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エドウィン・マルハウス/スティーヴン・ミルハウザー

エドウィン・マルハウス
スティーヴン・ミルハウザー

My評価★★★★★

訳:岸本佐知子
福武書店(1990年11月)[廃版]
ISBN4-8288-4011-7 【Amazon
原題:Edwin Mullhouse:The Life and Death of an American Writer 1943-1954 by Jeffrey Cartwright(1972)


副題に『あるアメリカ作家の生と死(1943-1954)ジェフリー・カートライト著』とあり、ジェフリー・カートライトによるエドウィン・マルハウスの伝記・・・という小説です。
ジェフリーはエドウィンが生まれたときからの幼なじみ。エドウィンは11歳でアメリカ文学史上に残る傑作『まんが』を書いた。ジェフリーもまた11歳で、エドウィンの生涯を伝記に著した。
その後ジェフリーの書いた伝記は絶版となり忘れ去られるが、偶然に彼と同じ学校に通っていたウォルター・ローガン・ホワイトが発見して復刻。その復刻版がこの本。
しかしジェフリーは行方不明で、彼の捜索はいまも続けられている。

物語はエドウィンが生まれてから、何をどう感じどんな生活を送ってきたか。なにげないエドウィンの生活からどうやって『まんが』が醸成されて創作され得たのかが、ジェフリーを通して語られる。語りと騙りが巧妙に錯綜してゆく。

********************

この作品を紹介するのはとても難しい。ジェフリーとエドウィンについて、いろいろな解釈ができるから。私自身はいまだ消化しきれていませんが、現時点での感想を残しておこうと思います。読み違えているかもしれないけれど。

エドウィンの生活(世界)に触れているとき、私はとうに忘れていた幼少期の様々な記憶の断片が思い出されました。
彼の世界は、原色のセロファンに包まれているような様々な玩具に満ちている。他人にはガラクタに見えても、大切な宝物だったモノたち。玩具の色鮮やかさ、初めて経験する雪景色、駅の待合室での遊び、地下室という異界・・・。そんな世界がカレイドスコープのように拡がっていくんです。成長することで失ってしまった世界が、ミルハウザーによって目の前に幻出するようなのです。
と言っても感傷的だとか叙情的なのではないんですね。一人間にとっては確かに実在した世界なので、たんに事実を記しただけ、というような淡々とした印象を受けました。しかもそこには不安も恐怖も暴力もあるので、センチメンタルとは無縁。昼の光のもとでの描写が輝かしいほど、夜の闇に惹かれる部分が一層明瞭になっているよう。

ジェフリーはエドウィンを観察し、ときには批判しながらもエドウィンを天才として扱っている。否、そう思わせようとしている。
エドウィンは本当に天才だったのか?
私が思うに才能はあったかもしれない。でも癇は強くてもごく普通の子どもで、天才ではなかったんじゃないのかな。
確かにエドウィンは『まんが』を書いた。けれども、エドウィンを天才に仕立てたのはジェフリーなのだ。なぜなら、芸術家は芸術を生みだすが、伝記作家は、言ってみれば、芸術家そのものを生み出すのだから。(p119)
そしてジェフリーは、どうすればエドウィンを天才のままにしておけるのか知っていた。ジェフリーは天才の伝記を書くことによって、まんがとその作者エドウィンの存在を知らしめた。
いくら才能があったとしても、周囲に認知されてこそ初めて天才と言われる。エドウィンを天才にすることによって、ジェフリーは自分の才能、エドウィンへの優位性を誇示しているような気がします。エドウィンの伝記なのにジェフリー自身の個性が強く感じれるのです。それはジェフリーはエドウィンについて書くことによって、自分自身を描いたからではないでしょうか。

しかしポール・フーパーの登場によって、ジェフリーがエドウィンを「興味ある対象」としか捉えていなかったことが明らかになると、ジェフリーの性格が猟奇性を帯びてくる。
そして、ジェフリーとエドウィンの関係が微妙になると、作品自体の解釈がガラリと変わってしまい、ジェフリーの失踪は家出というようなものではなく、事件の匂いさえ漂ってくる。
「解釈なんか必要ない」と言われるとそれまでですが、依然として謎は解明されずに残る。ひょっとすると作者は、解釈とか知ったかぶりに言われることを拒否しているのかも。

ともあれ子どもが感じる世界を描かせたら、ミルハウザーのような作家は他にいないのではないでしょうか。稀有かどうかは私には判断できませんが、非常に特異な作家だと思います。
でも初めてミルハウザーを読むなら、この『エドウィン・マルハウス』はちょっと手ごわいかも。まずは短編で作者の世界に慣れてからのほうがいいのではないかと思います。(2001/9/21)

追記:2003年8月、白水社から復刊しました。【Amazon

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