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ヘレネー誘拐・トロイア落城/コルートス/トリピオドーロス

ヘレネー誘拐・トロイア落城
コルートス/トリピオドーロス

My評価★★★☆
ヘレネー誘拐・トロイア落城訳・解説:松田治
講談社学術文庫(2003年2月)
ISBN4-06-159586-5【Amazon

収録作:ヘレネー誘拐(コルートス)/トロイア落城(トリピオドーロス)


ホメーロス(紀元前8世紀頃,ギリシャ)から数世紀後に、ギリシァ本土外の詩人(コルートスは小アジア、トリピオドーロスはエジプト出身)によって書かれたトロイアもの2篇。

かなり薄い本で、どちらも散文訳でとても短いです。解説によると「エピュリオン」(百~六百行ほどの短い叙事詩)というジャンルになるそうです。長大な叙事詩から単一(特定)のエピソードをとりあげて、それだけを綴った短縮叙事詩とのこと。
短いため物語を堪能するというのはちょっと。物語としての面白味はさほどあるとは思えないんだけど。ただ、トロイア戦争に興味があるので、資料としては興味深い2篇でした。

2篇合わせて、戦争の発端から結末までのヘレネーの行動を追うことができるんです。
ヘレネーは絶世の美女ということだけれど、それ以外の点ではいまひとつよくわからない人物。男性詩人によるものだから、いまいちヘレネーに対してそっけないような気がするんですよねえ。
もしかするとすでにあるのかもしれないけれど、女性によって解釈されたヘレネー像を読んでみたいものです。おそらく男性の視点とはかなり異なるのではないかと思うんです。

ヘレネー誘拐/コルートス(5、6世紀頃)
ペーレウスとテティスの結婚に招かれなかったエリス(不和・闘争の女神)が、饗宴の席に黄金のリンゴを投げ入れた。三女神は、黄金のリンゴを手中にしようとするため美貌を競う。
その審判に、ゼウスによってトロイアの王子パリスが選ばれる。アプロディーテーは、絶世の美女ヘレネーを与えることを条件に自分を選ばせる。
早速パリスは海路スパルタへ向かい、ヘレネーに会う。ヘレネーは夫メネラーオスと娘ヘルミオネーを捨てて、パリスに付いてトロイアへと駆け落ちする。

********************

解説によると、コルートスの生地はわからないけれど、エジプトのリュコポリスにいたことがあるそうです。彼は「エジプトのキリシャ人」と称されていたとか。当時は、東ローマ帝国の皇帝アナスタシウスが統治(491-518年)していた頃。

トロイア戦争の発端者として名高いトロイアの王子パリスと、スパルタ王メネラーオス(兄はアガメムノーン)の妃で絶世の美女ヘレネー。
内容は、黄金のリンゴを巡ってパリスが美の審判に選ばれたこと、スパルタのヘレネーを誘拐(ヘレネーの駆け落ち)して、トロイアに至るまでの顛末。
あまりにも有名な話ですが、まとめて記述されたものは、現存するものでは本作しかないのだそうです。意外ですねえ。
戦争前のパリスとヘレネーの行動を追おうとしたら、各詩人によって断片的に書かれたものを繋ぎ合わせるしかないんですね。そういう意味において、トロイア戦争に興味があるなら、一読の価値があると思います。

しかし、なぜパリスが審判に選ばれたのかには、まったく触れられていません。そこが最も重要な点だと思うんだけど。古代の詩人たちは気にならなかったのかなあ。
これについては松田治『トロイア戦争全史』を読むと、うっすらと手掛かりが掴めるような気がします。ヘレネーがメネラーオスと結婚するまでの経緯もわかります。

一人だけ饗宴に招かれなかった女神エリスが災いをもたらす。その出来事は、王子または王女の出生祝いに招待されなかった妖精あるいは魔法使いが、その王子/王女に呪いをかけるという童話を思い浮かべました。
童話ではよくあるパターンですが、このエリスの一件が起源なのかな。

トロイア落城/トリピオドーロス(4世紀半ば)
戦争開始から十年、アカイア勢(ギリシャ)がトロイアを蹂躙して去っていくまでが簡単に語られています。
アカイア勢は、戦況を打開するために木馬を造る。エイペイオスによる木馬造りの様子、木馬の外観と構造に焦点が当たられた一篇。
木馬が完成すると、アカイア軍は退却すると見せかける。シノーンの詐術により、トロイア軍は木馬をアテーネーに嘉納すべく城塞に運び入れる。カサンドレーの予言は無視された。
トロイアを裏切りアカイア勢に付くヘレネー。トロイアは陥落し、ヘレネーはメルラーオスと再会して祖国へと向かう。
老王プリアモスは殺されるなどトロイアが蹂躙される最中、アプロディーテーは息子アイネイアースと夫アンキーセースを脱出させた。

********************

トリピオドーロスはエジプト出身の文法家・詩人で、記録には他の作品名もあるけれど、残存するのは本作だけなのだそうです。
訳者は作品の成立年代を4世紀半ばではないかとしており、コンスタンタテヌス一世による東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルの建都(遷都)との関わりを指摘しています。それによると、ローマがその起源と正統性をトロイアに求めたように、東ローマ帝国はトロイアに連なることでローマを継承しているというプロパガンダ的作品となるそうです。

原題は『イーリオン占領(ハローシス・イーリウー)』。木馬の製作過程及び構造が詳しく書かれている一篇なのだそうです。読みどころはこの点に尽きると思いますね。
トリピオドーロスはクイントゥスの『トロイア戦記』からヒントを得ているとのこと。私は現時点では未読ですが、木馬作り以外ではクイントゥスを読めば充分ではないのか、という気がしています。

解説で触れられているけれど、本作ではアカイア勢によって木馬に車輪が付けられたのですが、ヴェルギリウスの『アエネーイス』ではちょっと違うのだとか。
確認してみるとウェルギリウスは、木馬を城塞に運び入れる際に、トロイア勢によって車輪が取り付けられているんです。こうした相違は、ウェルギリウスが別の種本を利用したことを示しているのだそうです。たぶん種々の異本があるんでしょうね。
でも、アカイア勢が自ら車輪を付けるのは不自然でしょう。トロイア勢を騙そうとするシノーンの話と矛盾してるし。

トロイア陥落前夜と陥落後のヘレネーの行動も書かれているのですが、情動的なところ(悪く言えば分別のなさ)が強調されているような。ヘレネーの心情はどうだったのだろうと思わずにはいられません。
夫と娘を捨てて出奔したから、今更スパルタに戻りたいとは言えない。周囲のトロイア人から白い目で見られても、唯唯諾諾と従って耐えるしかないと思うんですよ。
先に書いたように、男性視点でヘレネーを理解しようとするのには限界があるのではないかと思うんです。トロイア戦争に登場する女性たちは、男性とは異なる論理で動いているような・・・。なので女性視点で解釈されることで、これまでのヘレネー像とは違う面が見えてきて、ヘレネーの行動も理解できるようになるのかもしれないと思うのだけれど。(2011/11/17)

トロイア戦争全史(松田治)
アエネーイス(ウェルギリウス)

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