが溢れている。一方で都市部と農村地域との経済格差が進んでいる状態。
最先端を行く若者たちは溢れるモノを求めて、それらに囲まれながらも、モノからは得ることのできない何かに飢えている。若者たちの姿は80年代の日本人とさほど変わらないようで、違和感を感じなかったです。一方、古い時代の人々や生き方は廃れつつあります。
都市部の現状がよくわかるのですが、私としてはその先を知りたかった。どうすればいいのか、どう生きるのがいいのか、という作者の方向性を知りたかったです。

ただ、作者の個人的な見解なのか、実際に台湾人がそうなのかわからないのですが、歴史的背景や中国など周辺諸国との関係のためか、この短編集に登場する若者たちは、先天的に独立心・自立心が強いように思われます。そして現実をシッカリ把握している。彼らは案外にリアリストだな、と思いました。

柴師父
整体(気孔術)師の柴明儀(チャイミンイー)は、南西部に息子たちと暮らしている。息子たちは隣りの棟で、MTV(店内の個室でビデオが観れる、貸しビデオ店の一種)を開いていた。
柴先生は老いてはいるが、整体の技は確かだ。彼の元には友人知人たちや、若い娘が台北盆地の向こうから通って来る。いつしか柴先生は、娘が来るのを心待ちにしていた。
彼は若い頃に様々な職と場所を転々としたが、いまは老いて時代の波に晒されながらも長閑に暮らしている。

********************

欧米や日本から流入されて溢れるモノと、廃れつつある旧文化を代表する柴先生。柴先生は社会の変化にあまり興味がないようだけれども、片隅に追いやられている感がありました。
でもこの作品では、おそらく新旧の文化の対立を描きたかったのではないのでしょう。新旧の社会の変化という状態を通して、モノへの欲望が良くも悪くも人々(主に若者)に与える精神的な影響に主眼を置いているのです。

ナイルの娘
小さい兄と義兄弟のシャンを内心ではメンフィスと呼ぶ、キャロルこと林暁陽(リンシャオヤン)。またの名を聖子。
暁陽と兄とシャンたちは、苦海グループを作っていた。暁陽は補修学校に通いながらマクドナルドでバイトする。兄は盗みをしていたが、いまでは足を洗って、シャンたちと一緒にPUBと洋服店をやっている。
兄の忠告を無視して大金が必要になったシャンに、暁陽は兄から預かったお金を渡す。

********************

キャロルとは、日本の少女マンガ『王家の紋章』のヒロインの名前。どことなく映画的な展開の作品でした。
日本とアメリカ文化が混在する中で、若者たちと家族の姿を追っています。各国の文化が混淆している状態なのですが、本来の台湾特有の文化が感じられないのです。借り物の文化と借り物の価値観。そのためか、人々の生活が浮き足立っていて、どこにもなじめないでいるように感じられました。

世紀末の華やぎ
25歳のミアは、42歳既婚の実業家を恋人に持つ。ミアの記憶は匂いと結びついている。彼女の記憶は80年代から90年代のファッション・シーンを駆け巡る。
ファッションが好きで流行を先取りし、モデルとなったミア。メンズノンノ、コム・デ・ギャルソン、セクシャルな下着を見えるように着るマドンナ、ユニセックス、レトロブーム、フェイク・ファー。イッセイ・ミヤケ、サン・ローラン、ヴェルサーチ・・・。
そんなミアだが、ハーブティーや入浴剤の配合、押し花、手漉き紙を手作りする。それは彼女の嗅覚の嗜好であるとともに、鮮やかな花の色と香りをとどめておきたい願望だった。そして、一人で生きていくための練習でもあった。

********************

ミアを通じて80年代の雰囲気を表現した作品。80年代のファッション・シーンを通じて一人の女性の生き方を辿っています。
台湾のファッションが、日本の同時代とシンクロしているのがわかりますね。もっとも日本のファッションも、パリやニューヨークから発信されたものを取り入れているのですが。
率先して刹那的な流行を追いながらも、時代によって変わらないものを求めているミア。ミアにとって変わらずに信じ続けられるもの、それが嗅覚なのでしょう。
同時代の日本の小説と微妙に違うのは、ミアが周囲に流されたり真似をしたりしたのではなく、自主的に流行を取り入れていたことと、おそらくは初めから彼女には独立心・自立心があったのだろうと思われるところ。彼女にとって良好は、一種の手段といえるのかもしれません。

昔日の夢
講演に引っ張りだこの男の前に、一人の若者が現われた。義理の姉・許素吟(シュスーイン)が亡くなり、遺物から男の記事の切り抜きが出て来て、許素吟はその写真を大事にしていたと言う。
後日、男は若者と会い、許素吟と出会って二人が過ごした横丁へと案内する。
若者は男を「作家の先生」と敬うが、男の内心は複雑だった。男の創作能力はとうに消え失せ、講演をすることで人々から忘れられずにいて、地位と生活レベルを維持しているからだった。

********************

かつての恋人の義理の弟によって、忘れていた過去を振り返った高名な作家。男が思い出したのは、純粋に創作に励んでいた若きころの自分。たが、いまは創作能力も意欲も失せ、当時の高邁な精神もなくしてしまった。それでも地位と生活レベルを維持するために、数多くの講演をこなす。
理想をなくしても地位にしがみつく男。作家のあり方を問いかけているのと同時に、一人の人間としての生き方に対して問いかけていまする。職種は違っても、主人公の境遇に思い当たる人は結構いるんじゃないのかな。

赤いバラが呼んでいる
みんなから「翔(シャン)兄さん」と呼ばれる、テレビドラマ制作部の中年男。
朝鮮の血をひく中国人の彼は、台湾語に北方人特有のアクセント、じゃがいも顔で、大根のキムチを愛している。仕事柄、時間が不規則で夜になると活気づく。自宅にいるよりもネオンサインに囲まれていることが多い。
彼は結婚十周年の祝いに、何を妻に贈ったらいいか悩んでいる。その妻は近所の奥さん連中と、空き地で朝のエアロビクスをしている。
妻は日本語を勉強しており、子どもたちも片言の日本語で会話するが、翔兄さんには妻と子どもたちが何を話しているのかサッパリわからない。

********************

空き地にトタン屋根を付けて、雨でも使えるようにしようとすることで、妻は休日で自宅にいる翔を引き連れて、奥さん連中と共に直談判に行く。さすがの翔兄さんでも、おばさんパワーの前には手も足もでないのが可笑しい。どこの国でも変わらないんだなぁ。
そんな翔兄さんだけど、ちゃんと結婚十周年のプレゼントを考えていて、彼なりに家族のことを想っているんです。しかし妻はどうかというと、翔兄さんとは根本的に理想とする生活ビジョンが異なるわけですよ。
テレビ局に勤めてそれなりに先端を行く翔兄さんだけれど、妻と子どもたちの言葉を理解できない。彼はいったいどんな気分なのでしょうね。

この家庭は、価値観の多様化によって家族でも理解できなくなっている状態。日本でも、家庭の問題として取り上げられている状態です。コミカルなタッチですが、実はかなりシリアスなテーマ。
価値観の多様化とは、人々の選択肢が増えたということだから一概に悪いことではないでしょうが、家族間で会話が成り立たなくなっているのは問題でしょう。
私は、翔兄さんが家族とともに過ごす時間が作ってこなかったのいけなかったんだと思うけどね。こうした状態を打開するには、何か一つでいいから家族共通の趣味をもつといいと思います。(2002/11/10)

アジア女流作家シリーズ(全5巻)
斑布曲(バンブーチゥ) 彩りの道(孫愛玲,シンガポール)
廃墟の上に(テーハ・スリ・ラハユ・プリハトミ,インドネシア)
魔術師(グエン・ティ・トゥ・フェ,ヴェトナム)
+世紀末の華やぎ(朱天文,台湾)
或る失踪(シン・ギョンスック,韓国)

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